なかったことにしてください  memo  work  clap
変人の愛―情動―



 何がムカつくって、今井サンが先生に今更ってカンジでアプローチしたことでも、先生
がそれに乗せられて、鼻の下伸ばしてたことでもない。
 名倉先生が今井サンに迫られて、本当に嬉しくてあんな態度を取ってたんじゃないこと
くらい僕にだって分かってる。
 名倉先生が今井サンの話に乗るなんて、理由は一つだ。
 先生は僕の愛を試したんだ。
だからムカつく。先生は僕が嫉妬するところをそんなに見たかったの?
僕の気持ちを弄ぶなんて・・・・・・先生のくせに。



 その日の夜は、ずっと不機嫌だった。同じ部屋のメンバーとも、ろくに口を聞かないで、
布団の中に潜り込んだ。
 このまま不貞寝でもしようと思っていたら、笹部に布団の上からバンバンと叩かれる。
「アツシー、お前まだ9時だぜ」
「うっさい、いい子は早寝するんだ」
「お前のどの細胞をとっても、いい子のDNAは見つからんと思うけど」
「僕なんて、いい子の塊じゃないのさ、笹部と違ってね!」
一度布団から顔を出すと、笹部に足蹴りを喰らわせて、再び布団の中に潜り込む。
「ちょっ・・・痛てえな、この馬鹿。俺、アツシの隣で寝るのやだ。有馬っち、替わって。
っていうか、替われ」
「はあ?なんだそれ」
「眠りながら、アツシのサンドバッグになるの勘弁」
笹部の声が遠くなって、その代わりに、大きな音で、優斗が転がって来るのが布団の中
からでも分かった。
「ちょ、笹部、痛てっ・・・」
「アツシー、有馬っち置いといてやるから好きなだけ、蹴ったり殴ったり抱きついたり
していいぞー」
「アホか」
「笹部、ありがとう」
優斗の声を遮って、布団の隙間から声だけを返す。
 笹部の笑い声と優斗の溜息が聞こえてきた。





 真っ暗な布団の中でグルグル先生の悪口を考えていた所為か、点呼も消灯のチェックも
全然気づかなかった。
 というより、丁度その時間には寝ていたらしい。
 で、早寝した結果、恐ろしく早起きもしてしまったわけで。枕元のケータイを確認すると
まだ2時半だった。
 いつもなら寝る時間だ。
だけど、一度目が覚めてしまえば、脳はどんどん覚醒していって、夜行動物よろしく僕の
目は暗闇の中をばっちりと見渡している。
 男ばかりの6人部屋。布団から身体を起こし、周りを見渡せば、皆気持ちよさそうに眠って
いる。一番左端で馬鹿デカイいびきを掻いているのは笹部か、藤塚か。
 昨日も今日も散々歩き回ったのだから、疲れてるんだろう。昨日は夜中までくだらない話
で盛り上がっていたけど、流石に今日は皆寝てる。
「あー、詰まんない」

 一度、トイレに起きて帰ってきても、何一つ変わってはいなかった。
 先生の部屋に行くのに絶好のチャンスだとは思ったけど、全然行く気になれないし、かと
言って目は冴えて、眠れる気もしなかった。
 試しに布団の中に潜り込んでみるものの、寝返りを打つたび不快感で目が冴える。
これもどれも、全ていまいましい今井サンと名倉センセの所為だ。
目を閉じても開いても、にっこり笑った今井サンと、顔を紅潮させた先生の顔が浮かぶ。
脳内を払拭するように、寝返りを打つと、優斗のあどけない寝顔が飛び込んできた。
 暗闇に眼が慣れて、薄暗い中で優斗の顔が浮かんで見える。
 人って、寝ると幼い顔になるってホントなんだ。
じっくり見てたら、優斗がうーん、と唸った。
布団から飛び出した左腕が、空を掻く。かと思えば不思議な寝言で僕を笑わせた。
「・・・寝技は寝て言え、俺はプロだ・・・」
「ぶっ・・・」
優斗、可愛い。やばいなあ。今確実にキュンと来た。
 するり、ギアがシフトする。頭にくる思い出でグルグルしてるより、目の前にある面白い
ものの方が好き。
 世の中は常に楽しいか楽しくないか、判断基準なんてそれだけだ。
社会道徳とか倫理とかそんなのは大人に任せればいい。楽しいことを求めるのに、理由
なんていらない。誰かを好きという問題と、目の前にある楽しみなんて、僕にとっては
別物だもん。浮気なんて、ばれるから浮気なわけであって、ばれなきゃ、自分の精神と
戦うだけのただの遊びだ。
 名倉先生のこと追っかけてるけど、別に、付き合ってるわけじゃないし、それこそ浮気
でもなんでもないんだけどさ。
 ちらつく名倉先生の困った顔を頭の一番奥に追いやって、そこから出て来れないように、
鍵掛けて、塞いで、そうして僕は隣で眠る優斗の鼻をぎゅいっと摘んでやった。
「んんっ・・・はっ!死ぬる!」
優斗は勢いよく起き上がった。


「あはは、ゆうくんおはよう」
「ん?ん?アツシ?なんで、ここにいるんだ?」
「しっ!静かに、皆起きちゃうでしょ」
優斗は思いっきり寝ぼけた顔で僕を見る。暫くじっと固まったまま、状況を把握しようと
しているらしいが、ぼっさりした頭には何が起きたのか分かっていないらしかった。
「ゆうくん、こっち」
布団の上で座っている優斗を寝ぼけたまま、自分の布団に引き釣り込むと、僕は優斗の上
に覆いかぶさった。
「???」
「ねえ、ゆうくん」
「アツ・・・シ・・・?」
「もっと、いっぱい、秘密、共有したくない?」
「!?」
ペロリ、優斗の唇を舐めると、優斗の身体が揺れた。
 人って、急激に覚醒すると、逃げ出したくなるんだな。優斗は僕の下でじたばたもがいて
いた。
「静かにって、起きちゃうでしょ」
優斗の腕を取って、耳元で囁くと、優斗の動きが止まる。
「アツシ・・・何、コレ・・・」
暗闇の中で優斗と目が合った。



 じっと見詰め合って、優斗が小さく、マジで?と呟く。
僕は頷く代わりに、優斗の唇を奪った。音を立てないように、柔らかく、ゆっくりと
吸い付いて、割れたソコに舌を這わす。
 優斗の手が後頭部を掴んで、身体が密着する。もう片方の腕は背中に回り、ぎゅっと
抱きしめられた。
 ハグで気持ちが伝わるっていうけど、多分伝わるのは気持ちだけじゃない。このゾクゾク
としたスリルは2人で共有してる気分。お互いの性欲は絡み合って増長した。
 優斗の舌が口の中で僕の舌を引っ張り出す。舌の先で、つるつるとなぞられて、アソコ
に直結した。
 僕の身体というものは、そういうものだ。そうなったらムズムズは止められるはずもなく
優斗にもこの膨らみは伝わっているだろう。
 覚悟はいい?
そんな顔で覗き込むと、優斗は頬を強張らせてコクリと頷いた。
普通、覚悟がいるのなんて僕のほうだと思うけど。だけど、蕾のあたりは既に、受け
入れることを思ってキュンキュンしてる。
優斗の腕をはずして、首筋にキス。Tシャツの中に手を突っ込んで、優斗の筋肉質な身体
を確認する。わき腹を滑るように舐めると、優斗の筋肉がピクリと動く。
 高校生のしなやかな身体。僕なんてスポーツも何にもやってないから筋肉もないし、焼けて
もないけど、優斗の身体は綺麗だ。
 筋肉フェチじゃないけど、抱かれるなら筋肉質の方が気持ちいいのは確かだ。
ヘソの辺りまで降りてくると、優斗の腰がもぞっと動いた。
「アツシ・・・大丈夫かよ、こんなところで」
「こんなところだから、興奮するんじゃない」
そこから一気にスウェットの中に手を突っ込んだ。
 絡み付くのは、半勃ちになった優斗のペニス。握っただけで、すぐに固くなった。
「ふっ」
「・・・・・・ゆうくん、声出しちゃダメだよ」
擦りあげると、優斗の口から小さなうめき声が聞こえる。男のあえぐ声って色っぽくて好き。
 興奮して、パンツを引き下げるとそのまま口に咥えてやった。
「はっ・・・うっ・・・」
声を上げないように腕で口を押さえてるけど、十分漏れてる。可愛いなあ。
 舌先で丹念に先端を舐めて、口の中に全部納めるように舌を滑らせる。吸い上げながら
引き出して、カリに僅かに歯を当てる。
 甘噛みすると、優斗の口から、声が漏れた。
「ゆうくん、フェラされたことある?」
「・・・・・・男にはねえよ。・・・・・・アツシ、上手いな」
「鍛えてるから」
「鍛えるって・・・うっ」
「・・・・・・声上げちゃダメだって」
左奥からのいびきは聞こえたままだし、優斗が寝ていた向こう側のヤツはこっち側に背を
向けてるから、今のところは、誰にもばれてはないと思うけど、何時誰が目覚めるか、
わからない。
 見られてるか見られてないかのスリルに僕も優斗も興奮してた。優斗なんて、初めて
される男からのフェラに、只ならぬ緊張を覚えてるらしくて、口に含んだまま、擦り始めた
ら、すぐにタイムを掛けられた。
「マズイ、アツシ、俺すぐ出そう」
「いいよ、それ潤滑油にするから」
「な・・・」
「いくら僕でも、何にもないとこに突っ込まれるのは勘弁だって」
ピッチを上げて擦りあげると、優斗は簡単に僕の口の中にその欲を吐き出した。




「マジで、やるの?」
自分のお尻と優斗のペニスに優斗の放った精液を塗りたくっていると、優斗は眉間に皺を
寄せて小声で呟いた。
「怖くなった?」
「俺は・・・別に」
「だったら、大丈夫だって。・・・・・・ねえ、入れてもいい?」
「うん」
優斗に跨ると、優斗は僕のお尻を持ち上げて、ペニスを宛がう。ゆっくりと沈み込むと、
めりっと音がしそうな勢いで優斗が僕の中に入ってきた。
「んん・・・・・・」
「はっうっ」
最後までずっぷり入ってしまうと、そこでやっと息を吐く。耳元に近寄って優斗に囁いた。
「祝、仲間」
優斗がぶるんと震える。
「俺はホモじゃねえよ」
そうじゃなかったら、今やってるこの行為はなんなんだと、突っ込みたくなるけど、優斗が
やりたいのは男とのセックスじゃなくて、僕とのセックスだ。
 この快感、わかるかな。渇望されて、満たされる欲。
優斗のペニスは大きくて、中でギュウギュウと内壁を押してくる。
「ねえ、動いていい?」
「見つかんなよ」
優斗の肩に手を掛けて、真上に腰を上げる。ずりずりっと抜けて行く感覚に意識まで飛ばされ
てしまいそうだ。
 そうして再びもとの場所へ戻る。勢いがついて奥まで付いたら、僕も優斗も声が漏れた。
「うう・・・・・・」
「あん・・・・・・」
そして、お互い咎めあうように、見合って、キス。口の中に舌を巻き込んで、優斗が腰を振る。
短い息が、部屋に響く。
 地鳴りのような、誰かのいびき、寝息、そして、自分達の吐息。揺れる振動で、誰かが起きて
しまわないか、気にしながら、僕も腰を振った。
 優斗の小さな呻きが何度も聞こえる。


 何度目かのスウィングのあとで、いきなり地鳴りが止まった。ゴウゴウと聞こえていた
音が止まれば、自分達の動きも止まる。
「え?」
「?!」
暗闇の中、左端を見れば、音の主がむっくり起き上がって、奇声を上げた。
「があっつ」
笹部か。思わず優斗と顔を合わさると、優斗は素早く僕を抱き寄せて、布団の中に潜り込む。
布団の中でじっと息を潜めていると、笹部はそのまま、ぱったり後ろに倒れた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
再びゴウゴウと鳴り響く地鳴り。


「びっくりした」
「興奮した」
「アツシ・・・・・・お前は、もう動くな」
優斗は僕から一度出ると、寝たままで僕を後ろから抱き寄せる。濡れたままのソコはすぐに
優斗を受け入れた。
「心臓止まるかと思ったぜ」
「だけど、続けちゃうんだ」
「こんなところで、やめられるかよ。夢に見ちゃうだろうが」
「夢精しちゃったりして」
「かっこ悪りィこと言うなっつーの」
優斗は腰を掴むと僕の中を何度も往復した。
 優斗のセックスは結構気持ちよかった。人目を気にしないところなら、もっと乱れたいし、
優斗もきっとこんなんじゃないだろう。アナルセックスに慣れれば、テクも上がるだろう。
そんな優斗とセックスに溺れるのも楽しそうだけど、これはこれで、興奮するし、ソコに
意識が集中する分イクのも早く感じた。

「俺、もう出そう」
腰を振る優斗が耳元で唸る。
「いいよ、僕も限界」
「お前の中で出していい?」
「いいよ・・・・・・ってあ、待って・・・僕も・・・イきそう・・・だけど・・・・このままじゃ・・・あっ」
優斗の腰がぐいっと密着して、ペニスが中で膨張する。刺激が一気に伝わって、止められ
なくなった。
「もう、まてねえよ。うっ」
「ああっ、もう、シーツが!」
言った途端、優斗は僕の中で精液をぶっ放し、僕は自分のシーツにぶちまける事となった。

「あーあ、汚れちゃった。旅館の人に見つかったらどうすんだよ」
「・・・・・・ぶっ、夢精でもしましたって言っておけば」
「優斗っ」
「アツシかっこ悪い」
べっちょりとシーツにとびちった自分の精液の上に、申し訳程度にティッシュを重ねて、
とりあえずは知らん顔することにした。
 給仕のおばちゃん、見たらびっくりするだろうな。ゴメンナサイ。
はっ、と一息。地鳴りは相変わらず聞こえて、振り返ってみれば、皆静かに寝息を立てて
いる。
「最高だったね」
「アツシ、変態か」
「ゆうくんだって、興奮してたくせに」
お互い笑って、軽くキス。足で手繰り寄せてパンツを履くと、あとは緊張の糸が切れたように
どっと疲れが出る。
 名倉先生も今井サンもこの時ばかりは、全部きれいに頭の外で浮いていた。罪悪感も心の
痛みもない。ただ、優斗の刺激が全て。
 目を閉じると、もう一度、優斗がキスをしてきた。それに答えるように舌を出して、絡め
合い、唇が離れると手を握る。
僕も優斗も、そこで記憶が途切れた。






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【天野家国語便覧】
変人の愛(あっくん 作)
一つ、心と身体は直結したりしません。一つ、浮気はばれなければ、浮気ではありません。
一つ、好きなものへは素直に心も身体も開きましょう。
そんなタフな愛を追求する人へのHOW TO本。一緒にラブレッスンしませんか?
(やりすぎに注意)



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レス不要



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