なかったことにしてください  memo  work  clap




 部屋に戻ると、ソファで吉沢さんが固まっていた。マンションのパンフレットで顔を半分
くらい隠して、じっと何かを考えてるようで、俺に気がつくと、泣きそうな顔でおかえり
と言った。
「あのう・・・・・・なんだか色々済みませんでした」
「何か飲む?コーヒー?ビール?」
「じゃあビール。あ、俺やります。吉沢さんも飲むでしょ?」
「・・・・・・うん」
お互いアルコールでも入れないとしゃべりだせないようなむず痒い状態で、冷蔵庫から冷えた
ビールの缶を2本取り出すと、1本を吉沢さんに渡して、もう1本は、キッチンのカウンター
にもたれたまま、一気に飲み干した。
「ふうっ」
「座って飲めよ」
その様子を苦笑いして吉沢さんが呟く。
 言われて、吉沢さんの隣に座ると、膝ががくがくしてたことに気づいた。
「なんでお前が震えてるんだよ」
「色々ありすぎて・・・・・・」
「その色々ありすぎっていうの、説明してもらう権利、俺にはあるよな?」
吉沢さんはローテーブルにビールの缶を置くと、髪を掻きあげて隣に座る俺を振り向いた。
「元はと言えば、俺がよく確かめもせずに思い込んだのがいけないんだけど・・・・・・」
前園さんと会った事、そしてそこで前園さんに吹き込まれて、勝手に暴走した事を話すと
吉沢さんは、仕事で失敗したときにでも見せないほどの大きなため息を吐いた。
「俺と前園さんがそんな関係だって思い込んでた?」
「はい・・・そりゃもう、がっつりと。それで再熱して俺は振られるんだくらいに」
「そんなにデリカシーの無い人間じゃないぞ、俺は」
「前園さんにも言われました。いくら俺が知らないからって昔の男と引き合わせるような
ことしないって。確かにそうですよね。俺、自分の妄想に取り付かれて、吉沢さんの性格
忘れてました」
この人、結構な潔癖なんだった。俺の過去の浮気でさえ軽蔑のまなざしで見てるくらい
なんだから、きっとそういうところはきっちりしてるんだろう。
 そんなことすら忘れてしまうほど、俺は前園さんに踊らされてたらしい。
「すんません」
呟くと吉沢さんが俺の腿に手を置いて、俺を見上げた。
「俺、そんな風に見えた?」
「そんな風って」
「前園さんと過去に何かあって、再会してフラフラ付いていきそうになってるって見えた?」
「・・・・・・見えてたかどうか、今になるとよくわかんないです。前園さんの言葉に騙されて
そう思い込んでただけかもしれないし。・・・・・・でも、一番初め、マンションのパンフレット
見つけたとき、いつもと態度が違って、吉沢さんは何か隠してるんだって思ったんです」
確かに、何か隠してるって思った。いつもと違う吉沢さん。ちょっと動揺して、隠してる
ってこともバレバレなのに、強引にそれをもみ消した。
 アレがなかったら、俺だって信じてなかったかもしれない。
吉沢さんは俺の言葉にまた揺れた。
「あれは・・・・・・」
「あれは?」
一瞬の間。ごくり、唾を飲み込んでお互いまじめ腐った顔で見合ってしまう。
 それから吉沢さんはゆっくりと続けた。
「俺と一緒に暮らさないか?・・・・・・って言いたかったんだ」
俺の腿に置いてあった吉沢さんの指がするすると俺のスーツのズボンを摩った。
 吉沢さんの言葉を反芻する。
え?そんなこと?
「そんな躊躇するようなことじゃ・・・・・・」
言いかけて、吉沢さんの手が止まった。
「前園さんに聞いたんだろ?俺の過去」
「少しだけ」
申し訳なさそうに頷くと、吉沢さんは首を振った。
「誰かと一緒に住むのは、勇気がいる。あの頃の俺と今の深海が重なって、お前の負担に
なりたくないってずっと思ってた」
ああ。そうだった。
 この人は、トラウマみたいなもの背負ってたんだ。
 だけど、そんなの吹き飛ばすくらいの愛を注いでたつもりなんですけどね、俺。
「俺、ずっと一緒に住みたいって言ってたじゃないですか」
「口で言うのは簡単だ。だけど一緒に住んで、やっぱり違ってたなんて、それで出て
行かれたら・・・・・・」
「そんなことする分けないじゃないですか!」
膝の上の吉沢さんの手を握る。俺がこの手を離すわけがないのに。
「当時の俺もそう思ってた。その決断がそれだけ重いものなんて思ってなくて。俺は一生
って言う意味でお前と一緒に住みたいし、お前の事手放したくないんだ・・・・・・」
吉沢さんの拳が僅かに震えた。
 こんなに熱っぽい吉沢さんを今まで見たことが無い。心の奥底から幸せでむずむずする
エネルギーが、じゅわっと吹き出てくる。
 この気持ちは一体何なんだろう。鼓動が倍速で動いてるみたいだ。
肩を抱き寄せて吉沢さんをすっぽりと自分の中に包み込むと、耳元に唇を寄せて呟いた。
「俺だって、30近い男ですよ。いい加減でダメ人間ですけど、吉沢さんに対する気持ちは
全部本当です。本気で一緒に住みたいって言ったんですよ?」
耳たぶをちゅうっと音を立てて吸い付くと、吉沢さんは身体をよじって、俺から離れた。
「待てっ・・・・・」
「何?」
「お前の一緒に住みたいっていうのは、きっと今だけの話で、将来の事とか周りの事とか
考えたら絶対止めるって言うだろ」
どこまで疑うんだよ、あんたは。
 俺だって真剣に将来の事考えて出した結論だよ!もう!
「言いませんって!俺だって、将来の事とか色々考えてます!乗り越えなきゃならない問題
は山ほどあるけど、それを超えても一緒に住みたいって思ってるんです!」
「でも・・・・・・」
「もう、ごちゃごちゃ吉沢さんらしくないです!・・・・・・大体。吉沢さんは全然分かって
ない!俺がどれだけ吉沢さんの事好きか。伝わってないんですか・・・俺の気持ち」
離れた身体を再び抱き寄せる。なんなんだ、この攻防は。ねじ伏せようとする俺と、逃げよう
とする吉沢さんの間で、もつれ合って、最後は体格の差が物を言った。俺は吉沢さんを
ソファに押し倒していた。
 お互い息が上がって、その隙間から吉沢さんがもそもそ言葉を発した。
「・・・・・・分かってないのはお前の方だよ」
「何を!」
「俺の気持ち」
吉沢さんの気持ち?見下ろすと、吉沢さんが俺のシャツを引っ張って眉間に皺を寄せている。
「俺が深海の事、どれだけ見てきたか。俺がどれだけ・・・・・・お前の事好きか」
潤んだ瞳が飛び込んできて、本当に心臓がきゅんと唸った。
 ダメだ・・・・・・。この人、可愛すぎる。
「吉沢さんって、ホントに自分に向かってくる気持ちには鈍感なんですね」
「・・・・・・」
「まあ、伝わるまで何百回って言うからいいですよ。吉沢さんがむちゃくちゃ好きです。
これからも変わる予定は入ってませんので、一緒に住むっていう話、遂行しませんか」
結構真剣に言ったつもりだったのに、吉沢さんはちょっとふくれっつらになって
「本当にいいんだな?」
と呟いた。
 多分これは照れだ。
「はい。地獄の底まで追っていく気持ちでいますよ」
「俺は地獄なんか行かないよ」
「じゃああの世でドンちゃん騒ぎ一緒にするまで、ずっと一緒にいましょ?」
「・・・・・・長いな、それは」
「いいじゃないっすか。俺の愛の深さ、見えてきました?」
「ばーか」
吉沢さんが俺のネクタイに手を掛ける。思いっきり引き寄せられると、がぶりと吸い付かれた。
 とろとろに溶けてしまいたいほどのキス。ビールの味が混じって酔いが回る。
口を割られて、てろんとした感触が舌の上をなぞっていった。
吉沢さんのネクタイにも手を伸ばして、キスを繰り返しながらお互いのシャツのボタン
を外していく。
 途中で漏れる息遣いになんだか泣きたい気分になって、何度も手を止めて、吉沢さんの
頬や髪を撫でた。
「深海」
「はい」
「俺、お前が思ってるよりも多分ずっと・・・・・・」
「ん?」
そこまで言うと、吉沢さんは再び俺の首を引き寄せて強引に唇を奪っていく。それに圧倒
されながらも、頭のてっぺんまで痺れる心地よい甘さに、俺もそろそろ我慢が出来なくなって
きた。
「俺が思ってるより多分ずっと、何ですか?」
唇を僅か数センチだけ離して、しゃべる息も唇の動きも、目をつぶっても分かる距離で囁くと
吉沢さんの舌が下唇をそろりと撫でた。

「熱いよ、俺」

思わず見開くと、金縛りにでもあったように視線が張り付いた。深くて黒い瞳にどこまでも
吸い込まれそうになる。吉沢さんの熱に中てられたみたいだ。
 呼吸を繰り返して、やっと言葉が戻ってくると、俺は一言だけ呟いた。
「その熱、肌で感じさせて」



 シュルリとシャツを脱がして、俺より遥かに白い肌が見えると一個一個確かめるように
肌に口を落としていく。卑猥な音と共に、赤く咲いていく華を眺めた。
 付き合って2年。知ってることの方が多くなってきたなんて勝手に思い込んでたけれど、
全然そうじゃなかった。まだ知らない熱を持った吉沢さんがここにいる。俺の腰に回して
いる手が動くたび、身体がぞくぞくした。知りたい。見たい。その熱さを。
 しなやかで適度に付いた筋肉を辿った。鎖骨から胸に降りて、腹筋に口付けするとくす
ぐったそうに、うん、と小さく吉沢さんが唸った。
 ベルトに手を掛けて、バックルをカチャカチャ言わせながら外すと、ジッパーの向こう
側には外に出たそうにしている膨らみが早くも見えた。
 ズボンの上からぎゅっと握ると、やっぱり吉沢さんはうん、と声を漏らしてぴくぴくと
身体を揺らす。すかさずジッパーを下げると、そこで吉沢さんの手が俺の肩を掴んだ。
 それから、ぐいっと俺の肩を押し上げて同じ視線まで起き上がると、目元を細めながら
俺の腹に指を這わして来た。
「吉沢さん・・・?」
「いいから、黙ってろって」
言われるまま吉沢さんを見ていると、吉沢さんは俺のズボンに手を伸ばしてきた。
 やった!フェラしてくれるんだ、なんてぼやっと思ってたらあっという間に俺のズボン
も下着も脱がされていて、目の前には、元気に反り立つ俺のペニスが出ていた。
 3回くらい手でしごかれると更に強度が増した。
「やる気満々の高校生みたい」
「だって、ひっさしぶりなんだもん・・・・・・」
「じゃあ期待してる」
そんなこと言われて、嬉しさ半分、プレッシャー半分。
「吉沢さんがすっごくエロいことしてくれたら、がんばれるかも」
冗談半分に言ったら、吉沢さんの前髪が前に落ちて、顔が見えなくなった。俯いた吉沢さん
の口から唾液がトロリと垂れて、ペニスの先っぽまでゆっくりと糸をたらす。生ぬるい
感触を感じたと思ったら、すかさず扱かれた。



「はっ」
指の硬さが丁度いい刺激を生んで、唾液で滑りながらどんどん熱くなった。
「パツパツ・・・だよ、吉沢さんっ・・・・」
「出したい?」
「はい」
俺はソファーに降参のポーズをしてひっくり返った。なのに、吉沢さんは
「王様か、午後出社の許される重役みたいだな」
なんて、ひどいことを言ってきた。重役座りしてるつもりなんてないっすよ!
「降参のポーズ、服従のポーズ!お願い、今すぐ出してください」
笑いながら、今度は本当に王様みたいに大股開いて座ってやった。
「深海ってホント馬鹿だな」
ククっと喉の奥で笑われると、きゅうっと吉沢さんが俺のペニスに吸い付いつく。
 柔らかな舌のぬめりを感じたかと思ったら、そこからいきなりトップにギアが入ったか
のように、脳天まで突き抜けるような気持ちよさがやってきた。
 いつもより激しく動く舌に吉沢さんの息も上がる。唇の隙間からはみ出す唾液が、扱いて
いる指にまとわり付いて、ぺちゃぺちゃといやらしい音を立てた。
 指が滑らかに上下すると、その振動でぽたりとソファに唾液が垂れた。このソファ、多分
すごく高級なんだと思うけど、そんなことお構いなしだ。
 舌が先っぽの割れ目を執拗に追いかけて、後ろをたどって一番下までたどり着く。舌に
力が加わると、グリグリと付け根を押された。
「あっ・・・・・・それ、すっごっ・・・」
吉沢さんのエロい顔が見たくて髪の毛を掻きあげようとしたら、先に目が合って、見詰め合った
まま吉沢さんの口だけが動いた。
「そんなんっ・・・反則だっ・・・・・・」
体中の血液が一箇所に向けて動き出してるような感覚。言葉にするなら爆ぜる、だ。こんなの
我慢しろって言う方が無理な話。
 好きな人が、普段は全然甘えたり、優しいことしてくれないのに、こんなときに限って
全力で俺のツボを刺激するんだから、押されたツボの刺激は普通の人の何倍も効果ある。
 もう一度見つめてしてもらおうとしても、ほら、もう恥ずかしがって、下を向いてるし。
「ずるいっ・・・もっと・・・こっち向いて、吉沢さんっ」
顔を上げようと頭に手を置いたら、嫌がられて、更に早いスピードで舌が動いた。
「ああっ、ダメっ!それすると、出るっ・・・ううっ」
「・・・・・・うん」
コクリと頷かれて、我慢する気も無くなった。なんだか、今日はまだまだいける気がして、
快楽の導く方へと乗っかっていく。
 吉沢さんの目付き、舌の動き、唾液、指のぬめり、視覚から入ってくる情報が気持ちを
どんどん高ぶらせて、思わず吉沢さんの肩を掴んだ。
「うぐっ・・・出る」
搾り出した声と同時に、吉沢さんの口の中に思いっきり解き放っていた。



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