天 球 座 標 系
ドアノブに手を掛けた純子は、そこで激怒する赤平の声を聞いた。聞いたこともないその声に
純子は怯えてしまい、入ることも、逃げることも出来なくなる。
薄っすらと開かれた扉の奥では、赤平と、震える声で話す船田の姿があった。
純子は、この2人の接点を知らない。ただ、赤平が船田を快く思っていないことは純子も承知で
船田に辛く当たる度、純子は赤平を宥めていた。
「・・・俺を脅すつもりか!」
赤平は船田を壁際まで追いつめて言った。
「べ、別に、脅してるわけじゃないです。と、取引です・・・」
そう言うと、船田は震える手で、持っていたCD-Rを真っ二つに割った。
「これで、マスターはありません・・・。でも、あのサーバーのどこかに僕が手を加えた、あなたの
修正プログラムが保存してあります。・・・でも、そのプログラムは実行すると修正プログラムは作動
せずに今まであなたがしていたことが表示されますよ。事細かにね」
赤平は船田の胸ぐらを掴んで睨みつけた。
今の状況を純子は理解できなかった。ただ分かることは、船田が赤平に向かって「反撃」している
ということだ。
勿論純子には、赤平のしたことが何なのかは分からない。ただ、赤平に関する数多くの聞きたく
ないと思っていた噂、日高から吹き込まれた話のことなど、勝手な推測が純子の頭に浮かぶ。
「何が目的だ」
赤平が船田の顔ギリギリまで近づいて、凶悪な瞳が船田を射殺すように見下ろす。それでも、船田
は、その瞳を見つめ返した。
「・・・僕の写真を全て削除してください」
(写真・・・?)
純子は2人が何で揉めているのか分からないが、止めに入るべきだと、手にしたままのドアノブを捻る。
しかし、その責任は「赤平の恋人」だからなのか、人間として当然なのか。自分が止めに入ってどう
仲裁するのか。捻ったままの手が止まった。そして一瞬のためらいは、永遠の後悔となる。
赤平は掴んでいた船田を突き飛ばした。そのはずみで船田は後ろのラックに激突する。純子は衝撃音
に驚いて、そこでまた、動けなくなった。
「うっ・・・」
「ばかばかしい。そんな脅しで、俺から写真を奪おうってのか」
船田は背中を摩りながら、体を起こす。目に浮かんだ涙が、寸前のところで留まっている。
「そんなに・・・信じられませんか?赤平さんだって、プログラム盗むくらい、幾らでもやってたでしょ
う?僕が赤平さんのプログラム盗んだって、おかしくないですよ?」
「デタラメだ」
「だったら、証拠を見せましょうか?僕が赤平さんから盗んで改造したプログラムを・・・」
そう言うと、船田は研究室のサーバーにログインして、あるフォルダを提示した。その画面を見ると
赤平は眉をしかめる。見たことあるファイル群だった。
「見覚え、ありますよね?」
「・・・」
「当たり前ですよ、あなたのプログラム、ごっそり盗んできたんですから」
船田は赤平のその姿を確認すると、プログラムファイルを実行した。
本来なら、バグ修正のはずのプログラムだ。
しかし、バグ修正のプログラムは起動することはなかった。画面に表示されるのは、赤平の船田へ
の暴行や、日高のプログラムを盗作した事実、女性関係など、船田がこつこつと集めた情報が表示
される。
「プログラムの殆どは、潰しました。・・・コメントアウトで残っていますので、元はあなたのプログラム
だってことはソースさえ見れば誰にでも分かるでしょう」
「な・・・」
「これが公表されれば、赤平さん、退学処分ですよ?」
「てめえっ・・・」
「ばらされたくなければ、僕の写真を全部消去してください!そして、二度と僕にあんなこと・・・しない
でください」
赤平は船田を画面の前から突き飛ばすと、すぐさまそのファイル群を消去し始める。しかし、突き飛ば
された船田は余裕そうに、もう一言放った。
「・・・そのファイルを消しても、このサーバーの中には同じファイルが幾つも保存してありますよ?」
「・・・っ!」
赤平は振り返って船田を睨みつけると、すぐさま、サーバーの中を引っ掻き回すように検索を始めた。
「赤平さんが!」
「何だ!?」
「赤平さんが・・・僕の写真を全部捨ててくれるなら、僕もこのファイルを消します」
「うるさいっ!」
赤平はもう、振り返ることなくサーバーの中を探す。
”ピーッピーッピーッ”
暫くすると、マシンから警告音が鳴り響いてきた。
「くそっ」
「・・・ダメです、無理に開いたら、マシンにロックが掛かって・・・」
「うるさい。だったら、お前がファイルのありかを吐け」
「・・・」
赤平は、パスワードで何度も弾かれた。違うパスワードを入れるたび警告音が鳴る。赤平のイラついた
舌打ちと、乱暴に叩くキーの音が、余計に焦りを生んで、ついにマシンはロックが掛かってしまった。
「っちくしょう!」
キーボードを平手で叩き、赤平は振り返った。
「・・・言えよ、どこにあるんだよ!」
再び、船田は胸ぐらを掴まれた。お互いがにらみ合い、最後は力勝負になる。
船田はそのまま今度は中央のテーブルに組み敷かれてしまった。
「苦しい・・・止めて・・・」
赤平の右手が船田の首に食い込んでいく。
「てめえみたいなヤツが俺に歯向かおうなんて、許されるとでも思ってんのかよ」
「うぐっ・・・」
赤平の締め付ける右手から逃れようと船田はもがくが、巨体を動かすことはかなわなかった。ばたばたと
暴れる両手は赤平の左手一本で押さえつけられた。
「俺はお前みたいなヤツが大嫌いなんだよ」
逃れようと首を振った拍子に、船田の目から涙が筋を作って零れ落ちた。
「・・・」
赤平は吐き捨てるように言う。
「気持ち悪い」
「・・・赤平さん・・・だって・・・同じこと・・・」
言いかけた船田に赤平の平手が鳴った。
「うぐっ・・・」
「黙れ、淫乱」
「止めて・・・」
赤平は汚らわしいものでも見るように船田を見る。その表情には憎しみすら感じられる。
船田は締め付けられていた喉がやっと解放されて、ひゅうひゅうと荒い呼吸を繰り返す。途中で何度
もむせ返しては、涙が零れた。
実際、赤平の横暴は船田にすら理由が分からない。ただ赤平は自分みたいな人間を憎んでいるらしい
ということぐらいは分かる。しかし、そんな理由でこんな目に遭うのは耐えがたかった。
しかし船田のギリギリの交渉は、赤平には何も伝わらなかった。
「ほら、言えよ。お前他にどこにファイル仕舞いこんだんだ?」
「ぼ、僕の写真を・・・」
「はん、こんなことされても、お前はまだそんなこと言うのか。お前の写真なんて、大学中にばら
撒いてやってもいいんだぜ?」
赤平はニタリと笑った。引きつりあがった唇の端に船田は背筋がすうっと冷えていく。
「や、止め・・・」
「言えよ、言わなけりゃ、お前の恥ずかしい写真、もっと撮ってやる」
赤平は言うなり、乱暴に船田の服に手を掛けはじめた。セーターの中に手を突っ込まれ、船田は甲高い
声をあげる。
「ひやっ・・・」
「何嫌がってるんだよ、何時も喜んで脱がされてるだろ?」
「止めて!」
船田が抵抗するのも構わず、赤平はセーターを乱暴に脱がせる。アンダーシャツが透けて、寒さと緊張で
尖った乳首が赤平の心を歪ませた。体格の違いは力の違いで、赤平は船田を簡単に押さえ込む。更に
赤平はジーンズのポケットから携帯電話を取り出すと、それを開いて船田の方へ向けた。
カシャという機械音と共に、船田の顔が歪んだ。
「嫌だ・・・」
「ふん、何度もハメ撮りしてるくせに、今更何言ってんだよ。今日は、自分の研究室でたっぷり犯される
姿でも撮ってやるよ」
携帯電話が船田の顎を持ち上げる。そしてそのまま首筋を滑って、薄い鎖骨の上を落ちていく。
冷たく硬い異物に船田の身体が硬くなる。アンダーシャツの上からでもくっきりと透ける乳首の上
までくると、赤平は携帯電話の先で、その突起物を軽く弾いた。
「あっ・・・」
赤平の喉が鳴る。
「嫌だって言いながらも、お前すぐそうやって感じるんだよな。傑作だな」
船田の顔がかあっと赤くなった。その言葉に頭に血が上って、左手で押さえつけられた両手をじたばたと
動かす。
「うるさいっ!」
再び赤平の手が船田の頬を打った。
「ぐっ・・・」
唇の端は切れ、血が滲み出す。赤平はそれを見ると下品な笑いを浮かべて、船田の顔に近寄る。
「何時ものように大人しくしてれば、お前だって気持ちよくさせてやるよ」
赤平はそういうと、船田の唇の端をべろりと舐めた。滲み出した血が赤平の唾液で薄まる。船田は
赤平を睨み上げると、涙声で言った。
「変態」
「・・・んだと?」
赤平の手が船田のベルトのバックルに掛かる。抵抗も叫びも、赤平の心を動かすことはない。
すぐに、船田の下半身は露になった。圧し掛かって、両腕を左手で押さえつけ、両足を自分のそれで
動けないようにすると、赤平は右手で船田のペニスを思い切り扱き始めた。
「嫌だ・・・んっ・・・」
「ほら、嫌だっていいながら、おまえのここ、すぐにデカくなるぜ?・・・どっちが変態だ?」
船田の性器は赤平の手に吸い付くように赤く膨れ上がった。プクリと先端には透明な蜜が湧き上がる。
赤平はそれを親指でぐりっと潰した。ぬめぬめした感触に気持ちよさと吐き気が同時に生まれる。
「や、やだ・・・」
「何言ってんだよ、ホントはいいくせに。ほら、お前の望み通り、また撮ってやるよ」
赤平は扱いていた船田のペニスから手を離すと、再び携帯電話をカメラモードにして、それを船田に
向けた。カシャというチープな機械音と、フラッシュ。船田の涙で消えかかりそうな声。
船田の訴えも赤平には刺激でしかない。
赤平は携帯電話を離すと再び船田の性器へと手を伸ばす。青白い素肌には似つかわしくないほど
熟れたペニスに、赤平は軽蔑と卑下を込めて擦りあげる。
「おまえ、誰でもいいんだよな。こうやって抱いてもらえるなら」
「違っ・・・」
赤平のピッチが一段と上がる。船田が顔を背けて、歯を食いしばっている。そうでなければ快楽に
引き釣り込まれてしまいそうになるのだ。
屈辱と快楽が結びつく。船田の中の矛盾が涙となって溢れ出る。
「止めて・・・赤平さん・・・」
「しゃぶれよ」
「え・・・」
「俺のしゃぶったら、今日は許してやるぜ」
赤平は自分のベルトを外すと、中から既に半勃ちしたペニスを出した。そして船田の髪の毛を掴むと
無理矢理起こして、床にひざまつかせる。
近くに落ちていたLANケーブルで両手を縛ると、赤平は船田の顔をべろっと一舐めした。
「くっ・・・ざまあないな。あいつにも、この姿見せてやりたいぜ」
「・・・」
「何だよ、その目は」
「・・・僕がこんな風になっても、動きません・・・そういう人ですから・・・」
「うるさい」
赤平は睨みあげる船田の視線をものともせず、その顔に手を掛ける。
そして、両側から頬を押して無理矢理口を開かせると、その隙に赤平は自分のモノを船田の口の中
に突っ込んだ。
「おおっ・・・」
赤平が低い声で唸ると、ペニスは一気に膨れ上がった。船田はむせ返ったが、赤平は更に奥まで突いた。
「噛み切ったら、てめえも殺すぞ」
「ンン・・」
船田の苦しい声を無視して、赤平は船田の髪の毛を前後に振る。赤平の股間の前で揺れる船田の
顔は屈辱に満ちていた。
喉の奥まで赤平の雄雄しいペニスを突きつけられ、何度もむせ返る。しかし、赤平はその行為を
止めるどころか、再び手にした携帯電話でその姿を焼き付けた。
カシャカシャと虚しく鳴る音に、船田の抗力が弱まる。
これでまた、次の脅しのネタにされるのだろうか。どうしてこんなことになってしまったのだろうか。
船田の心は、目の前の男の恐怖から逃れるように、意識が薄れていく。
そして、浮かび上がるのは数ヶ月前の、研究室での出来事。たった数秒の過ち。
「はっ・・・この・・・淫乱・・・」
赤平の顔が上気する。上ずった声に、射精の近さがうかがえる。喉の奥で何度も吐き気を呼び起こされ
船田の口からはだらしなく唾液が零れ、それが船田のアンダーシャツにべっとりと付いた。
一段と太くなった赤平のペニスが船田を目の前の恐怖へと呼び戻す。船田は逃れるために最後の抵抗を
試みた。 髪の毛を引っ張る手を除けようと、激しく首を振るが、赤平の強い手からは、数本の髪の毛が抜けた
だけで、その呪縛から逃れることは出来なかった。
「ったく、邪魔すんなよ。てめえは、大人しく掃き溜めにでもなってればいいんだ」
そして、激しく頭を揺さぶられ、船田はいよいよ吐くと思った瞬間、ギイっとその扉は開いた。
2人は驚いたように、開いたドアを見た。
「や、やだ・・・これ、どういうことなの・・・」
呆然と立ち尽くした純子の姿。赤平も船田の動きも止まった。
純子は、禁断の扉を開いてしまったのだった・・・。
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