はしま道中流離譚―俺とあなたに架ける橋―
板橋は怒った口調のままだった。
「何、言ってんの・・・?」
予想外の展開に目の前がぐらぐらする。
一瞬、身体の中が燃えるように熱くなった。これって興奮してるってことだよね?
板橋とセックスか、気持ちいいかな・・・って、妄想に浸ってる場合じゃない。板橋はノーマル
な男で、きっと今の発言は怒りでよく分からなくなってるだけだ。
僕が自分の期待でやられてしまわないように、嬉しい感情を片っ端からなぎ倒して、冷静
になろうとしているのに、板橋はそんな僕にお構いなくずけずけと心の中に入り込んでくる。
「だから、俺が抱いてやるって言ってんだよ。あんた、ケツ突っ込まれる方なんだろ?」
・・・・・・板橋って時々、そう言う一瞬人を引かせる表現するよね。
確かに僕は自分が突っ込むより、突っ込まれる方が好きだけど、でも、そういう言い方って
どうなのさ。
「違うのかよ?あんた社長に犯されただの、抱かれただの言ってたから」
「そうだけど・・・」
「だったら、問題ない」
「はあ?」
「アナルセックスくらい、したことある」
「う、嘘」
「嘘なんかついて、どうすんだ。あんたが、俺のケツに突っ込みたいっていうなら、俺は
ごめんだけどな。俺が入れるんだったら出来るぜ?男でも女でも、そんなモン一緒だろ」
・・・うわあ、板橋って意外と変態?
いや、自分のこと棚に上げて変態とかいうのもアレだけど、どうもな、男同士のセックス
なら違和感ないのに、男女でのアナルセックスって、なんか変態プレイのイメージが・・・。
あれ、僕が変?
で、でも、板橋とやれる・・・。僕、どんな風に抱かれるんだろう。板橋ってどんなセックス
するんだろう。
もんもんもんもん・・・・・・。
「溜まってるなら、俺が抱いてやる」
板橋の口調は、全然優しくなかった。
ど、ど、ど、ど、ど、どうしよう。
ピンクの子豚みたいな動揺して、(熊にでも助けを呼んだらいいのか?)倒されたままの
後部シートの上をごろごろ転がった。
だって、だってだよ?板橋と僕が?ノーマルの板橋が僕を抱くって?
なんで、板橋、僕の事なんて抱こうとしてるんだよ!?
意味分かってる?僕はゲイ。君はノーマル。運転手は君だ。車掌は僕だってそれは違う。
怒りに任せて(何の怒りなんだか、イマイチわかってないんだけど)八つ当たりで、僕を
抱くなんて・・・。(よく考えたら、それって、僕にとっても失礼なことなんじゃ・・・・・・)
なのに、心の中心で、荒波に流された僕が確実に小躍りして、喜んでるんだ。
板橋とセックスなんて、こんなチャンスないって。
心なんていらない。身体だけ。気持ちよければ、それでいい。
板橋の気持ちなんてどうでもいいんだ。
そうやって、もう1人の自分が僕の気持ちを増幅させて、混乱させる。
拒絶しろよ、自分。愛の無いセックスなんて虚しいだけだ。おまけに相手はノーマルで
密かに気になってる男なんて、後悔するに決まってる。
そう分かってるのに。
気持ちが繋がらないなら、身体だけでもつながっておきたいじゃん、って足掻く淡い恋心。
あれ、これって恋なのかな。
そこから暫くはまた無言のドライブが続いた。
板橋は真夜中の高速道路をひたすら走った。景色は見えない。過ぎていく看板を見ても
自分がどこにいるのか頭が回らなかった。
板橋は何時もより加速のある走りをする。まあ、何時もが安全運転かというと、橋の事
に気を取られていて、のんびりだけど危ないという結構最悪な運転なんだけど。
そんな板橋が自分を抱くために(かどうかはわかんないけど)好きな橋に目もくれず、
高速道路を飛ばしている。
無言なのは落ち着かない。だけど掛ける言葉も思い当たらない。
僕が知りたいのは「なんで」だから。そんなの、今の板橋に言っても答えてくれるわけ
ないよね。言ったら益々怒りそうだし。
だからってむざむざと抱かれようとしてる僕ってバカ?
板橋がインターを降りたのがどこだったのか、よく分からない。2時間くらいは走ってた
気がする。カーナビの時計はもうすぐ4時になる。夜中の暗さがゆっくりと薄くなっていく。
夏って朝が来るのはやいんだな。それでも後部座席は真っ黒なスモークが貼ってあるから
まだ真夜中な感じだったけど。
板橋はインターを降りると、迷うことなく一般道を走り出す。どこに行くつもりなんだ
ろう。板橋は、何を思ってるんだ?
そう思っていると、車は20分ほどで、どこかの空き地に停まった。駐車場なのか公園なのか
暗くてはっきりしない。
エンジンを切ると、板橋はこちらを振り返った。
「見ろ、明石海峡大橋だ」
・・・・・・こんなときでも、橋の事は忘れないんだね、君って人は。
板橋はウォークスルーを通って後部座席にやってきた。隣に座ると、もう一度、言う。
「見ろよ、つい最近まで世界最長の吊り橋だったんだぜ?」
それがどれだけ凄いのか僕には分からないけど、暗闇の中にぼんやりと浮かぶ明石大橋は
はっきり言ってよく見えなかった。
「もうちょっと早く来たら、ライトアップしてたんだけどな」
「そう」
「朝になったら、よく見える」
「え?」
「来いよ、直哉」
ぞくり。
こんなときになって、板橋に初めて名前呼ばれた。いままで「あんた」ってずっと言ってた
もんな・・・。ちょっとそれって反則。
意味不明で抱かれるっていうのに、ときめいちゃうじゃん。
板橋は僕の腕を取って、シートの上に雪崩れ込んだ。
「ホントに・・・?」
「溜まってるんだろ?」
溜まってる溜まってるって、欲求不満の塊みたいな言い方しないで欲しいんですけど。
板橋は手際よく僕のズボンを下ろす。
男と初めてセックスするのに、こんなにためらいがない人っているんだろうか。自分が
ゲイだって実感してた僕ですら、初めての時は相当緊張してたのに。
板橋はむき出しになった僕の下半身を見て、真顔で言った。
「やっぱり勃つんだな」
中途半端に終わったテルとの前戯と、たった今の板橋の行動で僕の股間はあっという間に
元気になっていた。
「そういう身体の仕組みですから」
「ふうん」
板橋は躊躇いなく僕の股間に手を伸ばす。
「はうっ」
いきなり扱かれて、身体がうねった。板橋の手が吸い付いてくる。何時も思うんだけど、
他人に扱かれるって、その人の1人エッチを見てるみたいで、ちょっとだけ恥ずかしい。
きっといつもこんな風に自分の扱くんだろうなってそんなこと想像しちゃう。
僕の流されやすい意思は、相変わらず濁流に流されていて、板橋がどんな気持ちで自分
のこと抱こうとしてるのかなんて、どうでもよくなっていた。
板橋と今ここでセックスしたい。
身体繋げて、気持ちよくなりたい。板橋の心なんて、どうでもいいや。
板橋の股間に手を伸ばして、ジッパーを引き下ろす。この瞬間ってドーパミンが異常に
活性化してるって思わない?頭の中から全身に何かが駆け巡る。心拍数があがる。
指の先に引っかかった板橋のペニスは既に半勃ちになっていた。
ゲイじゃなくても、勃つんだ・・・。
僕も狭いズボンの中に無理矢理突っ込んで手を動かす。板橋の身体が時々ぴくりと揺れた。
「・・・なあ、車の中、ローションとかないんだけど、あんたらは、どうやってするんだ?」
「はい?」
「そのままケツに突っ込んだら、痛いだろ?」
何てムードのない会話。板橋ってやっぱり変だ。
「えっと・・・唾液で濡らしたりとか、じ、自分の出したので濡らすとか・・・」
「ふうん」
「何・・・ちょ・・・あんっ」
「じゃあ、とりあえず、出せよ」
板橋は僕のペニスに絡ませた指に力を加えた。ぽわんとしていた気持ちがいきなり高ぶって
いく。板橋にそんな事されてるってだけで、いつも以上に興奮してる。
初めて板橋見たとき、いい身体だって思った。ちょっと抱かれてみたいなんて、それが今
叶ってるんだもんな・・・あっ、やばいっ
「あうっ、出る・・・」
僕の一度目はあっけなかった。下半身だけむき出しにさせられて、指で扱かれて、あっと
いう間に抜かれた。
青臭い臭気が鼻を突く。板橋は僕の出した精液を手に受けると、僕を後ろ向きにひっくり
返して、それをお尻の周りに塗りたくった。
「はあんっ」
「すげえ、やっぱり普段使ってるヤツって違うんだな」
見るなよ、そんな目で。・・・っていうか、板橋、女の子としたことあるんだっけ。
板橋の指は直ぐに中に入ってきた。数日前には社長としてたことを、会って僅かな板橋と
してる。社長とのあんなに乱れたセックスが遠い記憶の彼方に散ってしまったみたい。
それだけ板橋とのセックスは刺激的で興奮した。だって、相手ノーマルだよ?
僕の中をかき混ぜる指は次第に増えて、板橋を迎え入れるのには十分なほど周りは溶けて
いた。
板橋は指を引っこ抜くと、自分のズボンを脱ぐ。出てきたペニスの大きさに僕は心なし
いや、かなり興奮した。
社長より、デカイ。
これで、突かれる。
毛穴が総立ちにでもなりそうだった。
板橋は車の後ろに付いている小物入れから(今の車って色んなところに小物入れ付いてる
よね)ゴムを取り出した。
「持ってるんだ・・・」
「昔、尿道炎になったし。相手の子なんて膀胱炎だぜ?」
「痛いね、それは」
板橋は無言で自分と僕のペニスにゴムをつけると、僕の腰を掴んだ。
「・・・・・・直哉、ケツあげろよ」
板橋は怒ってるのか、板橋のセックスがこんなスタイルなのか分からないけど、どう見ても
人格が変わっていた。
「はあんっ・・・」
「うぐっ」
板橋のペニスは僕の内側を圧迫しながらも確実に奥まで到達してくる。
奥まで突けば、ゆっくりと腰を引いて、今度はもう少しスピードがあがる。
板橋は絶対セックスに慣れてる。しかも、アナルの方。そういうのって分かるんだよね。
特にアナルなんて、やったことない人って痛いし、無茶苦茶やるし。
ただの橋オタクだと思ってたのにな。
「あっ、あっ・・・」
でも、こんな板橋もいい。僕は確実に高みに上っている。
下半身が密着して、そこが熱を持つ。肌がぶつかって、大きな音をだした。
板橋の腰の速さが変わる。息使い、時々漏れるうめくような声。板橋に抱かれてる。
「・・・出すぜ」
「う、うん」
板橋のペニスが膨らむ。その刺激を受けて僕も快楽に手が届く。
「はっ、イく・・・」
僕達は共に達していた。
どっぷり疲れて、それでもそれが心地よい疲れというか、蕩けるような疲れというか、
こんなのもアリかななんて浮かれた。
お互い横に寝そべりながら、無言だけど、僕には幸せを実感するひと時だった。普通なら
ここで睦言でも交わして、お互い眠りに付く。たとえそれが一夜限りの関係でも。それでも
僕は幸せだった。
・・・・・・はずなのに!
板橋は横を向くと、気まずそうな顔をした。
「何?」
口篭って、思わず僕の頬に手を当てる。けれど、触れた瞬間電撃でも走ったようにそれを
すぐに引っ込めてしまった。
板橋はその手を口に押さえて、喉の奥でもごもご言った。暗くて顔色まではよく見えない
けど、声は暗かった。
「・・・・・・ごめん」
「はあ?」
「ごめん、今のなし」
言ってる意味が理解できなくて、板橋の顔を見つめたら、目を逸らされた。
「ええ?」
「だから、今の事、なしにして」
な、な、な、何!!!
なんていったの、今。
梨?あ、違う。無し?・・・え?なし?無しだって?何がなしなんだ?僕とセックスしたこと?
無しってそれで取り消せると思ってんの?
なんだよ、自分から抱くなんて豪語しておきながら、やってみれば(こんな状況じゃ絶対
いえないけど、かなりよかった)やっぱり無しにしろなんて。
ポイ捨てよりひどいよ?
「あの、板橋君・・・?」
「眠い。・・・ごめん」
そう言うと、板橋は寝返りを打って、僕に背を向ける。
「えーっと・・・」
その背中に話しかけても、けして振り返らない。板橋との間にはいきなりチョモランマ級
の壁が築かれてしまった。
なんて後味の悪いセックスなんだ。お尻は未だにジンジンしてるのに、虚しい。
板橋なんかとするなよってあれほど忠告しただろ?良心がちくちく僕を苛める。
そんなの最初から分かってたよ!だけど、板橋目の前にして断れるほど僕の意思は固く
ないんだ。
しなやかな腕。密着した肌。息遣い。熱を帯びたソコと繋がって、あの瞬間は夢のように
幸せだったのに、一瞬で不幸な気分に突き落とされた。
身体だけでいいってそう思っただろ?後悔なんてないはずだったのにな・・・。
寝返りをうった板橋から、静かな寝息が聞こえてくる。
こ、このやろう・・・。人が悶々と悩んでるって言うのに、さっさと寝るのか、君は!
ごめんですんだら、ケーサツなんていらないんだぞ!?板橋のボケ〜〜〜
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