なかったことにしてください  memo  work  clap

フォルトゥナのうしろ髪




「鉄二さんは、覚えてますか?」
「・・・・・・何、を」
小宮山の指は動きを止めることなく、その感触を楽しむように、鉄二の乳首をこねくり
回していた。
「あなたが、俺をカツアゲする切っ掛けですよ」
「・・・・・・」
鉄二は小宮山の動きを気にしながらも、言われるように切っ掛けを思い出そうとした。
 けれど覚えているのは、どうしようもない仲間と一緒に小宮山のところへ金をせびりに
行った思い出ばかりだ。
 どうして自分は小宮山と知り合ったんだろう。記憶の闇の中を覗き込んでも、そこには
光は射してくれず、ただただ深海の底を見渡すだけだ。
 そんな重大なことですら、鉄二の中には残ってないらしい。
 何も答えられない鉄二を小宮山は冷ややかな目で笑った。
「鉄二さんの中で、俺みたいな存在は所詮そんなものなんですね。金づるの一人くらいに
しか思ってなかったんでしょう」
図星だ。あの頃、自分がどれだけの人間に対して金をせびっていたか、そして巻き上げた
金がどこに消えたのか、鉄二は殆ど覚えていない。
 面と向かって言われて、自分の卑劣さを改めて恥じた。
 鉄二は、昔の負い目がある分、こんな状態なのに、小宮山の行動を止められなかった。
自分への罰なのかもしれないという思いが強くなる。鉄二は縛られた親指に力を入れた。
「教えてあげますよ。カツアゲの切っ掛け」
小宮山は捏ね繰り回していた手の動きを止めると、真っ直ぐに鉄二を見下ろした。
 鉄二もその視線から目を逸らすことができずに2人は暫く無言で見詰め合っていたが、
小宮山は、眼鏡の奥の瞳を何度か瞬かせた。
 その目は自分を恨んでいるのか、それとも恨みを突き抜けて諦めも入っているのか。
冷たく黒光りする瞳が何を思っているのか、鉄二には分からなかった。
「俺ね、あなたに助けてもらったんですよ」
「え?」
「あの中学、1年生は強制的に部活参加だったんですよ。まあ、部活なんて、あなたには関係
ないでしょうけれど。でもね、俺は中学入学して早々に塾に通わされることになって、無理
矢理入れられたサッカー部に1週間しか顔出さなかったら、3年生に因縁つけられてたんです。
それを助けてくれたのがあなただった」
「・・・・・・」
「後から思えば、あなたが助けた理由は――いえ、あれは助けたわけではなく、喧嘩の相手
が欲しかったからなのか、因縁をつけていた相手がもともと気に食わないヤツだったのか
どうせその辺りなんだろうと思いますけど」
記憶にはない。けれど、過去の自分を思えば、自分が「他人を善意で助ける」などと言う
当時は鼻で笑ってしまうことなど絶対するはずが無いのだから、小宮山の言う通り、そんな
理由なのだろうと鉄二は思った。
「俺は感激して、何度もお礼を言ったんです。そしたらあなたが言ったんですよ『助けて
やったんだから、金払え』って。それが始まり」
あっさりと吐き出す小宮山の口調に怒りや恨みを感じない分、鉄二は何も言えなかった。
愚かな自分を呪っても、小宮山に謝っても、どうすることも出来ない過去の傷だ。
 例えこの話が小宮山の捏造だったとしても、カツアゲしていた事実まで捻じ曲げること
はできないのだし、自分の愚かな行いを、ただ悔いるしか鉄二にはできない。
 重ねてきた罪の重さが鉄二の親指を縛るテグスを更に締め付けているみたいだった。
「やだなあ、『鉄二先輩』」
小宮山は再び耳元に唇を這わすと、喉の奥でクスっと笑った。
「もう忘れていいんですよ、そんな過去は。あなたは今俺の中で快楽に溺れるだけでいい」
小宮山の台詞は背中をぱっくりナイフで切り裂かれるような鋭さがあった。忘れていいと
言いながら、絶対に忘れさせてはくれない。
 耳たぶを甘噛みされ、舌が耳の奥までぬるりと入ってくる。鉄二は仰け反りたくなる不快感
で拳を握った。
 あの頃の自分の残像が小宮山の前を彷徨っている。殴り倒せと罵倒し、小宮山のわき腹を
目掛けて足蹴りを何度も食らわしているのが見えた。
 残像の自分を取り戻して、受け入れてしまいたい。その衝動に駆られながらも、一方で
現実を認識している冷静な大人の自分は自分の中心で、しがみついていた。
 我慢してこれを受け入れさえすれば、あの会社は救われる。自分が、ここで目を閉じて
さえいれば、所長もおばちゃんも、従業員もみんな路頭に迷わなくて済むんだ。
 そう言い聞かせて、鉄二は唇を噛み続けていた。
小宮山の手が鉄二のベルトを外しても、ジッパーを下げられても、ズボンの中に手を
突っ込まれても、鉄二はひたすら耐えた。
 何を言われても、意識を散漫させて、小宮山のやっていることを理解しないように、
必死で目を背けた。
 その姿が小宮山は面白くないのか、鉄二が心を無くそうとすればするほど、小宮山の
行動は激しさを増した。



 ズボンを全て剥ぎ取られると、ボクサーパンツと、腕に引っかかったシャツだけになった。
「いつまでそうしてられますか?」
小宮山は首筋を舌で辿りながら、鎖骨を強く吸い、またそこから胸まで降りると、突起物
を強く吸い上げた。
 ピクリ、ピクリ。鉄二の身体が揺れる。
目を硬く閉じ、唇をかみ締めるけれど、刺激を受ける度、鼻から漏れる息が大きくなった。
小宮山はそれを面白がって、2度、3度繰り返した後、いきなりボクサーパンツの上から、
半勃ちになっていた鉄二のペニスを思い切り握り締めた。
「うぐぅ」
握られた痛みの中に微かに感じる快楽を、身体は正直に反応した。小宮山の中で膨れていく
ペニスが熱い。
 感じ始める自分に鉄二は焦りと嫌悪で吐き気を覚える。止めろ、止めろ。小さく唸る声
は小宮山に届く前に消えた。
 小宮山は手の中で暴れ始めるそれを確認すると、ボクサーパンツの上から手を動かし始めた。
「ふっ、はっ」
漏れた息に小宮山が嬉しそうに笑う。
「そうそう。素直にそうしてればいいんですよ。俺の言うことだけ聞いていれば、誰も
悪いようにはならない」
「誰も・・・?俺以外は、だろう・・・ふっ!」
「そうですか?あなただって、もう直ぐよくなるはずですよ」
余裕の小宮山に、鉄二は思わず睨み返していた。
 10年前なら確実に殴ってた。15年前なら殺ってたかもしれない。社会的責任とか、大人
とか、更生とか、様々な言葉が鉄二を押さえ付けるけれど、はっきりと今はそれが邪魔だ
と思った。
 今すぐにでもぶん殴って、逃げ出したい。
後輩の、しかもあの『コミィ』の前でこんな姿をさらけ出している自分が恥ずかしくて
仕方が無いのに、小宮山はそれを知っていて楽しんでいるのだ。
 小宮山は調子に乗って、ボクサーパンツの中に手を突っ込んだ。
「いや、だ!止めろ!!」
ゆるゆると擦り上げられて、割れ目を親指でぎゅっと押されると、ぷくりと蜜が溢れる。
小宮山が親指をゆっくりと上げると、てろんと透明な糸が垂れた。
「男なんて、マス掻きの仕方は違っても身体の仕組みなんて、誰でも一緒なんですね。
擦られれば感じる。こんな状況だってね」
「離せっ」
蹴り倒そうと足をばたつかせる鉄二に、小宮山は一度ペニスから手を離すと両足を押さえ
込んだ。
「忘れたんですか。俺の要求に逆らわない方がいいですよ」
「そんなもの・・・」
怒りの中で所長の優しい笑顔が見え隠れする。途端、鉄二の足の力が抜けた。
「でも、これはこれで楽しいからいいですけどね。暴れるあなたを、無理矢理押さえ込む
なんて昔の俺には到底できなかったから」
小宮山は太い腕で鉄二の腿を押さえつけた。
 鍛えた筋肉がシャツの向こう側に見え隠れしている。もうか細い子どもではないのだ。
「俺、大学でラグビー部だったんですよ」
言いながら、小宮山はボクサーパンツをすばやく剥ぎ取ると、鉄二の両足を自分の両肩に
掛けて、股の間に顔を埋めてきた。
「!!」
付け根よりも更に深く、蕾のギリギリの辺りをいきなり舐められて、鉄二は呻くことも
できなかった。
 ざらざらとした感触が徐々に手前やってくる。片方ずつ口の中で飴を舐めるように転が
されて、更に付け根を執拗に攻められた。
 我慢できないのか、それだけで鉄二の割れ目からはまた蜜が溢れ、小宮山がペニスの
付け根を弾くと、一筋になってシーツまで垂れていった。
「あーあ。こんなになっちゃって」
再び小宮山が鉄二のペニスを弾くと、ペニスはぷるんと自らの意思を持って返事をするように
勢い良く首を上げた。
「ううっ」
恥ずかしさと屈辱で小宮山の顔などもう二度と見られないと鉄二は真っ赤になりながら
思った。
「いいんですよ。気持ちよくしてあげてるんですから。鉄二さんはどこまででも溺れれば
いい。自分を見失うくらい狂ってしまえばいい」
本当は手で顔を覆ってしまいたいのに、肝心の手は縛られたままで、鉄二は首を捻って
腕の中に顔を隠した。
「鉄二さんが目を背けても、俺ははっきり見えてること、忘れないほうがいいですよ」
クスクスと笑われて、鉄二は耳まで赤くなった。
 小宮山は鉄二の両足を肩に担いだまま、今度はペニスを躊躇いなく口に含んだ。
「止めろっ!!」
浅く咥えられて、口の中で舌が生き物のように鉄二の亀頭を撫でていく。舌に力が入って
強く舐められたり、舌の腹で包み込まれたりしながら、形を変えて絶えることなく刺激を
与え続けた。
「はぁ・・・んん!」
小宮山は鉄二の腰を自分の方に引き寄せて、更に深くペニスを咥えた。腰が上がると、息
苦しい体勢になって、鉄二は身体をくねらせながら抵抗した。
「離せ・・・・・・あっ・・・はっ、はっ」
小宮山は構うことなく、鉄二の腰をがっちりと押さえつけて、鉄二に快楽を送り続ける。
先っぽを舐ったり、筋を舌で辿りながら上下したりと、舌の動きは止まることがない。
腰に力が入らなくなるほど、ペニスを弄ばれて、鉄二の表情が、次第にだらしなくなり
始めていた。
 ぼんやりと開いた口から、漏れる浅い呼吸、薄目で見つめる視線の先には何も映って
いないのかもしれない。
 小宮山は恍惚の表情に変わりつつある鉄二の姿ににんまりと笑みを浮かべた。
「そのまま出してもいいですよ」
「・・・・・・!?」
小宮山はそう言って、深く鉄二のペニスを咥えると、頭を振り出した。
「んんっ」
一番強い刺激を受けて、鉄二は目を見開いた。
 嫌悪や諦めの中でどうしてこんな気持ちになるのか、自分でも理解できない。ただ、今
願ってしまうのは、早く外に出したい、なのだ。
 解放されたい。放ちたい。気持ちが上り詰めていく。
「ああっ・・・小宮山っ」
掠れた声が鉄二から漏れる。小宮山は口の動きに反動させるように、手を添えて、それも
力強く扱き始めた。
「ああっ!あっ!」
鉄二は、縛られたまま、両腕を上にあげて、拳をぎゅうっと握った。
 小宮山の口と手がぶつかる度、唾液がぴちゃぴちゃと卑猥な音を立てる。その姿を見たく
ないのに、自分の目の前に映る景色は、鉄二のペニスを咥えている小宮山しかない。
 その小宮山は、鉄二が自分の方を見ていると、その視線に合わせて、いやらしく笑った。
男でも、妖艶な表情ができるのか、と鉄二が感じていると、小宮山は吸う力を更に強めた。
「あぅっ・・・うぅ・・・」
もうだめだ、我慢できない。訴えかけるように小宮山を見上げると、小宮山は嬉しそうに
頷いた。
 いってもいいと言われて、プレッシャーが外れたと思ったら、あっという間だった。
「ああっ・・・イクっ」
小さく呻くと、鉄二は小宮山の口の中に己の白濁をぶち込んでいたのだった。





「はっ・・・はっ・・・」
肩で息を整えていると、小宮山は漸く鉄二のペニスから口を離して、腰をベッドに戻して
くれた。短い呼吸が部屋中に響く。
 小宮山が口の中から、液体を垂らすと、むわっと牡の匂いが鉄二の鼻を刺激した。
「なんて・・・・・・」
なんてことを・・・・・・。
なんてことを、小宮山はしたんだ。なんてことを、自分してしまったんだ。
 股間をさらけ出したまま、鉄二は訳の分からない焦りで不安になった。
「大丈夫ですよ。気にしなければいい。あなたはただ、そこで、今みたいに与えられた
ものを貪欲に欲していてください」
小宮山の言葉に鉄二は再びもがき出した。
「離せ。この糸をさっさと離せ!!」
「嫌ですよ。離したら、逃げちゃうじゃないですか。せっかく捕まえたのに。これから、
もっといい事するんだから、大人しくしててください」
「?!」
「そんなに驚くこと無いじゃないですか。言ったでしょう?あなたはここで、俺とセックス
するんだって。フェラされてそれで満足されたら、堪んないですよ」
小宮山は躊躇うことなく、シャツを脱ぎ捨てた。
 顕わになった身体は鉄二が想像していたようにがっちりと鍛えた筋肉が、小麦色の肌に
綺麗に光っている。
 大学時代ラグビー部で、どれだけ鍛えてきたのか垣間見た気がした。
 本当に、力では勝てないかもしれない。ガキの喧嘩しか知らない鉄二は、自分のすっかり
衰えた腕を思って、また唇をかみ締めた。
 小宮山は良く通るテナーボイスで鉄二に言った。
「今度は二度と忘れられないように、深く痕をつけておきますから」
小宮山の手が鉄二の頬をゆっくりと撫でていた。




――>>next





よろしければ、ご感想お聞かせ下さい

レス不要



  top > work > 短編 > フォルトゥナのうしろ髪3
nakattakotonishitekudasai ©2006-2010 kaoruko    since2006/09/13