なかったことにしてください  memo  work  clap
教師失格―精力―



 優斗の押してくれた背中が熱い。
さらりと告白されたあの言葉が、本当はとても重いことを、僕は知ってる。知ってるけど
やっぱり、それに流されるわけにはいかない。だって僕は、名倉センセが好きだから。
優斗も僕も遊びだったはずなのに。優斗の気持ちが変わったのは、どうして?僕の気持ち
がぐらついたのは、いつだった?
 分からないけど、この傷は、友情っていうオブラートに優しく包み込んで、これからも
もち続けるんだ。
 優斗の垂れ目が、ますます垂れ下がって、困った顔で笑っているのが目に浮かぶ。
僕は、階段を二個飛ばしで下りる。
先生は準備室に、いるのかな。僕の事、待っててくれてる?
走るたびに呼吸が上がって、心臓がドクドク言った。
これって、人生で一番楽しいって思う瞬間?友達と遊んでるときよりも、優斗との駆け
引きや、名倉先生に嫉妬させてる時よりも、ずっとドキドキして、ずっと楽しい。
 押してだめなら、押し倒せ。僕にもパパや兄ちゃんの血がながれてるんだから、きっと
上手く行くよね。
 準備室の前で、呼吸を整えると、その扉を勢いよく開いた。






 名倉先生は、目を丸くして僕を迎えてくれた。
「天野君、なんで、ここに?」
「センセのこと追いかけてきた」
「体育大会、サボってちゃ駄目ですよ」
「センセーだって、サボってるじゃん」
「緊急の仕事です」
「ホントかなあ・・・?」
近づけば、先生はノートパソコンを閉じて、こちらに向き合った。
「何か用ですか?」
ほんの僅か目を逸らされる。黒髪で顔を隠す先生に、僕は手を伸ばして、その髪を掻き
上げた。
「・・・・・・天野君?」
「セーンセ」
ガチンコで見詰め合い、それでも目を逸らそうとする先生の顔を両手で繋ぎとめる。
「ゲームオーバー、終わったよ。身軽にしてきたから」
今度は、ちゃんと逃げないでよ?
「まだ、怒ってる?」
椅子に座ったままの先生のデコにめがけて、3回のキス。先生の体が揺れた。
大丈夫、まだ、大丈夫。
先生は、僕の事に飽きてない。ただ拗ねてただけだ。大丈夫。
「・・・センセ、早く僕の事、先生のモノにしてよ」
唇を離して、覗き込むその顔は、何時もの困った顔+深い溜息。


「もう、無理。天野君、許して」
「何、それ」
「あんまり、誘惑しないで下さい。君といると、教師とか社会人とかモラルとかそういう
ものが吹っ飛んでしまいます」
「飛ばしちゃえ、そんな、詰まんないもの」
「そんなことしたら教師失格です」
「僕なんて、ずっと昔から生徒失格だよ?」
先生から漏れる溜息。観念しろ、とドアップの顔で覗くと、先生は力なく僕を押しのける。
この、強情っ張り先生。
「先生が僕の事好きなことくらい、知ってるよ。クラス中がね!」
「あ、天野君!?」
だって、優斗がそう言ってたもん。言ったモン勝ちだけど、あながち嘘じゃない。
 押しのけられたって、こっちの方が押してやる。
僕は再び先生の首に捲きついて、先生の上に乗っかってやった。抱っこちゃん状態で
密着すると、名倉センセの心臓がバクバク言っているのが聞こえて、思わず笑った。
「こら、降りなさい」
「やーだね。先生が僕の事、好きって認めてくれたら、降りてあげる」
「天野君!」
先生の制止を振り切って、首に回した手に力を入れる。ぎゅうっと抱きしめると、先生の
心臓がもっと早くなった。

「先生、また隠れてタバコすってたでしょ」
「別に、隠れてるわけではありません。・・・・・・校内が禁煙なだけで、更衣室は禁煙じゃ
ないんです。天野君、早く降りなさい・・・」
そうやって、剥がそうとする手の力はさっきよりも弱い。もう一歩?
 首筋に鼻を付けて、くん、と匂うと、タバコと汗ばんだ匂いがした。
「先生の匂い、好き」
そのまま、首筋に吸い付くと、先生が呻いた。
「いい加減に・・・」
「いい加減にするのは、先生の方だよ。僕の事、好きなんでしょ!認めたらどうなの?」
「・・・・・・」
先生の動きが止まる。間近で見ると、先生は半分泣きそうな顔をしていた。
「センセ?」
「君には、怖くないのかもしれませんが、大人になれば、世間とか常識とかそういう柵が
怖くなるんです。天野君は、それを越えろというんですか?」
「怖いの、先生は?」
「ええ、教師ですからね。先の事も考えます。問題が起きたとき、どうなるかとか、自分
の将来とかもね」
だから、大人なんて、クソ喰らえなんだ。
「・・・・・・弱虫センセ。いいよ、怖くて、飛び越えられないんなら、無理に飛び越えて来い
なんて言わないから。でも、そこを飛び越えてくれたら、絶対後悔させないよ」


目を見開いて先生が僕を見つめた。
「凄い殺し文句」
「自信あるから」
「・・・・・・」
名倉センセの手が、僕の腰に回る。掌から伝わってくる熱に体がぼわんとした。
「天野君は、本当にそれで、いいんですね?」
「うん」
先生の肩に頭を預けると、先生の抱きしめる手に力が入る。密着した体温、心臓、呼吸
重なり合って、胸がツンとした。
「天野君には、参りました。・・・最後の砦もこんなにあっさり崩されて。逃げても、逃げて
も、追いかけてくるし。いや、追いかけてたのは天野君じゃないかもしれないですね」
背中を摩る手が頭の方まで伸びてきて、僕の髪の毛を優しく撫でた。
気持ちいい・・・・・・。
 耳元に、先生の唇が降りてくる。耳たぶに何度かキスをくれて、最後に取っておきの台詞
が降って来た。
「愛してますよ、君の事」
驚いて、顔を上げると、先生ははにかみながら、僕を見つめている。
 心の底から湧き上がる喜び。楽しいって、こういうことなんだって実感して、今度は
先生の唇にキス。
「やっぱり、押して駄目なら、押し倒せ作戦なんだな」
「なんですか・・・それは」
「ん・・・企業秘密〜・・・・んんっ」
何度もキスを繰り返すと、先生の顔がやたらとセクシーに見えてくる。張り付いて密着
しているソコは汗ばんでいた。
「・・・・・・センセ、大好き」
その言葉を合図に、僕はココが学校ってことを忘れた。






 窓際に手を付くと、遠くにグランドが見下ろせた。
 窓が閉まってる所為で、歓声も音も殆ど聞こえないけれど、生徒達がしきりに飛んだり
拍手したりしてるから、きっと盛り上がってるんだろう。
 僕の方も、さっきから盛り上がってばかりだけど。
「ねえ・・・センセ、外見える」
「・・・こら、あんまり、窓際に近づいたら・・・」
「大丈夫だって、んんっ・・・外から見たって、誰も、こんないやらしいことしてるなんて
気づかない・・・よっ・・・はっん・・・・」
そういう先生だって、僕の下半身にかっちりくっついて、右手はさっきから僕のペニスを
何度も擦りあげてる。
 先生の熱い手が気持ちよくて、さっきから出したくてたまらない。中で感じる先生も
外で感じる先生の手も、蕩けるほど気持ちいい。
 ふらついて、窓ガラスに手を突いたら、息で窓ガラスが曇った。
 窓ガラスに手形がくっきりと浮かび上がって、いかにも、いやらし事としてました感が
漂う。あのグランドから、僕の事気づくヤツ、いるかな・・・。
 みんな、目の前の応援で必死だ。目を凝らせば、男子の何人かがスタートラインに立って
いる。その中に笹部がいるのが見えた。
 笹部、100メートルだっけ。クラスの応援の目もそっちに向いている。
「ねえ、センセ、このまま出してもいい?」
「あっ・・・こら、こんなトコで」
「笹部が・・・んっ・・・ゴールするのと、・・・僕が・・・イクの、どっちが・・・はっ・・・早いと思う?」
「そんな、勝負、しないでください」
「だって・・・もう、もちそうもないもん、僕・・・センセは?」
「・・・・・・彼よりも・・・早いですよ・・・きっと」
腰の動きが一段と早くなる。
 クスクス、2人で笑って、スターターが白い煙を上げるのを見た。手を付いた窓ガラスが
腰の動きに合わせて揺れる。
 僕の中は、さっき僕がフェラで出してあげたセンセの精液でグチョグチョと音を立てる。
椅子の上で向かい合って突き上げられ、それから、センセの机の上で、寝転がらされて、
上から奥をかき混ぜられた。
 センセのペニスは最初にフェラしたときからもう固くなってて、それで余計に僕も燃えた。
出しちゃ駄目って何度も口を塞がれたけど、あえぐ声は止まらないし、キスなんてすれば
僕のアソコがぎゅうって締まった。
 先生との初めてのセックスは、思った以上に上手くいって、誰とも味わったことのない
高揚感を感じてた。
 やっぱり、一番の人とするって違うんだ、好きな人とでしか味わえない幸福。
「あっ・・・笹部、すごい・・・速いよ・・・もう、ゴールしちゃう・・・ああ、もうイきそう・・・」
「こっちも、はやいですよ・・・うっ」
「はあっ、センセっ・・・僕も、イクっ・・・!」
ぎゅっ、おなかの中に、液体が漏れ出る感覚。窓ガラスに白い液体が飛び散る。
「あ、飛んだ」
その窓ガラスの向こうで、圧倒的な速さの笹部がゴールした。白いテープを切ると、ウチ
のクラスの男たちが、シートの上で立ち上がって、腕を上げていた。
 最初は、あんなにダルそうにしてたのに。
「はあっ・・・はあっ・・・」
「うっ・・・」
「センセ・・・気持ちいい・・・今まで、一番・・・」
先生がそのまま、後ろから抱きしめた。もう、なんの躊躇いもない。まわされる腕に自分
の腕を添えて、体を預ける。
 耳に、うなじに、そして唇にキスをくれる先生に、僕は、特上の笑顔で、答える。
「センセ、大好き。またしようね」
「・・・・・・できれば、今度誘うときは、学校以外にしてください」
少し気まずそうな先生の顔をみたら、噴出してしまった。
 その拍子に先生のペニスが僕の中から外れてしまって、中からボタリ、精液が床に落ちた。
「し、染になったらどうするんですか、はやく、拭き取って」
「はあい」
先生の慌てた表情はいつだって可愛い。


 2人で後始末して、衣服を整えると、部屋を出る前にもう一度キス。
「ちゃんと、セオリーどおりに行き着いたよね?」
「何がですか?」
「好きな人同士が、試練を乗り越えて愛をはぐくむって、ラブストーリーの決まりごと
デショ?」
唇が触れ合うギリギリのところで、そんな睦言。
「試練は・・・乗り切れてるんでしょうかね」
先生からキスを貰って、僕達は部屋を後にした。










 外に出ると、火照った体が風に冷やされて、気持ちよかった。
大会のプログラムは、もうかなり進んでるはずだ。僕も先生もそれぞれ別の出口から時間
をずらして、グランドに出た。
 クラスの応援席に向かうと、優斗と笹部がブルーシートの上で転がっていた。
「アツシ、遅せえよ。俺の華麗な活躍、一つも見てなかっただろ」
「見てたよ」
「ホントかよ」
「笹部、100メートルぶっちぎりで優勝したでしょ」
「お前、それどこで・・・」
言ってから、ニヒッと笑うと、笹部がぶるっと体を震わせた。
「うわ、近寄んな、この色ボケ魔。その顔!テカテカさせてんじゃねえよ」
笹部が優斗の後ろに非難する。盾にされた優斗は苦笑いで僕に言った。
「・・・・・・上手くいったのか」
「うん。ありがと。ゆうくんのおかげ」
「そっか・・・・・・」
言葉少なげな優斗の後ろで、笹部がチクリ、チクリと僕を責める。
「ポイ捨て禁止!罰金!」
「笹部、もういいって。終わったことだし」
あんまりにも寂しそうに呟くから、僕は思わず優斗の手を握っていた。
「・・・・・・終わりなの?」
「あ?」
「ゆうくんとは、ずっと、仲良しでいたいのに」
途端、笹部のケリが飛んでくる。
「アツシ!振り出しに戻すな!!」
「あはは、冗談、冗談」
・・・・・・多分、ね。
見れば、優斗は呆れた顔で、だけど、満更でもない顔をして笑っている。それを、更に奥の方で
名倉センセが、困った顔で見ていた。
 空は快晴。今日も僕の世界は、「楽しい」で埋め尽くされている。









【天野家国語便覧】
教師失格(アツシ 策士)
男の浮気は死ぬまで直らない。これはもう病気だから、諦めるしかないよ、とにっこり
笑って、諭されてしまえば、いいように踊らされて。
結局、踊らされたのは、優斗と先生で、これからも、アツシは楽しい毎日を過ごしていく
んだろうね。
だれか、この小悪魔に説教!
3週間お付き合いくださってありがとうございました。



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