なかったことにしてください  memo  work  clap
天 球 座 標 系



「そんなに、怯えないでよ」
力の入った頬を撫でられて、春樹はびくっと身体を震わせた。怯えているわけではない、自分でも
そう思う。得体の知れない緊張感なんだと、自分の置かれた立場を思う。勿論冷静でいられるはずは
なく、殆ど回らない思考の中で、そう感じているだけなのだが。
「お、怯えてる、わけじゃ・・・」
怖いわけでも、拒否しているわけでもない。どちらかといえば、恥ずかしいのだ。
 要が春樹を炬燵から引き上げて、後ろのベッドに雪崩れ込んでから、春樹はずっと、身体を固くした
まま、要のセーターの袖を握り締めている。まるで子どものようなその姿に、愛おしい気持ちが心を
満たす。要は、おでこやこめかみに唇を落とし、春樹の緊張を解こうとするが、唇が身体に触れるたび
びくびくと身体を震わせる春樹には逆効果だった。
「ん、もう。どこのお姫様なんだよ、進藤は」
春樹だとて、この状況がどういう意味を示しているのか分からないわけじゃない。分かっているから
こその反応なのだ。
「だって・・・その、俺・・・」
「何?」
「・・・こ、こういうの・・・は、初めてで・・・」
顔を真っ赤にしながら告白する春樹は、この年齢になっても経験のないことを少しだけ恥じているよ
うだった。しかし、要はそんなこと構うこともなく、にこりと笑ってそれを一蹴した。
「僕もだよ」
「で、でも、お前は・・・」
嘗て、付き合っていた彼女とそういう関係になったときに要は気持ち悪くなって吐いたと、聞いた。
その話を聞いたとき、春樹は、そういうこともあるのかと、他人事のように思っていた。そして、先日
要に抱かれそうになったとき、自分の上で気持ち悪くならなかったことに安堵した。
 けれど、それは全て、自分には関係ないことのように思っていた。いざ自分がそんな状況下に置かれ
て、春樹にはどうしていいのか判らないほど、緊張してしまったのだ。
 要は苦笑いを浮かべて、一度春樹の上から身体を退かした。
「じゃあさ、とりあえず、服脱ぐところから、ってことでどう?」
どこかマヌケな提案に、春樹は身体を起こして頷く。
「・・・うん」
「それとも、脱がせてあげようか?」
「い、いい!自分で脱げる!」
くすくすと要が笑って、春樹は背を向けて着ていたセーターやシャツを脱ぎ捨てていく。ジーパンに
手を掛けたときには恥ずかしさで、胸が苦しくなって、こんなところで何をやってるんだろうと、自分
の行動の滑稽さに冷めてしまいそうだった。
 トランクス姿で、布団の中に潜り込む。春樹が背を向けている間に要も既に服を脱いでいた。
布団の中で、向き合うと、要が春樹の腰を手繰り寄せてきた。
「ダメだよ、全部脱がなきゃ」
「全部って」
「全部だよ、これも」
そういうと、春樹のトランクスを引き下ろしにかかる。
「ひゃあっ・・・」
「なんて声だしてんの、進藤」
「だ、だって・・・」
春樹は要に下着を無理矢理下ろされるのが恥ずかしくて、仕方なく自分で脱いだ。すると、要は春樹の
腰に手を回してくっついた。
 肌が張り付く。冷たい手足に保温されていた身体。重なる唇。そして熱を帯びた一点。全てがぴたり
と重なりあって、溶けてしまいそうだ。
 唇を離すと、要はうっとりとした表情で春樹に語りかけた。
「気持ちいいね」
「お、落ち着かない・・・」
次に起きることを考えると春樹のどきまぎは最高潮だった。未知の甘い痺れ。想像の中でしか知らない
快楽に、脳みそが付いていかない。
 要はそんな春樹の様子を愛おしい気持ちで見つめる。そして、もぞもぞと身体を動かすと、春樹の
首筋に顔を埋めた。
 そこに舌を這わせて、吸い付く。消えかかったピンク色の痣はまた花を咲かせた。
「はあっ・・・ん・・・」
春樹の口から、ため息に近い声が漏れる。声を我慢しているのか、春樹はそれ以上漏れないように、
口を手で塞ぐ。
「進藤の、そういう声、二回目だ」
「え・・・」
「未遂だったもんね、前は」
あの熱が蘇る。身体の芯から熱くなって、春樹は首を振った。
「今度は、もっと、いっぱい、聞かせて」
要の声が耳元でする。耳たぶの縁を要の舌が這っていく。
「ああっ・・・んんっ、や、やだ、要・・・待って・・・」
「やだよ。もう、散々待ったんだから」
「で、でも、俺・・・」
「我慢しなくてもいいって」
我慢しなくていいと言われても、我慢しなければ自分が制御できなくなってしまうのではないかと、
自分の中に秘めたものの怖さにぶるっと震えた。
 その間にも、要の白い指先は春樹の髪、頬、腕を伝って、熱く反り立った場所へと降りていく。
いきなりぎゅっと力を入れられ、握られて、春樹は腰を引いた。
「ば、バカ、そんなところ触るなって・・・」
「ここ触るために脱いだんじゃないの?」
「・・・それ、は・・・」
逃げた腰を引き戻され、ソコへの刺激が始まる。擦りあげられて、直接脳へと響く刺激が春樹の身体を
強張らせた。
 僅か数回の刺激に、春樹がぶるぶると首を振る。
「や、やだ・・・」
性器からはプクリと蜜が膨れ上がって、それを指の腹で潰すとぬるぬるとした感触が春樹にも伝わった。
先端を刺激させて、春樹の硬度が増す。それでも入れた力を抜こうとしない要の腕を春樹は制御する
ように掴む。
「あ、あっ・・・んん、か、要っ・・・まって・・・」
「何?イきそうなの?」
潤んだ瞳でコクリと頭を振る春樹に、要は優しく頷いた。
「いいよ」
「で、でも」
「いいよ、抜いてあげる。何度でもすればいいじゃん」
「はっ・・・あっ、あっ、・・・あっ!」
でも、という言葉を唇で塞いで、舌を絡ませた。その途端、春樹の身体がびくびくとうねって、要の
掌は白濁で濡れた。

「はあっ・・・はあっ・・・」
肩で息をしながら、泣きそうな勢いで要を見上げる。要が春樹の初心な反応に答える。
「すごい、感度。僕、そんなに擦ってないよ。気持ちよかった?感じちゃった?・・・なんか、僕、凄い
感動しちゃった」
「・・・」
要は春樹に悪戯な目を向けた。
「・・・自分で、あんまりしないの?」
「!?」
その質問に春樹は眩暈を起こしそうになる。要に告白されて2年が過ぎたが、お互い際どい話など、
殆どしてこなかった。
「ん?」
「は、恥ずかしいこと、聞くな」
「うん。聞きたい」
春樹の拒絶を要はあっさり破棄する。にっこり笑って見つめられて、春樹は逃げられなくなった。
「・・・そんなにしない」
「嫌い?」
「・・・嫌いじゃないけど」
「けど?」
「わかんない。したいって思うことがあんまりなくて」
正直、要の事を意識するようになってから、自分ですることが少なくなった。想像の中で何を思い
浮かべていいのか、判らなかった。それでも要と自分を想像の中で絡ませることも、何か違う気が
して、不自然に春樹はそのことから遠のいていた。
「じゃあ、今は?」
「・・・」
「気持ち悪い?」
「・・・よかった」
気持ちが爆発したみたいだ。届いてしまった思いに、蓋をする必要などない。もともとあったのは
薄っぺらい膜だ。溜めていた分、刺激が増して、すぐに爆発してしまった。
 そして春樹の中には眠っていたはずの欲が、次々と目を覚ます。止められるはずはなかった。
 その思いは要へと伝わる。


「お、お前、なにしてんの!?」
「何してるって、気持ちいいこと」
そういうと、要は首筋から降りていった唇を突起物の前で止めた。そして、べろっと一舐めすると、
春樹から悩ましげな声が漏れた。
「あうっ・・・」
「ここも、ちゃんと感じるんだね」
要は笑って言った。反対側の乳首を掌で転がすと、それはすぐに、ぷくりと膨れ上がった。
「や、やだってば・・・」
春樹のうわ言を無視して、要は唇を身体中に這いまわす。ちゅっ、ちゅっと吸い付いては離れ、その
度に春樹の身体はびくびくと痺れた。
 腹のあたりに、幾つもの欝血痕を残して、要がふと顔を上げる。
「あ・・・」
急に止まった愛撫に春樹が不安に目を開ける。
「な・・・に・・・?」
「見てよ、進藤」
「?」
腹を指す要は、その欝血痕を指で辿る。
「オリオン座」
「――?!」
見れば、夜空に浮かぶオリオン座のように長方形の中に三ツ星が並んでいる。
「お、お前、バカじゃねえの!」
「どうせなら、冬の大三角でも作ってあげようか?」
「!!」
「あはは、うそうそ」
恋人の戯れになれていない春樹は、ただ戸惑うだけだ。その姿に要の行動は益々エスカレートして
いった。
 要は春樹と目を合わせたまま、欝血痕の辺りから更に唇を下腹部へと滑らせる。呆然とそれを見て
いた春樹が、その行動の意味を知ったときには既に遅く、春樹の性器は要の口の中にすっぽりと覆わ
れてしまっていた。
「はうっ・・・」
他人に触られたこともなければ、口でなど想像もつかなかった。生ぬるい舌が吸い付くように動いて
果てていたはずの性器はあっという間に先程の硬さを取り戻した。
 根元を手で扱かれて、先端は舌てねぶられた。
「・・・いきたくなったら、いってもいいからね」
要は一度口を離すと、今度は根元から後ろ側を舌先で舐め上げる。先端まで到達すると、また唇を離し
根元に戻る。春樹は顔を腕で覆って要のその姿を見ていないが、要は春樹の乱れる姿を全て目に焼き
付けていた。
 細部までじっくりと見つめて、春樹の覆っている腕を除けてみたくなる。
「はんっ・・・」
「すごい、進藤のここ、こんな風になってるんだ」
袋の後ろ側まで舐められて、春樹はその手を上げた。ばちりと目が合う。にたっと笑った要に春樹は
顔を真っ赤にして言った。
「見るな、バカ!」
当の要はそれを楽しそうに見ては、口の中で転がしたり、手で緩急をつけて扱いたり、先端を歯で
引っ掛けて刺激を与えたり。春樹のよがる姿を見て、うっとりしていた。
「はうっ・・・かな、めぇ・・・」
いやいやする子どものように春樹は首を振った。二度目の射精もすぐにやってくる。生暖かい、
口の中は、先程の手で扱かれたときよりも更に気持ちがよかった。
「もう、だめ・・・うっく・・・」
「だしちゃいなよ」
「はっ、イくっ」
二度目も春樹はあっけなく達した。初めて受ける他人からの刺激に、自分ではどうしようもないほど
興奮していることに、春樹は気づく。
 要の口からどろっと白いものが吐き出されると、春樹のところにも、つんと青臭い匂いが漂って
きた。
「・・・さすがに、吐いちゃった」
「当たり前だ!」
春樹は泣きたい気分で顔を覆った。

 カーテンの隙間から、暗闇が顔を覗かせている。無数の星も、今や春樹の目の前に広がるチカチカ
と瞬く星に比べたら、その光も蔭ってしまう。
 もぞっと動くと、隣に並んで寝転がる要に当たった。
「・・・まだ、元気そうだね」
いつまでも熱を帯びたまま、引かないそこは、少しでも刺激すればすぐに硬くなりそうだった。
「そういう、お前は・・・」
「触って」
「・・・」
「僕のも、触って?」
「うん」
春樹が恐る恐る手を伸ばすと、要のそこは膨れ上がっていた。ぬめぬめの感触に指を滑らせる。そして
要がしてくれたように、春樹も要の性器を擦った。
「んん・・・気持ちいい・・・」
要からも、ため息が漏れる。快楽を追いかけながらも我慢しているように眉間に皺が寄った。要は
春樹に扱かれながら、春樹のものにも手を伸ばした。
「ン・・お、俺は、もういいって」
「だーめ、今度は一緒にいこう?」
「い、いい、俺は・・・」
「ほら、進藤のここ、もうこんなに元気だよ?」
要に触れられた途端、春樹の性器はまた硬く反りあがった。春樹と同じピッチで上下運動が繰り返さ
れると、春樹もすぐに鼻に抜ける声が漏れ始める。
「だ、だって・・・俺、こんな、誰かに、触られるなんて、初めてだし・・・それが、要だし・・・すごい緊張
っていうか、なんか、考えると、ドキドキして・・・」
「うん。嬉しい。僕も初めてだよ、誰かに触られるのなんて。それが大好きな進藤なんて、ほら、もう
僕のだってこんなになってるし」
お互い先をすり合わせると、びりっと痺れた。熱やら気持ちやら、色んなものが倍増していく。
「進藤と、ずっと、こんな風にいやらしいことしたいって考えてた、ゴメンね」
「・・・あっ・・・」
 要は身体を起こすと、春樹の身体も引き上げた。そして、お互い向かい合って、足を広げると
春樹の足を自分の腿の上に乗せる。
春樹と腰をつき合わせて、要は自分のと春樹のを一緒に掴む。まとめられて、擦りあげられて、お互い
の先走りでぬるぬる滑った。
「好きっていうのは、そういう視線でみてるってことなんだよ」
「んん、か、なめ・・・」
「進藤も、少しはそう思ってくれてるのかな・・・んん・・・」
「・・・あっあっ、そ、んなの・・・」
「ん?」
「そんなの・・・お前の、こと・・・好きなんだから・・・あっ、当たり前・・・」
「進藤っ」
要の手の速さが変わる。強く握られて、反発するように内側から更に硬くなった。
「ねえ、一緒に、いこう?」
要は手を放すと、春樹の性器だけを握り、春樹の手を自分の性器に持っていく。お互いの顔を見つめ
あいながら、相手の性器を刺激する。
 眉間の皺、額に薄っすら湧き上がる汗。耳鳴りがする。一緒にいこう、大した意味はないのに、
なぜこんなにも気持ちが高ぶるのだろう。春樹はたまらなくなって、要にキスをした。
 貪りあうキスは初めてだった。
舌を吸われて、絡ませて、舌の裏側も舐められた。口から零れた唾液が性器に垂れて、扱くたび
ぴちゃっという妖しい音を立てた。
「あっ・・・う、うん・・・お、俺、もう・・・」
「うん。・・・あっ・・・僕、も・・・」
「あ、あっ・・・かなめ・・・」
「進藤、でるっ」
今までより更に強い力で擦りあうと、ほぼ同時にお互いの掌に精液が飛び散った。
「はっ・・・はっ・・・」
「ふう・・・」
2人の浅い呼吸だけが全ての音だった。

「手、汚れたね」
「早く拭けって」
「勿体無いな」
「バカ、そんなもん、いくらでも・・・」
言いかけてものすごく恥ずかしくなって、春樹は黙った。
「いくらでも?」
すかさずそこを要に突っ込まれて、春樹は大ぴらに開いた足を要から外して、顔を逸らす。ベッド
サイドのティッシュに手を伸ばして、要の精液でべたべたの手を拭いた。
 背中から浴びる笑い声に、春樹は今更ながら顔から火が吹きそうなほど恥ずかしくなる。よく考えれ
ば、この短時間で要の手と口で3回も達してしまったのだ。
「・・・もう、出ねえよ!」
乱暴に要にもティッシュケースを投げつけて、布団にもぐりこむ。無言で背中を向ける春樹に要は
困惑気味に声をかけた。
「進藤・・・?」
「もう、無理!」
「何で?」
「これ以上したら、俺、なんか、く、癖になりそう・・・バカになっちゃう!」
歯止めが掛からなくなってしまうという春樹の自己申告は要を益々焚きつけた。
「いいじゃん、なっちゃえば。種子の繁栄は本能だよ」
「繁栄するか、バカ」
思わず顔だけ振り返った春樹に、要はその唇を繋ぎとめる。ねっとりと絡み合う舌に、春樹の思考は
また溶かされ始める。
 もう、どろどろになるまで混ざり合ってしまってもいい、そんな気分がまた湧き上がって、自分が
どれだけいやらしいことを考えているのか、春樹は恥ずかしくなる。

「温かいね」
くっついたままの肌はしっとりと湿って、温かいというより、熱いほどだった。エアコンと散々
あえいだせいで、春樹の喉はカラカラに鳴る。炬燵の上には飲みかけのコーヒーが置いてあるが、
それに手を伸ばすのも惜しいほど、動きたくはなかった。
裸で抱きしめられ、触れ合う直接の体温にかつてないほどの幸福を見出いだして、春樹は
回された腕に自分の手を重ねた。隣に要がいる、繋がる、その意味を知った。
 要が、日高に言った言葉は、やはり慰めなのかもしれない。身体が繋がらなくても心は繋がる。
けれど身体が繋がれば、もっと目の前の愛おしい人を知ることができる。
 全てをさらけ出すのは要だけでいい。そして自分をもっと知ってほしい。自分が要を知るように。
 自分の居場所はここにあると、抱きしめられた腕の中で、春樹は確かに思ったのだった。












2007/06/4
本編に入れたくなかったんだもん。だってあの子達一応純愛だし。アレとコレは(作者が)別ってことで・・・(笑)


よろしければ、ご感想お聞かせ下さいvv

レス不要

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