恋人はミルク
好きと言うはっきりとした答えは無いけど、好きというゴールに向かっていくレールの上に
乗っている感覚はある。
そのゴールが1メートル先か地球の裏側なのかは分からないけれど、きっといつか辿り着く
だろう。もどかしいと津村には思われそうだけど、覚悟を決めてしまえばこの感覚は楽しい。
佳哉はくすっと小さく笑うと近づいてくる津村の唇にかぶり付いた。
「っ!」
驚いた津村の顔に向かって佳哉が口を動かす。
「やられっぱなしになって堪るかよ」
佳哉は津村のネクタイに手をかけた。
「ネクタイってそれだけでちょっとポイント高くてずるいよなあ…出来る男っぽくてさ。
これ取ったらあんたもただの男になる?」
「……取ったら、凄いのが出てきちゃうかもしれませんよ?」
「出してみろよ」
佳哉が鼻で笑うと、津村は緩められたネクタイを一気に解いた。
「先にけしかけたのは佳哉君ですからね?」
「どーいう意味だよ」
「止めてって言っても止めませんよってこと」
「そんな女々しいこと言うかよ」
「うん。それ聞いて安心した」
津村は佳哉の頬をさらっと撫でて、耳元に唇を近づけた。津村の吹きかけてくる息に身を
よじると、耳の先をちろちろと舌で舐め始める。
「わあああっ、止めろよ、くすぐったい!」
逃げようとする佳哉の腰を押さえつけて、津村は耳たぶを軽く噛んだ。口の中で耳たぶを
転がされると、くすぐったい中にぞくりとする感覚があるのを佳哉も気づいた。
「やっ…んんっ」
押さえつけられた腰がぴくんと反応したのを確認すると、津村は自分の腰も佳哉に重ねて
その存在をアピールした。
「早くもやる気スイッチが入ってしまいました」
「はえーよ!」
「佳哉君が可愛すぎるのがいけないんですよ」
津村は佳哉の膝を割って、自分の腿で佳哉の股間を圧迫した。伝わる熱に佳哉も身体が硬く
なっていく。速くなった心拍数を悟られるのが悔しくて、佳哉は津村の股間に手を伸ばして
硬くなったペニスをぎゅっと握った。
「どんだけ、デカイの持ってんだよ」
「そう?これが入ると思うとワクワクしちゃうとか?」
「するかよ。アホじゃねえの!」
「あれ?そっちじゃない?俺、タチなんで、出来れば佳哉君の中に入れたいんですけど。
でも佳哉君もタチだと……困ったなあ」
「……違うから、困らなくていいって」
佳哉がぶっきらぼうに言うと、津村はニコニコ笑って答えた。
「あーよかった。俺、佳哉君がタチでも全然譲る気なかったので、どうしようかと思っちゃ
いました。まあ、無理矢理でもやりますけどね」
「普通の顔して、さらっとそういうこと言うな」
「でもそうか。佳哉君は開発されちゃってるんだ。それはそれで、開発する楽しみがない
っていう淋しさがあるなあ」
「……っ!黙れこの変態サル」
暴言には暴言を。出会って3回目の相手にこんな口が利けるのかと自分でも呆れてしまうが
肝心の相手がこのテンションでやってくるのだから仕方が無い。
津村という人間は、見た目と中身が激しく違う男らしい。
「でも、もしかしたら未開の部分だってあるかもしれないですしね。未開部分を探す楽しみ
はありますよね。パイオニアもいいけど、クエストもいいですよね。俺、こう見えてダンジョン
攻略には自信があるんですよ」
「真面目な顔して、あんたアホだろ!もういいから黙ってろよ!」
佳哉は呆れ顔で握ったままのペニスに力を入れた。それから、既に存在を主張しているそれを
ズボンの上から乱暴に擦りあげると、津村はうっと唸った。
「佳哉君はせっかちだなあ…。そんなに焦らなくてもたっぷり絞って、たっぷり注いで
あげますよ?」
佳哉に握られたままのペニスを津村は佳哉の腰に擦り付けてにやっと笑った。
それから佳哉の首筋に唇を落とすと、ちゅうっと音を立てて吸い付いた。それがスタート
の合図だった。
「ひっ……あっ!」
津村の手がTシャツに滑り込んだ途端、佳哉が色の付いた声を上げた。思ったより男っぽい
がっしりした手が緩やかに動いて、佳哉のぷくりと膨れた乳首を摘みあげたのだ。
反射的に身体が捩れ、ベッドが歪んだ音を鳴らした。
その反応に満足したのか、津村はもう一度、佳哉の乳首を捻った。
「あっ…やめっ……」
津村は器用に力の抜けた佳哉のTシャツを脱がせていく。白い肌が露わになると、津村は
すかさず唇を落とした。
首筋から鎖骨、ぷくりと膨れた乳首を通って、わき腹までたどり着くと佳哉は津村の頭を
引き剥がそうともがきだす。津村はお構いなく臍の下を舐め、ジーパンのベルトに手を
かけた。
「待ってって!」
「何で?」
「い、色々あんだろっ……」
佳哉がベルトを死守しようとすると、津村はその手を掴んで除けた。
「こんなに食べごろが目の前に転がってるのに、待ちたくないな」
「食べごろって、あんたなあ…!」
見上げれば津村の顔つきがまた変わっていた。雄の香りがする。佳哉は思わず息を呑んだ。
津村の色気に中てられて佳哉が言葉をなくしている間に、津村はズボンのジッパーを下ろした。
途端、窮屈に閉じ込められていた佳哉のペニスが下着の中で踊って、津村の手の中に納まった。
津村はそれを愛おしそうにぎゅっと握ると、ゆっくりと上下に動かし始めた。
「はっ」
腰を浮かせて佳哉が反応する。津村は佳哉の乳首に口を近づけて、舌をぺろっと出した。
下着の上からの弱い刺激と乳首への執拗な責めに佳哉の理性が段々と薄れた。
「なあっ……」
「何ですか?」
「それっ、止めて……」
「気持ちよくない?」
「……まどろっこしいことしてないで、ちゃんと擦ってって言ってんの!」
佳哉の訴えに津村が笑い出す。
「男前のリクエストだね」
「うっさい」
津村は佳哉のリクエストに素直に応じて、下着を全開にした。勢いよく飛び出してきた佳哉
のペニスは、既に硬度を持っていて、津村が弾くとぷるんと揺れた。
「うっ」
「その気になったら早い?」
「仕方ねえだろ……ライブの後って、気持ちが高ぶってんだよ」
元気のいい佳哉の股間に津村は口を近づけていく。それからゆっくりと竿の根元から舌を
這わせて舐めあげた。びくんと佳哉のペニスが更に硬くなる。
「ああっ」
「まどろっこしいのが気に入らないなら、思いっきりやらせてもらうよ?」
「え?…んっ…」
津村の瞳の奥がぎらぎらしていると佳哉は思った。津村は佳哉のペニスの先っぽを舌で
ちろちろと舐めて遊ぶと、がぶりと口いっぱいに含んだ。
「ふっ…はぁっ……ああっ」
軽く歯を当てて扱き始める。口を上下させるたび、佳哉の口からため息が漏れた。津村は
佳哉の様子をじっくり観察しながら、強弱をつけて吸い上げたり、先っぽを舌でぐりぐり
と舐ったりしている。吸い上げるたびにじゅじゅじゅといやらしい音を立てて、それが余計に
佳哉の身体を熱くさせた。
津村は舌を這わせたまま、上目遣いで佳哉の顔を覗き込み、更に手で刺激を加えた。
佳哉はその刺激に素直に反応したらしく、津村の口の中には佳哉の垂れ流した蜜の味が一杯
に広がった。
「それっ…何っ…」
佳哉は津村の頭を掴んで津村の動きを止めようともがいた。
「お気に召した?」
「やりすぎっ…」
「そう?佳哉君は中々加減が難しい」
「そういう時は、遠慮しろよ」
「遠慮なんてしてたら、この大切な時間を無駄にしてしまうじゃないですか。そんなわけで、
オイルかローションください」
「……」
そう言われて佳哉も生唾を飲んだ。繋がりたいと飢えていたのは津村だけじゃなかったのだ。
「……そこの、引き出しの……中っ……」
佳哉は自分の中に芽生えていた気持ちにぎゅっと熱くなった。
確かに開拓はされていて、津村を受け入れるにはそれほど苦労は無かった。お互い勝手が
分かっているし、佳哉も不安よりも快楽を求める気持ちの方が大きかった。
だから、初めのラウンドが始まって、津村を受け入れると、お互いの折り合いの付く体位を
見つけて、セックスを楽しんだ。腰を振ったり、ペニスを扱いたりして、ある意味「普通」
のセックスで、佳哉も津村も果てた。
けれど、肩で息を整えながら、津村が外に出て行ってくれるのを待っているのに、津村は
ぺったりと佳哉にくっついたまま、動く気配がなかった。
「なあ…ちょっと、出てってくれない?」
「抜かないと駄目ですか?」
「……は?」
「抜かずの二ラウンド、突入しようと思ってたんだけど」
「無理!」
佳哉が冗談で済ませようと腰を引くと、津村は逃げる佳哉の腰を押さえつけた。
「やれるよ、やったことない?だったら、開発のし甲斐があるってもんだ」
「あんたなあ……!」
佳哉の文句を適当にあしらって、津村は佳哉と繋がったまま器用に佳哉を回転させた。
背中に密着されて、佳哉の中で津村のペニスがきゅっと硬くなる。
「俺、そんなすぐに勃たねえよ!」
「大丈夫、気持ちよくさせてあげるから。すぐ元気になるよ」
津村が腰を振ると、中からぐちゅぐちゅと卑猥な音がして、ジェルなのか津村の放った
精液なのかが、佳哉の腿を伝ってシーツを汚した。
「や、無理だって…っ!!」
「この辺、どう?」
「そんなに、腰、振るなぁっ……あぁっ」
最初は嫌がっていた佳哉も、津村の腰の動きとペニスを優しく扱かれているうちに、じわじわ
と気分が高ぶってきた。
「元気になってきたでしょ?やれそうだね」
津村はゆっくりした腰の動きを段々と早めていく。奥まで突かれる度、目の裏が赤くスパーク
しそうになった。
「あっ…んんっ」
ベッドの上に四つん這いになって声が掠れる程後ろから突かれた。それでもまだまだ元気な
津村の性欲を佳哉は疑った。そして自分がここまで反応していることにも驚きを隠せなかった。
「……ケダモノかよっ!」
文字通り獣のような格好で、後ろからガツガツと腰を振られて佳哉は腰が立たなくなって
いる。見た目と口調で、勝手に想像していた津村とのセックス。
確かに、奥手でこっちがリードでもしなければ中々その気にならないような雰囲気を津村は
持っていた。少なくとも、津村の実家で夕食をご馳走になった時の彼は、顔はいいのに残念
な性格が丸出しのへタレ男だった。その性格で振られたりすると津村自身も言っていた筈だ。
「あっ…あんたって……!」
「なんですか」
低い声を唸らせて、津村は一度腰を振るのを止めた。
佳哉はベッドに手を付いて息を整えると、津村と繋がったまま振り返った。
「……」
津村が髪を掻き揚げている。額に滲む汗と掠れる呼吸に佳哉の心拍数は上がったままだった。
「あんたってさ……顔はいいのに性格がトンデモで振られるって言ってたじゃん」
「そうですね」
津村の性格に裏切られて、見切りをつけて去っていく恋人たち。けれどその最初の関門を
見事に突破したツワモノはもう一度裏切られるのだ。
「そんで、物は試しでセックスしてみると、実はすげぇ事に気づいて、嵌っちゃうヤツが
多いんだろ?」
「どうでしょう?……一度付き合うと長い方かも」
「だろ?」
だって、こんなヤバイの嵌らないわけが無いと、佳哉は心の中だけで唱えた。
「あんたのセックス、もっと淡白だと思ってた」
「こういうの好きじゃない?」
「……」
佳哉は一瞬躊躇ったあと、背中をうんとのけぞらせて津村の首を引き寄せると、おねだりを
するようにぺろっと舌を出した。
「くせになるっつってんの」
「それはよかった」
津村は佳哉の唇を差し出された舌ごとぱくりと口にした。それから、密着していた腰を
ゆっくりと引くと、始動しはじめる。
「うんっ…」
「その声、色っぽくていいね」
「……っ!開発した責任、取れよ…」
とろんとした瞳を津村に見せると、津村が眉間に皺を寄せて唸った。
「勿論、好きなだけ取らせてもらいます」
ガツガツを腰を振ると、二度目の絶頂もすぐに訪れて、今度は二人仲良く果てたのだった。
「……あんた見てるとさ、なんか自分が悩んでたのが、馬鹿らしく思えてきた」
「悩みって、自分の存在意義の事ですか?」
「真面目だったりエロかったり、鈍くさいと思えば雄の匂い撒き散らすし。そんでも、
どれも自分だって言うんだろ?」
「全てひっくるめて自分だと思ってます。どれが欠けても自分じゃない。佳哉君だって
きっとそうですよ」
「必要とされてる自分が舞台上にしかいないなんてちっぽけな考えだったのかもなあ」
「そうですよ。どれをとっても佳哉君なんですから。ハイテンションでファンサービスの
出来る男も佳哉君の一部。佳哉君はけしてつまらない人間なんかじゃないですよ」
「だから、褒めてもなんも出ないぞ」
「そうですか?まだこっちは出そうだけど」
津村に股間を握られて、佳哉は笑いながらその手を除けた。
「アホか」
「でもまあ、少しでも佳哉君の元気の回復に役に立てたなら光栄ですよ」
津村は真面目な顔に戻って言った。
「おう。養分吸い取らせてもらった」
佳哉は照れ隠しにわざとおどけてみせると、ベッドから飛び起きた。落ちていたシャツを
纏って、腰をぐりぐり回すと、小さくイテェと呟いていた。
「あー、喉乾いた」
冷蔵庫を開けながら津村に声を掛けた。
「……あんたもなんか飲む?」
パックの牛乳を取り出して勢いよく飲むと、シャツのボタン全開ではだけたままの胸元が
ちらちらと見える。その姿に津村は胸が熱くなった。
「でも、こんな可愛い佳哉君を知ってるのは、俺だけにしておきたいです」
津村の視線に佳哉の顔が赤くなった。
「……当分、あんたにしか見せるつもりはねえよっ!」
「それはそれは、どうも」
再びパックの牛乳を飲み始める佳哉を、津村は幸せな気分で眺めていた。
了
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