なかったことにしてください  memo  work  clap



泣きそうな顔でそんなぶっとんだこと言ってくれるもんだから、俺は先ほどの遠慮なんて
言葉はそこら辺の溝にでも即効捨てて、腰を掴むとガシガシと自分の楔を打ち込んでしまった。
「うぅ・・・吉沢さん、すげぇいい・・・」
「あぁっ・・・やだ・・・そんなに、がっつくなって・・・俺、壊れる・・・」
「・・・だって・・・俺、すげえ、感動しちゃって・・・俺も、吉沢さんのこと、好きです!!」
自分の感情をぶちまけるたびに、当然腰の動きも速くなるわけで、吉沢さんの悲鳴と罵声
がだんだんと大きくなる。
それでも自分の暴走した本能は止め様もなく、膨らみつづけた欲望の吐き出し時を、今か
今かと待ちわびているようだった。
俺は腰を推し進めながら、もう片方の手で吉沢さんのペニスを手で軽くしごいてやった。
「ああ・・・」
「ねえ、感じる?」
「はぅ・・・ばか・・・聞くな・・・」
恥ずかしそうに答えるところを見ると、吉沢さんも十分感じてはいるらしい。
俺は繋がったまま、吉沢さんを仰向けにひっくり返すと、お互いの顔が見えるような
体勢に変えた。
両足を肩に掛けさせ、もう一度奥まで貫く。
「あんっ・・・」
吉沢さんの苦痛と快楽に溺れた顔を見て、自分のモノがもう一回り大きくぱんぱんに
膨れ上がった気がした。
「やべえ・・・もう、ダメかも・・・俺」
何度も言うようだが男は初めてで、相対的に女との違いなんて分かりっこないんだけど、
俺はけして強くはないけど、たぶん弱くもない標準的な男だと、勝手な根拠の元に思っていたけど、
今日の俺は、多分やばい。
こんなに興奮したのも初めてなら、こんなに早くイッてしまいそうになるのも初めてだ。
「・・・ったく・・・参った・・・」
上気した顔で俺を見上げる吉沢さんに口付けを落とし、
「もう、とまんねぇ」
と吐き出すと、片手は吉沢さんのモノに手をかけてこすり上げながら、最後の砦を崩す戦車
のごとく俺は猛進し始める。
「深海、ふかみ・・・ああ、ふ、かみ・・・」
吉沢さんの感じている声が聞こえる。
「ねえ、吉沢さん、俺の名前呼んで、俺の名、慎一郎って」
「あ、ああ、ダメ・・・あう、あぁっ・・・」
「ね、聞いてる?聞いてないなら、やめちゃうよ、ね?」
「や、やだ・・・ふかみ・・・」
「だから、ね?」
俺は吉沢さんの腰を掴んでこれでもかって言うくらい腰を振った。ぬちゅぬちゅといやら
しい音が俺のペニスを一層硬くする。吉沢さんにもそれが伝わったのか、さっきより3音く
らい高い声で啼く。そろそろ終わりが近い。俺も吉沢さんも。
「ああ、もうダメだよ、吉沢さん、出ちゃうよ」
「はぅ・・・はぁ・・・じゃあ、深海も・・・」
「え?」
「ああっ・・・なまえ・・・」
吉沢さんが熱の篭った瞳で俺を見つめた。そんなこと言われたら限界が益々早くなってし
まうじゃないか。
 いいよ、呼んであげる。俺の、俺の愛しい人。
「あ・・・あっ・・・ダメ」
吉沢さんのいやらしい声が響く。その口で、そのいやらしい、綺麗な口で・・・
「しんいち、ろう・・・」
俺の名を呼ぶからドキドキが止まらなくなる。ああ、この人がこんなにも好きだ。
幸せと即物的な快楽が脳天を一気に駆け上った。
目の前に広がるのは極彩色。スパークする目の裏側の世界。張り詰めた緊張と
落ちていく快楽に俺は叫んだ。
「はるひこさんっ・・・」
俺と吉沢さんは同時にお互いの名前を叫んで、そして果てた。





 あまりに強い興奮と刺激で、俺ですら解放された瞬間、暫く放心して動くことが
出来ずに、そのまま眠りに落ちてしまったらしい。
吉沢さんに至っては、気を失っているわけではなさそうだったが、寝返りを打つ
気にもならないくらい放心していたらしく、俺が眠りに落ちる前に、俺に背を向けて
安らかな寝息を立てていた。
 俺は鼻に掛かる髪の毛を何度も払いのけているうちに、目が覚めた。
そして、それが、吉沢さんの柔らかい前髪であることを確認すると、心の奥底から
じわじわと幸せが沸き上がってくるのを感じた。
優しく、起こさないように、と注意しながら、おでこに張り付いた前髪を指でつまんで
取ってやる。
この人は、寝ててもかわいいんだなぁ。
俺の腐りかけた脳は、もはや吉沢さんは何をしててもかわいいとしか、感じ取れなく
なってしまったらしい。
くすっと忍び笑いを漏らすと、吉沢さんが目を覚ました。
「あ、おはようございますっ・・・」
意識がだんだんとはっきりしてきたのか、吉沢さんは俺の顔を見て、眉を寄せた。
「あ・・・変態深海」
「なんですか、それはっ」
「じゃあ、・・・深海サル」
「ひ、ひどいデス。俺、一般の青年男子デス」
「俺、今なら慰謝料とれるかな」
「なんでですかー」
吉沢さんはクスクス笑って起き上がった。
「シャワー浴びてくる」
「あ、はい」
そのままベッドから這い出して、裸のまま風呂場に向かおうとして振り返る。
「お前も一緒に・・・」
「え?」
「・・・」
「一緒になんですか?」
俺が聞き返すと、吉沢さんは押し黙って、やがてにっこり笑って言い放った。
「やっぱりやめた」
「はい?」
「おまえに、一緒にくるか?って聞こうと思ったけど、やめた。どうせ、がっつかれる
だけだし」
「ひ、ひどい・・・人を獣みたいに」
「そのとおりだろう」
吉沢さんはそのまま振り返らずに行ってしまった。
「あ、まってください、俺も一緒に風呂はいりますー!!」
俺は慌てて吉沢さんの後を追った。
別に、変態といわれるほどがっついたつもりはないんだけどなぁ・・・。吉沢さんだって
十分に感じてたと思うし、サルといわれるならお互い様ってモンだろう。
それが、吉沢さんの照れなどという考えには全く至らず、俺はぼんやり考えながら、
吉沢さんのあとに続いて、俺も風呂場に入った。
中では吉沢さんがシャワーを身体に当てながら、頭を洗っていた。
「なんだ、結局来たのか、変態君」
「そんなに、変態、変態、言わないでくださいよー」
俺に背を向けて、頭を洗い流しながら、吉沢さんは俺に罵声を浴びせた。
その背中には、数個の俺の付けた花びらが、怪しく浮かんでいる。
でもそれは、本人が気づくまでは秘密にしておこうと心の中で誓ったのだった。





「おはよう」
「あ、おはようございます」
今日も営業1課に吉沢さんの声が響いた。
 皆が一斉に顔をあげ、ひと時の安らぎと一日の活力を得ようとしている。
「あれ?吉沢課長、何かいいことでもありました?」
開口一番立川さんが鋭い突っ込みをする。
「そう見える?」
吉沢さんはポーカーフェイスを崩さずに立川さんに聞き返す。
「なんとなくですけど、誕生日は・・・まだですよねぇ」
「あはは、個人的ないいことなんて何にもないよ。ただ、今回の新人研修の成果が
結構いい感じになったからな」
「そうなんですか?」
「ああ、評価はいいよ」
そういいながら吉沢さんが俺の方に歩み寄ってくる。そして、事もなさげに
「深海ががんばったからな」
と言うと、ポンと俺の肩を叩く。
「え?俺・・・ですか?」
「お前、深夜までがんばってたじゃないか」
・・・深夜にがんばってたのは別のことですけど・・・。
うわ、いかん、俺何考えてんだ。
「いや、吉沢課長がケツ叩いてくれたおかげですよ」
「ま、最終的にはお前自身のがんばりがきいたわけだからな。どうだ?今日あたり
打ち上げにでもいくか?」
吉沢さんはさらっと飲みの誘いをしてくる。
 これで、2人で会っても「密会」などと言われずに済むわけだが・・・。
「深海さんずるーい、吉沢課長また深海さんだけ、ひいきですかー?」
ほら、耳をダンボにしてた立川さんがすかさず割り込んでくるから。俺は吉沢さんを見ると
吉沢さんはまあまあ、と立川さんをなだめている。
「今度な、今度」
「課長の今度は当てにならないですー」
「はは、信用されてないなあ。部下に信用されないなんて課長失格だな」
「そういうわけじゃないですけど・・・」
さすがにそういわれては返す言葉もないだろう。吉沢さんは笑ってその場を凌ぐ。
 その横顔を相変わらず「かわいい」と罰当たりな感想を持って俺は掠め見る。
今や、その思いは片方向ではないのだから、俺ってホントに果報者だよな。仕事
も器量も突出してすごいわけじゃないのに。
 俺が鼻の下を伸ばしながらそんなことを考えていると、 一瞬、吉沢さんが俺を
見上げ、そして、あの俺にだけ見せた顔でにっこりと笑った。
え?・・・今・・・。
はっとして目を凝らせば、もうそこにはいつもの吉沢さんの姿で、隣の斉藤さんと
別の話を始めている。
 俺は心の中で嬉しさをぐっとかみ締め、今夜の2人を思っていた。

(了)


2006/07/31
 リーマン天国で楽しかったですが・・・業種を直感で決めてしまったため、この会社、一体
何してるとこなんだかわけわかんなくなってしまいました。済みません、そのあたりはあまり
つっこまないでください(笑)








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