「深海、俺と別れたい?」
弾かれた言葉に驚いて思わず急ブレーキを踏んだ。
あんた、今なんて言ったんだ?!
これは吉沢さん流の怒りの表し方なんだろうか?
「・・・吉沢さん、やっぱり怒ってるんですか?」
「・・・」
「すみません、俺軽率でした」
呆れてる?怒ってる?びくびくしながら、振り向けば、眉間に皺を寄せて悲痛な面持ちで吉沢さんは
正面を向いたままもう一度言った。
「お前、俺と別れたいんだろ?」
「は・・・い?」
悪い冗談というよりも、俺の聞き間違いかと思った。別れたがってるのは俺じゃなくて、吉沢さん
だろ?だからこんなにも俺に距離を置いていたんじゃないのか?
「深海、別れたいのなら、遠慮しなくていいよ」
あの、言っている意味がわかりません、吉沢さん。あなたのそのよすぎる頭はどこをどう回転させたら
そんな結論になるんですか。吉沢さんは首を振って、いいんだ、言ってくれと今にも泣きそうな顔を
している。
な、なんだよこの展開。全然着いて行けないんですが。自分の予想を遥かに超えた吉沢さんの発言に
頭が混乱している。・・・冷静に考えた方がよさそうだな。
俺は走りながら周りを見渡す。近くに海浜公園があるのを思い出して、車をUターンさせると、会社とは
逆方向に車を走らせた。そして海浜公園の駐車場に車を乗り入れる。
砂浜を固めて作ったような簡易な駐車場には街灯もなく、車のライトを消せば周りは闇だった。
ぽつぽつと駐車している車があったが、それらもこの暗闇の中では存在を確認できる程度でしか
分からなかった。海の音が窓を閉めていても聞こえてくる。エンジンはかけたままパーキングに入れて
止まった。シートベルトをはずして、呼吸を整えると吉沢さんの方を向く。
吉沢さんはすっかり覚悟を決めたような顔をしていた。とりあえず、その誤解は訂正しなくては。
「あのう、吉沢さん」
吉沢さんは俺の言葉を遮ってしゃべり出した。
「・・・お前、俺の事、正直うんざりしてるだろう?こんなことで怒って、お前の事無視して、だから」
両手で頭を押さえながら、吉沢さんは苦しそうな声で気持ちを搾り出しているようだった。
「だから、お前、俺の部屋に来なくなったんだろ?」
「何、それ」
違うだろそれ。
開いた口が塞がらないというのは、本当の事なんだな。俺はアホ面よろしくぽっかり口を開けたまま
吉沢さんのマックス勘違い思考を聞いている。
「・・・お前が、別れたいのなら・・・」
「ちょ、ちょっと、待ってよ。別れたい?いつ、だれが、どこでそんなこと言ったの?!」
「深海・・・」
なんだよ、吉沢さんこんなに泣きそうになってるじゃないか。俺は苦笑いになって気持ちを告げた。
「俺は、吉沢さんがずっと怒ってて、それで俺に愛想尽かせて別れたくなったんだと思ってました」
「・・・」
「済みませんでした。俺、吉沢さんのこと、すごく好きだから、すぐ調子に乗るし病院でもバカなこと
してしまったけど、でも吉沢さんと別れたいなんて一度も思ったことありません」
吉沢さんを覗き込めば、焦点の合わない瞳で前を向いている。俺の言っていることが信じられないの
だろうか?俺は吉沢さんの手を取り、もう一度気持ちを伝える。
「俺は、ずっとあなたが好きですよ」
一体どこでどうなってしまったんだろう。このバカみたいな勘違いは。いい大人の癖に、謝罪ひとつ
できないで喧嘩をこじらせて、二週間も絶縁状態だったのだ。
「俺は・・・」
その先は言わなくていいですよ、吉沢さん。お互いがくだらないことで悩んでただけなんだから。それに
元はといえば、俺のあのキスがいけなかったんだし。
「仲直り、してもらえます?」
上目遣いで吉沢さんを見ると、唇をきっと引き締めてこくりと頷いた。その姿が可愛くて、俺は身体を
寄せて唇に軽いキスを落とす。
「今日は怒らないでくださいね」
照れ隠しなのか、吉沢さんの返事はない。だけど、もう一度唇を重ねれば、吉沢さんが全然怒ってない
ことなどすぐに判る。
伝わってくる熱に鼓動が速くなる。心と身体って連動するもんなんだな。心が暖かい。吉沢さんは
いつだって愛おしい人だ。
俺は吉沢さんのシートベルトを外すと助手席の背もたれと一緒に吉沢さんを倒した。
「深海!?」
驚き顔で俺を見上げる吉沢さんにねっとりと舌を絡ませて、その意思を伝える。
カーセックスなんて10代のするもんだって馬鹿にしてたけど、抜き差しなら無い状況になればやっぱり
やってしまうのが男ってもんなんだろう。
吸い上げた下唇に舌をなぞらせてると、吉沢さんの息が漏れてくる。色っぽいその声だけで、自分の
股間がでかくなる。溜まってるなあ、俺。
「1ヶ月もおあずけ喰らって、俺我慢できないんですけど」
吉沢さんの腹部に股間を押し付けると、その膨らみに驚いて吉沢さんが小さくバカと呟く。だけど、
そういう吉沢さんだって、ズボンの上からでも分かるほどぱんぱんに張り詰めているじゃないか。
股間に手を伸ばして上から握ると吉沢さんの身体がびくっと反応した。
「ここでしたい」
耳元で囁くと吉沢さんが身体をよじって抵抗する。そうするとうなじなんか見えて、すかさずそこ
にもキス。ちゅっと音を立てて吸い付けば、悩ましげな吐息と共に
「んっ・・・人が見てるから・・・駄目だ・・・」
と吉沢さんの相変わらずな言葉で反論される。でも俺だってこんなトコで引く気にはならない。
「こんな暗闇の中じゃ、何してるかわかんないですよ」
ネクタイに手を掛けて、一気に引き抜くと、ネクタイはしっとりと湿っていて、吉沢さんの首回りが
汗で濡れていたことに気づく。こんなに緊張してたのかな、俺の事で。
そう思うと申し訳なさと嬉しさで俺の頭の中が一気に春めいてくる。だって、何て勘違いなんだ。
お互い遠慮して傷ついて、終わりだなんて悲観して。バカみたいだ。バカみたいだけど、そうやって
悩んでた時間もこの至福の時間への肥しだと思うとなんだか愛おしい。
さっきから吉沢さんは言葉で抵抗してるけど、俺がワイシャツのボタンに手を掛けても、それを
振り払うことはしなかった。
「バカ、社用車だぞ」
「汚さなきゃいいでしょ」
「そんなことできる・・・わけ、ない・・・ん・・・」
アンダーシャツの中に手を突っ込んで、吉沢さんの突起物を探す。それは、軽く弾いただけでぷくりと
膨れ上がった。相変わらずこの感度は感動するくらいイイ。こんなんで止めろというほうが無理な
話なのだ。
「じゃあ・・・吉沢さん、ゴムとか、ありません?」
「・・・」
硬直した顔で吉沢さんが俺を見る。持ってるわけないだろうと目が語る。まあそうだよな。それに
例え持ってたとしても、自らハイ持ってますなんて言う人じゃない。
でも、吉沢さんの瞳の奥でチラついてる色はもしかして、と思って俺は
「俺1個しかないんです」
そういうと、吉沢さんは俺から目を逸らして言った。
「俺も・・・1個なら」
ふーん。ふーん、ふーん。ふーん。頭の中が音符だらけだ。
吉沢さんもゴムとか持ち歩くのか。やばい、なんか顔がにやけた。変な意味で興奮する。
普段からエロさを前面に押し出してる俺と違って、淡白そうに見える吉沢さんがそういうモノを
持ち歩いてるって知っただけで、秘密を暴いたような興奮が俺を襲った。
勿論そんなことで吉沢さんをからかったりしない。拗ねておあずけになったらたまったもん
じゃないから。
「お互いつけたら、できると思いません?」
それでも、吉沢さんはまだ渋っていた。
「・・・狭いだろ、車の中なんて」
「ベッドに比べたら、狭いですけど。こうすれば少しは広くなりますよ」
俺は一度吉沢さんから離れると、運転席を倒して後部座席に移った。後部座席の荷物を荷台スペースに
投げ込んで後部座席の背もたれも倒してやる。こうして出来た広めのスペースに吉沢さんを引き上げると
にっこり笑って続投。社用車万歳、ステーションワゴン万歳。スモークが薄いのが残念だけど、この暗闇
なら気にするほどのものじゃない。どうせ白く曇って外からは何も見えないだろうし。
大体、こんなところに車止めてる奴等なんてみんなやることは同じだ。お互い干渉しないのが
ルールだ。
「それに、興奮しません?こんなシチュエーション」
「頭おかしいだろ、お前」
「そんなの前から判ってるじゃないですか」
ベルトのバックルに手を掛けてもやっぱり吉沢さんは怒らなかった。ジッパーを下ろせば、中から
弾けそうな勢いでペニスが上を向いている。ボクサーパンツは一点で湿っていた。
「吉沢課長、いやらしー」
ニヤニヤ笑ってると、吉沢さんはぷいっと横を向いて、そういうお前はどうなんだよと恥ずかし
そうに言った。
「やだなあ、そんなの決まってんじゃん。我慢汁出まくり」
吉沢さんの手をわざわざ自分の股間に伸ばして、俺の興奮を伝えてやった。まったく、怒ってるんだか
恥ずかしがっているのか、素直じゃないなあなんて思ってたら、吉沢さんにもやっとスイッチが入った
のか、その手が動き出した。
「車汚したら、お前が責任取れよ」
「とりますとも、責任でも何でも。嫁にでも迎えましょうか?」
バカといわれる代わりに、思いっきりペニスを扱かれた。
「うっ・・・」
いきなりの刺激に思わず声が漏れる。1ヶ月おあずけの上に、ここのところ自分で抜くことだってして
なかったんだ。俺だって敏感にもなる。
「俺、あんまりもたないかも・・・」
貪るようにキスを交わし、手はお互いを扱きあって、気持ちが高ぶっていく。
直ぐにでも入れて、吉沢さんの中にぶちまけたい。ガキみたいにさかってんじゃないと怒られそう
だけど、何せ余裕がない。これ以上手コキされたら、間違いなく吉沢さんの手の中でイってしまう。
絡めあっている舌を離せば、吉沢さんの口から不規則な息が漏れる。
仲直りエッチという割にはムードも前戯もあったもんじゃないけど、もう無理です。我慢できねえ。
「吉沢さん・・・もう、入れたいんですけど・・・」
さっきからいいように俺のペニスを弄んでいる吉沢さんの手を止めて、荷台に放り込んだ鞄の中から
ゴムを取り出す。
「お前、そんなとこに入れてるの?」
「いつでも、吉沢さんとできるようにね」
袋から出すと、吉沢さんにつけてあげた。
「で?吉沢さんはどこに隠し持ってるの?」
いやらしい顔で笑って見せると、吉沢さんの顔が固まった。
「・・・」
「秘密」
「はい?」
「だから、秘密。見るなよ」
「うわっ」
そういうと、吉沢さんは俺の脱いだジャケットをいきなり顔にかけてきた。あんた、見るなって、そんな
子どもみたいな。
「あのうですね、吉沢課長・・・」
ジャケットをはがそうとすると、それ取ったら止めるからななんて言い出して、仕方なくその情けない
姿で待っていたら、ごそごそと音がして、ペニスにつめたい感覚。
「はうっ」
びっくりした。目隠しプレイってこういう気持ちよさがあるのか。今度吉沢さんにもやってあげよう。
ジャケットを取ると、俺のペニスにゴムをつけてる吉沢さんの姿。ったく、どこに隠してたんだろうな。
「・・・さすがにジェルはないので、これで勘弁してくださいね」
俺は吉沢さんに指を舐めさせて、たっぷり濡れたところで、後ろの穴を埋めた。
「やっ・・・ふかみ・・・」
「吉沢さんの中、早く入れたい」
一本でもキツイしまり具合に、かき混ぜる指のスピードがあがる。ゆっくり焦らすくらいに楽しみたい
けど、俺自身持つ自信がなかった。爆ぜる寸前な気がする。
チェリー君が入れて3回振ったらイってしまったとかいう話を聞いたことあるけど、それを笑えるほど
の余裕がない。何こんなに興奮してんだろうな、俺。
吉沢さん、俺を興奮させるスイッチ一体どんだけ隠し持ってるだよ。
「ね、もう、入れるよ?」
吉沢さんを後部座席の背もたれに押し付けて、後ろから突いた。唾液とゴムだけでは潤滑剤ほどスムーズ
には入らなかったけど、ゆっくりと俺のペニスを食いついていく感覚はぞくぞくするほど気持ちよかった。
「キツイ・・・ね・・・」
「うう・・・」
「力抜いて。・・・痛い?」
「大丈・・夫・・・ふうっ・・・」
あー。
すげえいい。
「久しぶりの吉沢さんの中。きもちいい」
腰を振ったら、車が揺れた。見れば窓ガラスが白く曇り始めてるけど、車が揺れてたら、外から見たって
一目で何してるんだかバレバレだろう。
構うもんか。
「俺も・・きもちいい、よ・・・」
漏れる息の隙間から聞こえてくる吉沢さんの言葉に耳を傾ければ、また俺の興奮スイッチが一つ解除
されるようなことを言っている。
後部座席の背もたれに押し付けるように腰を振ると、俺の内側で吉沢さんの色っぽいあえぎ声が
聞こえる。あんまりがんばらなくてもいいかもしれない。
「俺・・・あんまり持たないですよ、今日・・・」
「うん・・俺も・・・何か、久しぶりで・・・」
頭の中に「三擦りのチェリー君」の話が蘇るが、童貞じゃなくたって久しぶりにするときは早いんだよ、クソ。
でもまあ、自分の名誉の為に3回振っただけで果てたらかっこ悪いし、とりあえず3回でなんてことは
ないようにって我慢して、三擦りには勝った、と思った瞬間、あとは上り詰めるだけになっていた。
「あっ・・・んん・・・ふかみ・・・」
「いいっすか?」
「あんっ・・・」
吉沢さんのペニスも一緒に扱いたら、入り口が締まって、我慢どころじゃなくなる。
「ごめん、もう無理・・・吉沢さんも、いけそう?」
「うん・・・」
こっくり頷いてGOサイン。3分も持たないなんて、どんだけ早いの、俺。だけど、我慢なんてもう
出来なくて。
「・・・出る、よ・・・」
「おれも・・・」
俺はあっさり吉沢さんの中で出してしまった。
「・・・」
あ、れ・・・。俺、やっぱり早い?
でも、見れば吉沢さんも気持ちよくイったみたいだし、まあ、いっか。
後ろからそのまま吉沢さんを抱きしめて、耳にキス。首筋にキス。振り向いた顔にキス。そして
唇にもキスを。
長かったすれ違いにやっとピリオド。
「俺、バカなこといっぱいするだろうけど、吉沢さんのこと好きなのはずっと変わらないですから」
事後の処理をしながらだとあんまりかっこよくは聞こえないけど、吉沢さんはそんな俺の言葉に
素直に頷いてくれた。
「お前の気持ち疑った俺がバカだった」
「どういう意味ですか、それは」
「べつに」
吉沢さんの勘違いの中で、俺はどれだけ吉沢さんのことを傷つけたんだろうな。吉沢さんの中の「妄想
の俺」を俺はもっと早くに退治してやりたかった。そうすれば、こんなすれ違いで、しなくていい悩みや
不安を抱えることなかったのに。
でも、思うように前に進んでいかない恋愛の感覚を久しぶりに思い出させてくれたのはこの人だ。
大きい獲物は捕った後も世話が大変なのだろう。
顔を上げれば、吉沢さんが俺の首を捕まえて引き寄せられた。さっきから何度もキスしたのに、
吉沢さんからのキスはやっぱり興奮した。
抱きしめれば、抱きしめ返してくれる。ああ、戻ってきたんだと俺はやっと安心する。
でも、そうして余韻に浸っていると、吉沢さんの声のトーンまで戻っていて。
「会社戻る。仕事残ってるから」
「吉沢かちょ〜・・・」
俺は、これが吉沢さんの「照れ」だってことにいい加減気づいたらどうなんだと、未来の自分が言っている
ような気がしていた。
<<8へ続く>>
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