なかったことにしてください  memo  work  clap





「待てよ!」
ストーカーを追いかけて公園まで辿り着く。無駄に体力ばかりある太陽にとって、公園まで
の距離はたいしたことはない。
 ストーカーの方は、息を上げてふらふらになっていた。
太陽は男を公園の隅に追い込んだ。
「待てよ!あんた、それじゃあ泥棒だ。金払うか返せよ」
「うるさい!」
「あんたの所為で、並木さんも店長さんも迷惑してるんだよ」
「お前に言われる筋合いはない!」
男は後ずさりしながら太陽に怒鳴り散らす。体格のいい太陽の方が明らかに分がありそう
だった。
「店長はおれのものだ」
「はあ?!」
男の目つきが少しおかしい。狂ってる、そう思って太陽は薄ら寒くなった。
「お前こそ、店長のなんなんだ!」
「何って言われても・・・」
何って言われてもただの客だとしか言いようがない。ただ一度だけ物々交換のために唇を
奪われたことがあるくらいで・・・。
 言葉に詰まっていると、後ろから店長の声がした。



「太陽君は僕のナイトだよ」
「は・・・い??」
「そうでしょ?」
店長も太陽のあとを追いかけてきたらしい。息が少し上がっていた。
「太陽君は僕のナイト。悪者から守ってくれる騎士なんでしょ?」
店長ににっこり微笑みかけられて、太陽は驚いてこっくり頷ずいてしまった。
「はい」
男が店長を睨みつける。
「ナイトって!!なんだそれ」
「ナイトはナイトだよ。僕の事守ってくれるって約束してくれたからね」
そんな約束はした覚えはない。でも実際、ストーカーを前にして店長の事を守らなくては
と思ったのは事実なのだから、それでも構わないと太陽は思った。
 そして、店長に「ナイト」なんて呼ばれた所為で、こんなときなのに顔がにやけてしまう
自分に太陽は自分の中の不純さを恥じた。
 ナイトの称号には相応しくない不純でひ弱な男だ。そんな姿をひけらかすわけにはいかない。
太陽は精一杯意虚勢を張った。
「こ、これ以上、店長に付きまとうと本当に警察に訴えるよ?」
一歩前に出て、ストーカーを覗き込むと、ストーカーは太陽の巨体に後ずさりする。
 内心では落ち着かないのを必死に隠して、身体がでかくてよかったと太陽は思う。
「もう、二度と店長にストーカーしないって約束してください」
太陽はストーカーの腕を掴むと捻りあげた。
「うぐっ」
「店長さんは、俺が守る。―――あんたなんかに渡さない」
喧嘩なんてした事ない。凄んでみるのも、昔どこかで読んだ漫画の一部を真似したような
ものだ。
 心の中で怯えてることを必死に隠して太陽はストーカーを睨んだ。自然と指先にも力が
入って、捻りあげた腕が不自然な方向へと曲がろうとしている。
「痛てっ・・・わ、分ったよ、分ったから」
「店長に迷惑掛けないって約束しろ!」
「する!する!するから、離せ、この馬鹿力!!」
「店から奪ったもの、返せよ」
「っ、勝手にしろ!」
太陽がストーカーからスニーカーを取り返す。そうして力を緩めた隙に、ストーカーはダッシュ
でその場から逃げて行ってしまった。
 追いかけようとしたところを、店長が止める。店長は何故だか嬉しそうに笑っていた。
「もういいよ、大丈夫だから」
「大丈夫って・・・あ、あのこれ」
太陽は店長にスニーカーを手渡す。店長はその腕を取って優しく撫でた。
「太陽君、ありがとう」
「いえ、あの・・・・・・なんか出すぎた真似してすみません」
「何で謝るの?僕は、太陽君に守ってもらってすごく嬉しいんだけど」
10も離れた年上の男に、こんな風に見上げられて太陽はどきまぎした。場面だけなら、悪魔
の魔の手から姫を救った勇者か騎士のようだ。
 実際の太陽はそんなかっこいいものじゃないけれど。
 店長はその手を自分の手に絡ませたまま続ける。
「だって、僕のナイトになってくれたんだもね」
「えっと、あの、それは・・・」
「違うの?」
「そ、その。あの・・・」
「僕の事、守ってくれるって啖呵切ったのは、嘘だったのかな〜?」
「嘘じゃないですっ・・・でも・・・」
真逆自分の不純な動機でそんな事を言ったなどとは言えない。店長が自分のことをどう思って
いるかなど、自分の気持ちに精一杯で今の今まで考えたこともなかったのだ。
「じゃあまず、ナイトは戦いが終わったら大切な人を抱きしめて、安全を確かめるものだよ?」
「へえ!?」
素っ頓狂な声をあげると、店長は太陽を引き寄せた。抱きしめるよりも先に抱きしめさせる
ような格好になり、太陽は恐る恐る店長の背中に手を回す。
 密着した肌から店長のぬくもりが伝わる。太陽はここが真昼間の公園であることをすっかり
忘れてしまった。
「太陽君、ありがとう」
「・・・・・・あの、俺なんかでいいんですか?」
「うん。太陽君なんかがいいんだ。ねえ、ちょっとかがんでよ。これじゃあ届かないから」
「へえ?」
店長が太陽のTシャツを引っ張る。前によろけた所を店長は見逃さなかった。
「んっ」
お姫様にしては強引で大胆すぎるキスを思いっきり浴びて、太陽は店長と唇が張り付いた
まま、首から上が蒸発してしまいそうになる。
「んんっ・・・」
両頬を掴まれて身動きも出来ず、太陽の唇は何度も店長に啄ばまれる。ぴちゃりと妖しい
音がして、店長の舌が太陽の口の中に入ってくると、太陽は立っていられなくなった。
 ふらふらと足の力が抜けて近くのベンチに座り込んでしまう。
「あれ?刺激が強すぎたかな」
「て、店長さん・・・・・・」
見上げた店長は余裕そうにニコリとしている。太陽の顔は真夏の日差しよりも熱く、真っ赤
だった。
「可愛いなあ、もう」
「お、俺っ。店長さんのこと・・・」
勢い余って太陽が気持ちを吐き出そうとすると、店長はその口を人差し指で押さえた。
「そう言う台詞は、もっと効果的に使わなくちゃ駄目だよ」
「ん?!」
「例えば・・・・・・」
言いかけて、店長の口が止まる。
「太陽君には色々覚えてもらわないといけない事たくさんあるね」
店長は茶目っ気いっぱいで笑った。
「色々って・・・?」
「太陽君が鼻血出して倒れちゃいそうな刺激的な事、かな」
「な、なな、何ですかそれは」
もう既に鼻血出して倒れそうな気分だ。自分でも何がなんだか分らなくなっている。
 自分が店長を好きで、店長も自分を選んでくれた、らしい。
(それって、両思いってこと!?ええ!?)
動揺を隠し切れない太陽に、店長が手を差し出した。
「帰ろっか。並木君が店でイライラしてるはずだから」
その伸ばされた手を取るべきか太陽は迷いながらも、ゆっくりと手を絡めた。



「せっかくのスニーカー、勿体無いですね」
ストーカーに切り裂かれたスニーカーを見て言うと、店長も顔をゆがめた。スニーカー好き
にとってこういうことは一番の侮辱なのかもしれない。
 けれど、直ぐに笑顔に戻って店長は太陽の手をぎゅっと握った。
「まあ、しょうがないよ。でもこのおかげで太陽君が手に入ったと思えば安いものかな」
「・・・・・・」
自分の恋のゆくへは一体どこに向かっているのか、僅かに不安を感じながらも、顔の
緩みを直せないでいる太陽であった。







2008/3/24





よろしければ、ご感想お聞かせ下さい

レス不要



  top > work > 短編 > 晴れた空に靴を飛ばそう2-2
nakattakotonishitekudasai ©2006-2010 kaoruko    since2006/09/13