なかったことにしてください  memo  work  clap



mission_2nd_season



玄関入った直後に我慢しきれずにお互いキスを貪り合うなんてシチュ、どんだけ頭、沸い
てんだ。ドラマや映画で見た光景をちょっと馬鹿にしつつ、吉沢さんと俺じゃありえない
だろうなあと諦めてたけど(やっぱり憧れてたのか)そういう状況になるとこれは必然な
のかもしれない。
家までの帰り道、平然を装いながら歩いていたが、時々触れ合う指先が身体を焦がした。
口では普通の会話を続け、身体は見えない攻防を続けた。
マンションのエントランスでも、監視カメラに映っているのはビジネスマンの帰宅姿だろう。
和やかに談笑しながら歩き続ける会社帰りのサラリーマンの間に秘密の駆け引きがある
なんて管理人のおじさんだって気づかないはずだ。
それくらい俺達は神経を尖らせて、体中から発している雄の匂いをスーツの中から零れ落ち
ないように歩いた。
そして、ぎりぎりまで我慢して我慢して、玄関のドアが閉まった瞬間、パチンと壊れた。
俺の後ろでドアが閉まると吉沢さんが振り返った。目が合ってお互いが同じ気持ちでいる
ことを確認すると、どちらともなく唇を奪いに掛かった。
「んんっ」
「はうっ」
お互い歯をぶつけて、がっつきすぎだと笑われそうなキスで苦笑い。一呼吸置いた後、
やっぱり歯のぶつかるような激しいキスを繰り返していた。
キスしながら靴を脱いで、スーツも脱ぎ捨てて、いつもの吉沢さんなら考えられない行動
を繰り返しながら、下着姿でベッドにもつれ込んだ。
「深海、ガキみたい」
「今の俺には大人の余裕なんて存在してないみたいです……ってその言葉そっくりそのまま
吉沢さんにもお返ししますよ」
ベッドの上で横になってじゃれてると、吉沢さんが馬乗りになってきた。
両手で俺の頬を挟むと、顔を近づけてまっすぐに見詰められた。僅かな沈黙が周りの空気
を熱くする。何度か言葉を選んで、吉沢さんはねっとりとした口調で言った。
「深海、行くな」
冗談の中に混じっている本音を俺も肌で感じる。吉沢さんができる唯一の甘え。自分で
推した手前、引けなくなっているのも分かってるし、気持ちの後始末も自分でするしかない
と覚悟も決めているはずだ。だから、俺もそれを冗談で流した。
「吉沢さん、こっそり一人酒してませんでした?……酔ってるでしょ」
俺も吉沢さんの頬に手を当てた。
「……お前に酔ったかな」
じっと見詰め合っていると、吉沢さんの瞳が潤んでいった。それから、吉沢さんは俺を襲う
みたいに情熱的なキスを降らした。
そんな後悔するんなら、俺を海外になんて飛ばさなきゃいいのに。その言葉をさっきから
何度も口にしそうになっているけれど、寸前のところで我慢する。
俺との将来を真剣に考えて出した吉沢さんの答えなのだから、俺もそれに応えるべきだと
思うのだ。この関係を親に報告できる日がくるのか分からないけれど、せめて出世して
親を安心させたいっていう気持ちは俺の中にもあった。だから、吉沢さんが俺の背中を
押したことは、もう恨まないし、受け入れようと思う。
吉沢さんは唇を離すと俺を見下ろしてはにかんだ。
「深海はさ、俺が仕事にプライベート持ち込まないとか公私混同しないとかよく言うけど、
全然違うんだ」
「そう……ですかね」
吉沢さんは照れ隠しなのか、俺の身体を撫で回しながらそう告げる。
「他のヤツには公平に接してるつもりだけど、お前は別」
「吉沢さん……」
「仕事の出来る男にしようって企んだり、今回の転勤だって、お前なら出来るっていう上司
の視線よりも、出世させて両親を安心させたいっていう私欲丸出しだ」
吉沢さんは俺のむき出しになって乳首を指で捏ねながらそんな話をした。俺は身体をくね
くねさせて吉沢さんの声を聞いた。
「……まあ、深海に関して言えば、最初の最初から別だったけどな」
苦笑いする吉沢さんに俺は素っ頓狂な声で返事してしまった。
「へ?……んんっ!」

吉沢さんが指で乳首を摘んで引っ張った。それから顔を耳元まで近づけると俺だけに聞こえる
声でそっと囁いた。
「職権乱用」
その懐かしい言葉にまた俺の胸はきゅうっと踊った。それは俺が吉沢さんに「落とされて」
「告白した」ときの事だ。忘れるもんか。
上司の立場を利用しまくって、俺に接近してきた吉沢さんに、俺はそんなことは露知らず
まんまと好きになって、悩みまくった挙句告白してしまったという馴れ初めの話だ。
「俺、何時だって吉沢さんの掌で踊らされてるんですね」
「躍らせたいわけじゃないんだけどな……俺がこういう性格だし」
「俺もこういう性格ですしね」
あれだけ仕事の鬼と言われている吉沢さんが、矛盾する二つの気持ちの間で揺れていると
いうことだけでも、俺は愛されているんだろうなあって優越感に浸りたくなる。
吉沢さんの闇の部分に俺はまだ到達できていないんだろう。俺の知らないところで悩んだり
苦しんだりしているんだと思う。
いつか、大きくなってそういう部分をひっくるめて吉沢さんを包み込める男になりたい。
「俺、もっと、おっきくなりますから」
真剣に言ったのに、吉沢さんは俺の股間を見下ろして笑った。
「ちょ……!もう、珍しく真面目に言ったのに!」
俺は形勢逆転して吉沢さんをベッドに押し倒した。くすぐったそうに笑う吉沢さんの頬や
首筋をちゅっちゅと軽い音を立てて吸い付く。
「や、やめろって…くすぐったっ……んん!」
じゃれあっているようで、吉沢さんの弱いところを突くキス。笑い声の中に色の付いた声が
混じり始めると、俺も止まらなくなった。
キスを体中に降らしながら、胸の突起物を掌で捏ねた。自然と硬くなる乳首に今度は舌を
這わせると、吉沢さんの身体がピクリと跳ねた。
「ああっ」
吉沢さんの口から甘い声が漏れる。俺は腰の辺りで暴れ始めているブツを吉沢さんに擦り
つけながら、更に吉沢さんの身体に吸い付いた。
吉沢さんの身体がピンク色に染まっていくのを眺めて、鼻の奥が痛くなった。
「こうやって、吉沢さんに痕を付けられるのも、今日と明日しかないんだ……」
「今生の別れみたいに言うなよ」
「だって……当分は禁欲生活になるんだもん。悔いの残らないようにまるっと頂かないと」
「そうだな。暫くは、お互い我慢の日々だな……」
吉沢さんが俺の腕を擦った。会いたいのを我慢する。キスしたいのを我慢する。抱きたい
のを我慢する。今まで何度かそういう場面はあったけれど、距離の不安はなかった。出張
でお互いがいなくても、長くたって2週間もすれば会えた。
でも、今度は……
こみ上げてくる苦しさに改めて事の重大さを実感する。
「この距離は、はっきり言って絶望的ですよ……夜中に会いたくなったって、会いに行けない
どころか、相手は夜中じゃないかもしれない。夜中の寂しさすら共有できないんですよ?」
「時差6時間だっけ?」
「……俺、頑張れる自信が全然ない。仕事もそうだけど、吉沢さんなしの生活なんて、水
のない魚みたいですよ。即死!」
裸の吉沢さんをぎゅうっと抱きしめて首筋に顔を埋めた。吉沢さんの匂いを嗅ぐと今にも
涙が零れそうになって、必死で瞬きをした。
じっと動かないでいると、吉沢さんがもぞもぞと腕の中で体勢を変えた。
「……いい思い出作ってやるから、お前もやる気出せ」
吉沢さんはするりと俺の身体をすり抜けると、俺の下着を剥いだ。そして、半勃ちになって
いた俺のブツに手をかけるとゆっくりと擦り始めた。
「うっ!」
擦り始めると同時に、先端に生ぬるい感触が走った。見れば吉沢さんが舌を這わせてぺろ
ぺろと俺のペニスを舐め始めていたのだ。
突然の刺激にペニスは一気に硬くなって、吉沢さんの手の中で踊った。
「はぁっ!」
ペニスから脳天に突き抜けるような刺激とぞくぞくとする気持ちよさが俺のセンチな気分と
ごちゃまぜになる。
「やばい……気持ちいい……」
吉沢さんにフェラしてもらうのはそれほど珍しいことじゃないし、口の中に放ったことも
あるくらいだけど、当分これで見納めだと思うと興奮も思い入れも倍増した。
うん、いい思い出にするよ、吉沢さん。寂しいときはこれ思い出して頑張ろう。
俺は吉沢さんの頭に手を伸ばし、優しく髪の毛を撫でた。
俺よりも年上で、男で、しかも上司の吉沢さんが俺の股間に顔埋めてるなんて、誰も想像
できないだろうけど、きっと吉沢さんだって自分のプライドと戦ってきたと思う。
俺に抱かれるまでに捨てたプライドを俺は大切に包める男になりたい。
「吉沢さん、ありがとうございます」
「……深海?」
「吉沢さんにも、いい思い出を!」
俺はベッドサイドからローションを取り出すと、掌に零した。



まだ硬くなっている吉沢さんの蕾に手を伸ばし、ローションまみれの指を軽く押し当てた。
「ふっ」
ゆっくりと食い込んでいく人差し指を俺は眺めながら、空いた片手で吉沢さんのペニスも
擦った。
「あっんん」
既にかなりの硬度をもっていたペニスは俺の刺激に元気に揺れた。咥えられた指を出し入れ
繰り返すうちに、蕾も柔らかく溶け始め、二本目を飲み込もうとしている。
「もう入りそうですよ」
「んん……はやく……!」
吉沢さんは自分の腰を浮かせ、俺を催促する。俺はペニスで遊んでいた手を止め、吉沢さん
の足を抱きかかえると、二本目の指も奥まで滑りこませて、吉沢さんの中をひっかき回した。
「ああっ……」
吉沢さんの身体がぶるっと震える。気持ちが高ぶる場所を素直に刺激してあげると、眉間に
皺を寄せたまま目を閉じた。
「そんなに難しい顔しないで」
俺は吉沢さんの中を攻める手を止めず、抱きかかえた腿の裏側に唇を落とした。
「難しい……顔なんて……ああっ!してないっ……んん」
「気持ちいいんでしょ?我慢しないで。ほら、吉沢さんのココ、もうこんなにトロトロですよ」
「はうっ」
指を抜き差しして見せると吉沢さんの身体が緊張した。腰の辺りが新しい刺激を求めて
いやらしくくねっている。早く入れたいのは山々だけれど、今日はたっぷり思い出を作る
んだ、と俺は自らをこんなところで律した。



散々吉沢さんの中を指でまさぐったあと、真っ赤な目をして吉沢さんに「お願い」されて
俺も我慢の限界が来た。
自分のペニスにもたらりとジェルを垂らすと遠慮なく吉沢さんの中へ突き進んだ。
「あうっ……入るよ……吉沢さん……!」
「はぁっはぁっ……」
吉沢さんの秘孔はじゅぶじゅぶと音を立てて俺のペニスを咥えて込んだ。
一番根っこまで収まると、暫く止まって、吉沢さんの中を感じる。吉沢さんがムズムズ
してくるのがこっちにも伝わって、俺はゆっくりとグラインドした。
引っこ抜かれていくと、吉沢さんの口から力の抜けた声が漏れる。抜けるぎりぎりまで
腰を引いて、今度は圧力に逆らうように中へと進んでいくと、高い声が上がった。
「喉、痛めないでくださいね」
「うぅ……」
吉沢さんは俺の腕を掴んで何かを訴えているが、俺の腰の動きで全ての表情が変わって
しまった。
「ああっ!あっ!」
俺も散々我慢していた反動がきて、一度動き出したら止まれなくなった。
ずんずんと腰を振ると吉沢さんが俺の下で小さく叫ぶ。身体を折り曲げる体勢は吉沢さんが
辛いだろうと、抜かずに吉沢さんの後ろにまわると、ベッドに寝転がったまま、後ろを
突いた。
「凄いよ、きゅうきゅうですよ、ここ……俺、いつでも出せます」
「うん……俺も、いつでも……んんっ」
いつもは減らず口の吉沢さんが素直に果てようとしているので、きっと相当溜まっていた
んだろう。俺も下手に煽ることなく、そのまま一気に上り詰める道を選んだ。
「いきそう……っていうか、もう、我慢できません…ううっ!」
「ああ、深海!深海!」
吉沢さんが俺の名前を呼ぶ。俺は吉沢さんの腰に手を掛け、耳元に唇を寄せた。
「愛してます」
「ああっ」
その言葉に吉沢さんのうち腿が白く汚れたのだった。





土曜日は一日べったりと張り付いて、最後の休日を惜しみながら過ごした。
期限が決まってない海外勤務が恋人達にとってどれだけ苦難を強いられるのか想像した
だけでも泣けてくるから、もうそういうネガティブなことは考えないようにしようと、
吉沢さんに誓った。俺達の愛は本物なんだから、乗り越えられるさ。
そう舌の根の乾かぬうちに、やっぱり行きたくない、離れたくないって駄々を捏ねてるの
も俺なんだけど。
でも、日が変わって出立の日が来ると自然とスイッチが切り替わった。
やるしかないじゃないか。
うちの両親云々の話は置いといてでも、やっぱり任された仕事はきっちりこなして、出来る
姿を吉沢さんに見せたい。推してくれた吉沢さんの顔に泥を塗るわけにはいかないし、俺は
そっちの方が重要なんだ。
やれるところを見せて、吉沢さんに惚れ直させたいっていう下心もありありだけど、そりゃあ
男ですから。年下で部下で、ただでさえマイナス査定されてるんだから、どんなことでも
点数稼ぎはしなくちゃ。これ、転んでもただでは起きないの鉄則。吉沢さんに教えられた
失敗を乗り越える術だ。
「深海、そろそろ時間じゃないのか」
「あ、はい……」
吉沢さんは空港まで見送りに来てくれた。空港ロビーで時間を潰している間は上司と部下
の顔で、吉沢さんも心なしが表情が険しかった。
吉沢さんの合図で立ち上がると、俺はコートに隠して吉沢さんの手を小さく握った。
二人だけに分かる愛撫で気持ちを伝えると、吉沢さんの瞳が微かに潤んだ。
「深海……でっかくなって帰って来いよ」
「はい」
「信じてるから」
「吉沢さん?」
「ちゃんと帰ってくるって……」
「帰りますよ!」
俺が反論すると、吉沢さんは声のトーンを下げた。
「浮気すんなよ?」
「しませんよ!!」
真剣に返す俺に吉沢さんの瞳も笑みに変わった。
「……お前、流されやすいからなあ」
「言葉も生活習慣も違う超アウェイで浮気できたら奇跡ですよ」
俺も冗談っぽく返す。けれど、冗談抜きで向こうに行ったら激務が待っていて、恋愛だの
そんなこと言っている暇はないだろう。勿論、浮気なんてしません。最愛の恋人に誓って!
同便の乗客達が移動し始めて、俺の後ろを通過していった。
「早く行けよ。遅れるぞ」
「……はい。行って来ます!」
吉沢さんは背中をぽんと叩いて俺を送り出してくれた。吉沢さんは最後はにっこりと、
恋人の顔で手を振ってくれた。



こうして俺は、不安と期待を抱えて、日本を旅立ったのだった――。








2012/02/27
お読みくださりありがとうございました。
2nd_seasonもお楽しみいただけるように頑張って書きたいと思います。




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