Re:8時にお届けにあがります
フロアスタンドのオレンジ色がぼんやりとお互いの身体を浮かび上がらせていた。蛍琉の
素肌を目にして、智優は身体中が熱くなっていく。何度繰り返したか分からない蛍琉との
セックスなのに、ぎこちない空気が智優に纏わり付いていた。
「・・・・・・なんか、変な感じ」
ベッド上で蛍琉を見上げると、お互い酷く照れくさくなる。
「ふっ・・・ちょっと智優、緊張でもしてるの・・・・・・?なんか高校生みたいだよ、智優」
蛍琉は智優の首筋に音を立てて唇を吸い寄せた。
「んんっ・・・あの時より、老けてるって」
智優も蛍琉の背中に手を回して、蛍琉の肌を手で味わった。風呂上りの清潔な肌が手に
しっとりと馴染んで気持ちがいい。そう思っているのは蛍琉も同じで、智優の腰や肩を大きな
手でなぞって遊んでいる。蛍琉の長い指が耳の後ろを擽って、智優は身体を捩った。
「やっ・・・ン・・・」
「全然変わらないよ。今も昔も、智優はとっても・・・・・・」
「っ・・・・・・俺が、何だよっ・・・んっ」
蛍琉は手の動きを止めると、今度は唇で智優の身体の感触を味わいだす。
蛍琉の唇は火照った智優の身体の上を這いずり回っていくようで、肌を吸われる度、
智優はぴくりぴくりと身体を震わせた。
「智優は・・・・・・昔からエロくて・・・綺麗だよ」
「きっ、綺麗っ・・・馬鹿じゃ・・・あっ・・・お前、馬鹿、だろっ・・・」
蛍琉にそんなことを言われるのも勿論初めてで、智優はその言葉に過剰に反応した。
その反応が面白いのか、蛍琉はお構いなく智優の乳首を舌の上で転がしている。
「うん・・・そう言われると思って、今まで言わなかった」
蛍琉は智優の胸の上でクスリと笑った。
ずっと手に入れたかったと切望していたあの頃の蛍琉の想いを智優は分かってない。毎日
馬鹿騒ぎして、自分の教えたマスターベーションを面白そうに報告してくる智優に、蛍琉が
どれだけ心をかき乱されていたのか。
片思いの辛さも、初めて智優を抱いたときの緊張と感動を蛍琉は忘れたことなど無かった。
伝わらなかったのは伝える必要を感じてなかったし、その想いまで智優に押し付ける気
もないからだ。今一緒にいる幸せを智優が感じてくれさえすれば、蛍琉はそれでいいと今
でも思っている。
けれど、自分が持っている智優への熱い想いも実のところ全然智優には伝わっていなかった
ことを蛍琉はやっと気づいた。
どんなに官能的なことをしたって、肉体と感情を繋いではくれないのだ。
鈍感なのはお互い同じだった。自分も智優の傷を分かってなかったし、智優も蛍琉の気持ち
を気づこうとしてはいなかった。
こうして身体を繋ぎとめても、心が寂しさで埋まらなかったのはどちらか一方の所為じゃ
ない。二人とも、この関係にどこか甘えていたからだ。
蛍琉は智優の左腕の傷を見下ろして、そこに口を落とした。狭山に付けられた傷の深さを
蛍琉は改めて痛んだ。
「・・・・・・智優、ごめんな」
「もう謝るなって。狭山の事は許せないし、今も許す気はないけど、もういいんだ。悪い
のは狭山だけど、負けたのは俺達だからさ・・・」
「負けた・・・・・・うん・・・負けた、そうかも・・・・・・」
狭山に付け込まれる隙が2人にはあったから、狭山の作戦に2人とも面白いように落ちて
しまったのだ。
蛍琉は智優の腕を撫でて、引き締まった筋肉を辿った。それでも、狭山のしたことは
蛍琉とて許せるものではない。険しい顔つきになりそうな蛍琉を智優は笑った。
「んんっ・・・それに、お前だって、キズモノだろっ」
智優は蛍琉の首を引き寄せると、薄く残った唇の痣にキスをした。
肉体の傷などいつかは消える。そう思っていても残った傷跡は心の中にいつまでも、その
むず痒さを残していくのだと、智優は思う。けれど、そういう傷を抱えて、人は優しく
なれるのだとも痛感していた。
「智優・・・?」
「俺とのセックス中に余計な事考えるなよ」
智優はほんのり赤く染めた顔で蛍琉を煽った。
初めて智優を抱いた日の事を思い出して、やっぱり今日はいつもと違うと蛍琉は思った。
「・・・・・・俺も、高校生のガキみたい、かも・・・・・・」
智優の腿に手を伸ばして、そのまま半勃ちになった股間を圧を込めて握った。
「何、それっ・・・蛍琉っ・・・!!」
「うん・・・・・・盛っちゃいそう」
手の中でぐんぐんと硬度を増していく智優のものに蛍琉も自分のモノを押し付ける。
お互いこんなに早く熱を持ち始めていることにガキ臭いと照れ笑いした。
愛や恋なんて面倒くさいと思っていた。蛍琉との恋愛はそういう時期を越えて、のんびり
穏やかに過ごせる時に来てると思っていた。けれど、喧嘩三昧の日々は、面倒くさい恋愛
にも達していない、幼い友の喧嘩みたいなものだったのかもしれない。
好きだと、その言葉一つ言えなかった自分達の幼稚さを人は笑うだろうか。
「蛍琉っ・・・」
智優は感情が溢れ出しそうになるのを止められなくなる。
「何?」
「・・・・・・好き、蛍琉・・・」
「そういう、告白、なんか、ココにくるね」
「ああっ」
蛍琉は熱いペニスを智優の腿に擦り付けて、腰を振った。
その熱さは智優にも伝わって、身体の芯が疼きだす。直ぐに手で扱かれるだけでは満足
出来なくなって、新しい刺激を欲した。
「カツカツに元気」
「お互いっサマ・・・・・・」
智優も蛍琉の股間に手を伸ばし、腿で感じていた熱さを手で受け止める。お互いに擦り合って
その手に力が入ると、あとはひたすら前に転がり落ちていくだけだった。
互いの腹に先端が当たり、その先端からは透明な蜜が糸を引いた。
「もっと・・・・・・」
「こっち?強く?」
「ううん、後ろ」
「いいよ・・・・・・中入れる?」
「うん・・・なんか、我慢できない・・・・・・」
「俺もそんな気分」
気持ちは新鮮で、だけど身体は誰よりも知っている。責められるとすぐよがってしまう所も
智優の好きな体位も、イク時の声も蛍琉は一番聞いてきた。熟知した身体。でも、知らな
かった智優の熱。そのアンバランスさに蛍琉も中ってしまった。
蛍琉が起き上がって、サイドテーブルの引き出しからローションの瓶を取り出した。智優
が出て行く前よりも減ってるんじゃないかと、智優がマンションに戻ってきた時は、本気で
思っていた。
「このベッドが誰かに使われてたらどうしようって、それ考えたら・・・・・・嫉妬で怖かった」
智優は蛍琉の垂らすローションを見詰めながら呟いた。
「智優ってさ・・・・・・そういうところ、凄く誤解してるよね・・・・・・」
俺がそんな事する訳ないでしょ、と苦笑いで蛍琉は智優を上から覗く。
「しないと思ってても、しそうな雰囲気は持ってんだよ、蛍琉は」
それを言うなら、智優の方がずっと危なっかしい空気を持っていると蛍琉は内心溜息を
吐いた。
「ごめん。しないよ。してないし、これからもしない。ここは智優と俺の家だから」
「・・・・・・うん」
蛍琉は垂れたローションを腹の上で引き伸ばして、それを指に絡み付けると、智優の孔へ
運んでいった。
「ん、ふぅっ」
「キツイ、ね」
「ちょっと、ゆっくり・・・」
「ツライ?」
「ヤバイんだって!」
蛍琉が指を折り曲げただけで、智優はぴくんと身体を震わせる。
「早く入れてって言ったの、智優だよ」
「うるさいっ・・・いろいろ、あるんだよ」
目じりに涙を浮かべて、頬を赤くしてる智優を笑いながら蛍琉は見下ろした。それから
智優の呼吸に合わせてゆっくりと指を広げていくと、智優は小さい声を幾つも洩らして
シーツを握り締めた。
蛍琉は智優の中を丁寧にかき混ぜ続ける。熱を知っている身体は、切っ掛けを与えられる
と、それに反応して、次第に蕩け始めた。
「いけそう?」
「痛くないから、大丈夫・・・・・・だけど、むちゃすんなよ・・・うっ・・・」
蛍琉はその言葉に、智優の中をかき混ぜていた指を一息に引っこ抜いた。
そして、新しくローションを自分のペニスに垂らすと、テラテラにテカらせて、智優の
中に入り込んだ。
「うぅっ・・・・・・」
「ああ、蛍琉・・・待って!待って!ああっ・・・・・・」
「気持ちいい・・・」
「はぁ、はぁ・・・・・・早いよ、お前・・・・・・こっちの身にも、なれって・・・うぅ」
「だって、智優、すごいんだもん。気持ちいいでしょ、智優だって」
そう言って蛍琉はゆっくりと腰を引き抜いていく。
「あっ」
ざわざわと全身が見知った快感を連れてきて、智優は目を閉じて大きく息を吐いた。お互い
の呼吸は分かっているから、智優は蛍琉を無条件で受け入れられる。
何度かゆっくりした動きで蛍琉が腰を動かすと、智優の表情から苦痛が消えた。
自分をこんなにも受け入れる人間など、この先智優以外、考えられない。そう思うと
蛍琉は胸が苦しくなった。
自分のいい加減な部分も全部ひっくるめて、智優は自分を許してくれたのだ。自分が
智優を信じたように、智優も自分を愛してくれた。繋がった心が蛍琉の口を割った。
「智優っ」
「なん・・・・・・」
「智優、好きだよ・・・・・・」
「!!」
ストロークに合わせて蛍琉が耳元で囁いた言葉に智優は内側から一気に発熱した。
「うっ」
身体が緊張して、秘孔もしまる。蛍琉が小さく呻いた。
「智優、きつっ」
「え、あっああっ・・・・・・何っ・・・なんだよ、これっ」
その言葉一つで、今まで味わったことの無い気持ちよさが智優の中に流れ込んでくる。そんな
単純な仕掛けを智優は馬鹿にしていたけれど、囁かれた言葉は身体に直結した。
「・・・・・・なんか、すごい・・・ね」
「・・・・・・蛍琉、俺・・・・・・凄い、恥ずかしいんだけど・・・・・・」
「でも、感じた?」
「お前の顔見れないくらい、ヤバイ・・・・・・」
智優が涙目になっているのは、快楽からだけではないことくらい蛍琉にも分かった。
見栄っ張りの強がりのくせに、甘い言葉には弱い智優を蛍琉は愛おしく抱きしめる。
「俺も、智優の顔見てたらヤバくなってきた」
智優の足を抱きかかえると、蛍琉は智優の「待って」を無視して腰を進めた。
「ちょっ、蛍琉、だから・・・ああっ・・・いっちゃうって・・・・・・」
「うん。我慢したくなくなった。智優、一緒に出して」
「ば、馬鹿、蛍琉、待ってって・・・こっちも!!ああっ」
智優が自分のペニスに手を伸ばすのを、ギリギリのところで確認して、後は自分のペース
になってしまった。
「智優、愛してるよ」
「ああっ・・・イクっ」
智優の中で蛍琉が波打った。ビクビクと震えが伝わって、智優も気だるい快楽の中に溺れて
いった。
次の日は一度目が覚めたものの、全身のけだるさと身体中に纏わり付いた蛍琉の甘さで、
とても仕事に行く気にはなれなかった。智優は朝一で突然の有休を電話で告げると、再び
ベッドの中に潜り込んだ。
蛍琉はもう既に目覚めているようで、ベッドルームに智優は一人だった。さらさらの
シーツの感触が気持ち良い。朝方蛍琉がエアコンを入れてくれたらしく、火照った身体は
心地よい体温まで下がっていた。素肌に当たるダウンケットが眠気を誘う。智優は目を閉じ
眠りの中に落ちようとしていた。
一人のベッドルームは昨日と変わらない朝だけど、昨日とは確実に違う。遠くで物音が
する。蛍琉がリビングでコーヒーでも飲んでいるのだろう。蛍琉が帰ってきたのだと、改めて
実感すると、智優は幸せに蕩けてしまいそうになった。
何もかも失ってしまったと思っていた自分が振り返れば馬鹿げて思える。単純な物事程
気持ちは複雑になって、拗れていくものなのだと智優は実感した。
ぼうっと目を閉じていれば、昨日の蛍琉の言葉が耳元で囁かれている気がした。
「智優・・・!」
ベッドルームの向こう側が騒がしい。
「ねえ智優!」
遠くの方から名前を呼ばれて、眠りに落ちようとしていた智優は現実に引き戻された。
「何だぁ・・・」
「ねえ智優、なにこれ・・・・・・」
ベッドルームのドアを開けて、現れた蛍琉は、大きな花束を抱えていた。
その顔は困惑している。智優は寝ぼけた頭が一気に目覚めた。蛍琉は朝早くに、不在届け
の宅配物を配達して貰ったのだ。
「・・・・・・」
「智優?」
「ぶはは、似合わないなー!」
智優はベッドの中で大笑いした。一通り笑うと、目じりを押さえて涙を拭いた。
「・・・・・・智優だろ、送り主!!」
蛍琉が不在届けを見て不可解な顔をしていたのは、送り主が智優だったからだ。
「だって今日、蛍琉の誕生日」
「!」
「忘れてた?」
「智優の事で頭一杯で、それどころじゃなかった」
蛍琉は花束を抱えたままベッドに座った。智優の隣に並んで、腰を引き寄せる。裸のまま
の智優の腰を撫でて、頭に一つ唇を落とした。
「忘れられない誕生日の思い出のお返し」
「・・・・・・覚えてたの、それ」
「忘れるか」
智優の高校最後の誕生日、蛍琉は智優に「誕生日の思い出」を作った。その時の言葉だ。
『朝倉、誕生日の思い出、出来た?』
『いろんな意味で、思い出にはなったな』
『じゃあさ、いつかそのお返しに、俺の誕生日も思い出作ってよ』
『えー、いいけどさー、成岡は何がいいんだよ』
『朝倉がくれるものなら何でも』
『じゃあすっげー恥ずかしい思い出にしてやるよ。えーっと・・・そうだなあ・・・・・・バラの
花束持って駅前歩かせてやる』
『・・・・・・それ、あんまり恥ずかしくないけど』
『そうかぁ?お前の顔にバラだぜ?』
『朝倉、失礼だよ』
『忘れられない思い出にはなるだろ』
そう言って二人で笑った懐かしい思い出だ。
蛍琉は腰に回した手に力を込めた。智優の身体を自分の胸の中に収めて暫く動かなかった。
「・・・・・・蛍琉?」
「うん・・・・・・ちょっと感動してるだけだから」
「後で駅前歩いていけよ」
智優は蛍琉の胸の中で笑いながら言った。きっと今の蛍琉なら嵌りすぎだろう。良い男が
花束持って歩いていても、誰も笑いはしない。智優はそれがおかしかった。
「笑うなよ・・・・・・でもさ、なんで、配達が昨日だったの。智優がメールくれたのもっと前
だったよね・・・・・・」
「時間にルーズな蛍琉のことだから、メールしても3日くらいは来ないだろうって思ってさ。
頼んだ花屋がさ、不在で3日以上経つと引き取られちゃうんだよ。それ見越して先に蛍琉に
メールした」
智優が皮肉そうに鼻を鳴らす。本当に綱渡りの賭けだった。不安も今となれば笑い話だ。
「時間にルーズって・・・・・・俺はメール貰った日からずっと悩んでたんだけど」
蛍琉も笑った。お互い、一番苦しかった時間なことくらい分かっている。その強がりが智優
らしくて、愛おしい。
蛍琉は智優の身体を起すと、昨日から何度繰り返したか分からないキスを再び智優にした。
「・・・・・・誕生日、おめでとう、な」
「ありがと、智優」
智優は蛍琉と続いていく道の先をもう不安には思わない。
今度こそ、物語のような平穏で幸せに暮らしましたというハッピーエンドを迎えることが
できるはずだ。
大切な言葉を貰ったから。それを失わない限り、きっと自分達は幸せだと、智優は蛍琉の
キスの中で思っていた。
(了)
2010/04/17
お読みくださってありがとうございました。ハッピーエンドで終わることが出来ました。 よろしければ、ご感想お聞かせ下さい
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