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あまりてなどか 雨宮恋しき―花蜜―



 走って、逃げて、もう終わりだって涙を堪えて、息切らせて。

オレ、何してるんだろう。こんなにも、気持ちボロボロにして、雨宮のこと好きになっ
たりしなければ、よかった。
 こんな苦しいのは嫌だ。
ちゃんと謝って、告白だってしようと思ったのに。なんで、また雨宮にキスなんてし
ちゃったんだ。オレ、バカだろ。
 雨宮のペースになると、どうして自分じゃない行動しちゃうんだろう。ぼわっと身体中
熱を帯びて、自分が自分じゃないみたいになる。
 それなのに、雨宮は相変わらずあんな態度だから、取り返しのない後悔ばかり増えていく。
 今度の今度こそ、雨宮怒っただろうな。
ああ、もういい。
 もう、全部忘れる。トモダチの資格もないなら、全部忘れるしかない。
オレは全力で走りながら、雨宮の事を必死で頭の中から消去しようとしていた。


 ダッダッダ。
ダッダッダ。
オレの走る後に、もう一つ、足音がする。オレがペースを上げれば、その足音も、速く
なった。
「ん?」
 なんで、雨宮が追いかけてるんだ!
 雨宮のことなんて忘れる、そうやって決めたオレをあざ笑うように、雨宮はオレの後ろを
追っていた。振り変えれば、雨宮も必死な顔をして追いかけてくる。
「待って」
「来るな」
「いいから、待って」
「待てない、来るな」
お互い、息を上げながら、商店街を抜け、公園を突っ切り、オレは家まで全力疾走。
 雨宮、走るの速い・・・。オレ、バスケ部で結構速いって言われてたんだけど。コイツは
頭だけじゃなくて、スポーツも出来るのか?なんてイヤミなヤツ。
 くそう、くそう。
振りきろうとして、何度も遠回りをしながら、最後にはどこをどうやって走ったのか、
分からなくなって、漸くオレは自分の家までたどり着く。
 追いかけて来た雨宮を振り返ると、雨宮もぜいぜいと息を上げてオレを見下ろす。
そんな顔ですら、かっこよく見えるから、ホントむかつく。
指をさして雨宮に一言、
「来るな!」
そう言って玄関くぐって、オレは部屋に飛び込んだ。

 逃げ切った・・・!

 ベッドの上で息を整えながら、目を閉じる。浅い呼吸を無理矢理止めて、深く息を吸い込む。
途端、げほっと咽た。
 苦しくて、堰を繰り返すと、涙が零れて、それを拭ってるうちに、また次の涙が出る。
別に、泣きたいわけじゃない。
強がる気持ちに涙は比例して、そうじゃないと思う程に涙は溢れた。
色んな感情が混ざり合いすぎる。気持ちがどこを向いていいのか自分でも分からない。
腕で顔を覆いながら、ただ時間が過ぎていくのをここで寝転がって待っているだけ。
 こういうのって、失恋っていうのか?
女々しくて嫌になる。だけど、やっぱり涙が溢れて、オレの顔はぐっしょりだった。


 泣くと眠くなるのは、脳が疲れるからなのか。オレはいつしかベッドの上で浅い眠りに
ついていた。

 頭撫でられて、気持ちいいなって思ってたところを、髪を引っ張られて、痛くて目が覚めた。
ん?アツシか?
「アツシ、痛いって・・・晩ご飯ならもう少し待って・・・」
そう言って、除けた腕の先に映ったのは、アツシには程遠い顔の人物だった。
「あ・・・まみや」
なんでこんなところにいるんだよ。どうやって入ってきたんだ、ここはオレの家で、オレの
部屋で、雨宮が勝手に入ってこられるはず、ない。
 ああ、そうか、コレは夢か。夢みてんのか、オレ。そうだよな、夢だ。
「天野・・・」
夢でも雨宮の声、ちゃんと聞こえる。うっとりするほど優しい声だ。
「天野、ちゃんと聞こえてる?」
おうよ、聞こえてるぜ、お前の声。天野って呼んでるだろ?
 オレは雨宮を見上げてると、雨宮は顔をしかめて、オレの肩やら腕やらを揺さぶってきた。
痛い、痛いって、分かってるから、そんなに掴むな。くそう、やけにリアルな夢だな。
「天野、俺のこと分かる?」
分かるから、そんなに強く腕を引っ張るなって。
「あー、もう、痛いっつーの!!」
オレはベッドから起き上がると、引っつかまれた腕をはがした。
「やっと気づいた・・・」
「って、雨宮!?」
マジ雨宮?なんだよ、コレやっぱり夢じゃないのか。雨宮ホンモノか!?
「なんで、お前はオレの部屋に簡単に入れるんだ!」
「なんでっていわれても。玄関でチャイム鳴らしたら、弟君が出てきて、普通に上がった
だけなんだけど」
アツシ〜〜、こんなバカを家に入れるんじゃない。せっかく逃げてきたのに。オレは1人に
なりたくて部屋に逃げ込んだのに、その部屋に雨宮がいるんじゃ、何のために雨宮の家から
逃げてきたのか意味ないじゃん。
 これ以上、オレに何の用があるってんだ。オレをからかいに来たのか?それとも、オレの
やったこと怒りに来たの?

 ベッドに座って、オレは雨宮を見上げた。怒ってるようには見えなかったけど、何を考え
てるのかも分からない。
 雨宮はため息を吐いて、オレを見据える。
「天野はさ、色々勘違いしてるから、そろそろちゃんと捕まえておかないとね」
「は?」
オレがぽかんと口を開けてると、雨宮はオレの顔に手を当ててくる。
「ねえ、キス、気持ちよかった?」
いきなり、核心をついた質問に、オレは真っ赤になった目を見開いた。
「そんなに、驚かないでよ。天野がしてきたんじゃない」
「・・・そうだけど・・・」
本人目の前にして、気持ちよかったなんて、言えねえよ。
「どうなの?」
「どうって・・・」
「気持ちよかった?悪かった?」
「そんなの、分かんないって!」
苦し紛れに首を振ると、雨宮はオレの想像を100メートルくらい越えたことを言ってきた。

「じゃあさ、もう一回試してみる?」

 はい?
 あの・・・雨宮君、今、なんとおっしゃった・・・?
 え、えええ・・・?

 頬に当てた手でオレを撫でると、雨宮はオレの返事を待つことなく、オレにキスをした。


「ん・・・」
 相変わらず、雨宮の唇は気持ちよかった。たった数時間前にしたキスよりも、もっと気持ち
よくて、言葉にするなら、蕩ける、そんな気分。
 雨宮の手やオレの頬は冷たいのに、唇だけすごく熱を帯びて、発熱してるんじゃないかと
さえ思う。
 その唇がゆっくりと離れて、雨宮の閉じた目が、再びオレを見る。
雨宮の顔が潤んで見えるのは、オレの目が潤んでるからなのか・・・。
「どうだった?」
雨宮は耳元に顔を寄せて、そう囁いた。
「どうって・・・」
どうって、そんなの決まってるじゃん。すっげえ、気持ちいい。なんなら、もう一回くらい
したいくらいだ、バカ。
 体中硬くして、オレは言いたいことも言えずに雨宮をただ睨みつける。だって、どうしろ
っていうんだ。雨宮の意図がみえないのに、オレだけバカみたいに気持ちよかったなんて
言って、笑われたら、もうオレホント立ち直れない。
「天野、なんでキスが気持ちいいか知ってる?」
「え?」
「口って、心を言葉にする窓口でしょ?」
「・・・うん」
「キスすると、気持ちが、言葉にしなくてもダイレクトに伝わるからなんだって。気持ち
が繋がると、気持ちいいでしょ」
「何、それ・・・」
雨宮は、オレの頬を何度か撫ぜて、「でも、天野は俺の気持ちを全然受け取ってくれないけ
どね」と困った顔で笑った。


「もう少しだけ、待ってようって決めたのに。・・・そしたら、天野から言ってくれるんじゃ
ないかって期待してたけど、もう止めた。だって、天野の事待ってたら、いつまでたっても
繋がれないから」
「ええ?」
「俺は、ちゃんと受け取ったからね、天野の気持ち」
何ー?オレの気持ち、勝手に受け取っただと?
先生、話がみえませーん。どういうこと・・・?
は?雨宮、オレの気持ちに気づいてるって、そう言ってるの?
「天野は、天然なんだか、鈍いんだか、わかんないなあ。・・・でも、そこが可愛いけど」
か、か、可愛いだと?このオレが?・・・中3になった男に向かって、可愛いだと?何言ってる
んだ。雨宮、頭は大丈夫か。
 すっかり、パニくってるオレに、雨宮は、オレが益々混乱することを、次々と並べた。
まるで、今までずっと溜め込んできたものを、吐き出すように。
「天野が、あんな風に暴走するなんて、思ってなかったけど、俺はちょっと確信したんだ。
もっとゆっくり迫るつもりだったけど、これはチャンスだって。だけどね、俺だって、
いろいろ迷うこともある。そうして、迷ってる間に、お前、もっと暴走して、撃沈しそう
になってるから、これはマズイなって思った」
確かに、オレ、暴走してたし、撃沈しそうになってたけど・・・。お前さ、オレの気持ちに
気づいてたなら、なんでもっとはっきり言ってくれないんだよ。オレ、1人でくるくる回って
恥ずかしいじゃん。

「天野の事が、好きだよ、ずっと」
 雨宮は、一呼吸置くと、誰よりも聞きたかった言葉をあっさりと口にした。あまりにも
簡単すぎて、オレの声はひっくり返った。
「へえ?」
「そんな、マヌケな返事しないでよ。ずっと好きだったんだから」
苦笑いしながら、オレを見る顔は、いままで見たどの雨宮よりも、優しかった。
 ずっと、好きだった・・・?
「それって、マジ?!」
驚いて叫んでみれば、雨宮はうんと頷く。
「多分、天野が俺のこと意識する前からずっとね」
ずっとって・・・。マジで?いつからなんだ・・・。
 困惑と嬉しさで、100メートルダッシュしてきたいくらいだ。だって、マジで?ホントに?
雨宮、オレの事好きだって・・・。
 うぎゃー。それって、オレ達、りょ、りょ、両思いってヤツじゃん!
 これって、からかわれてるんじゃないよな?後で、笑って、嘘だとか言わないよな?
「・・・ホントだから、そんな顔しないの。さて」
雨宮はオレの頬を撫でていた手を止めると、もう片方の手も頬に当てて、オレの顔を、
サンドウィッチよろしく、ぱちんと叩いた。
「痛てっ・・・何すんだ・・・」
「俺は、言ったよ。今度は天野の番。ここんとこ、溜め込んだこと、ちゃんと言って?」
挟まれた頬は、俯くことも許されず、雨宮の顔を見つめる以外できない。
 えっと・・・。待ってくれよ。そんなこと・・・。心の準備が。
急激に慌しく動き出す心臓に、オレは軽い眩暈。雨宮は目を逸らすことなくオレを見つめる。
ホントにいいんだな?雨宮の気持ち、オレ受け取っていいんだな?
 雨宮は無言で頷く。
もう後戻りは出来ないんだからな。オレとお前、好き同士になっちゃうんだからな。雨宮
覚悟しとけよ!

「オレも、お前が好きだ」
やっと言えた気持ちに、心が高ぶってくる。好きな相手が好きなんて、そんなバカなことが
おきてしまった。
 嬉しくて、くすぐったくて、もう一度、キスしたくて。オレって即物だな、って思いながら
もう一度、雨宮にねだってみる。
「もう一回・・・しよ」
雨宮は、そんなオレに、
「一回なんていわずに、何回でも、出来るよ、これからは」
そう言って、オレの唇を優しく塞いだ。
ああ、雨宮の好きが、伝わってくる・・・。溢れてくる思いをオレもお前に返すよ。
お前の事、好きだ。



―――・・・・・・



 もう離れなくなるんじゃないかって言うくらい、長い間硬く、くっついた唇が、もぞっと
動く。雨宮の手に力が入ると、オレは顔の角度をさっきよりも上に向かされた。
(ん・・?)
動く唇に、オレの口が、僅かに開いた。
(雨宮、何して・・・)
そう思った瞬間、雨宮の舌が、オレの口の中に入ってきたんだ。
うぎゃあー、何コレー。
ぬるってするんですけど。雨宮の舌が、オレの舌と絡まって・・・。
 その途端、身体がっていうか、アレがぐうっと固くなるのが分かった。ヤバイ、ヤバイ
こんな恥ずかしいのはヤバイ!!
 オレは、無理矢理雨宮から離れると、真っ赤になって雨宮に抵抗した。
「お、お前、何してるんだ」
雨宮は、何がおかしいんだってくらい笑って、言った。
「何って、恋人同士のキス」
なんだそれは。そんなキス知らない。
あ・・・これが、噂のディープキスってヤツか?普通のキスと全然違う。雨宮の舌が絡んできた
瞬間、オレの身体、電気走った。びりってきた。
 それで、オレのあそこに直結して・・・。やばい、雨宮に見つかっちゃう。
「へ、へんになる、頭、変になるから!」
オレはベッドの上で壁際に後ずさりすると、雨宮はニヤニヤ笑ってメガネを外した。
 机の上に外したメガネを置くと、オレを振り向く。そして、
「なっちゃえば?気持ちいいこと、好きなんでしょ?」
そういうと、オレの身体を手繰り寄せて、何度も何度も、「恋人同士のキス」を
してきた。
 でも、抵抗なんて出来なかった。だって、心をこじ開けられて、垂れ流しになったのに、
雨宮と一つに溶けちゃうくらい気持ちいいんだもん。


ダイレクトどころか、好きの気持ちが混ざり合って、オレ達は、その日、唇がはれ上がる
までずっと「恋人同士のキス」ってヤツをやり続けてた。







3話 あまりてなどか 人の恋しき 終わり

――>>next (最終話 天野腹 振りさけ見れば 雨が舞う)



【天野家古今和歌集】
あまりてなどか 雨宮恋しき(あまりてなどか あまみやこいしき)
思わず、キスしたのも、こんなに胸が苦しいのも、全部ぜーんぶ、雨宮の所為だ!
アイツの事が・・・好きだから。






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