なかったことにしてください  memo  work  clap
かえるの子はかえる―丘の××―


10年で変わるもの、10年経っても変わらないもの。


 このベッドに初めてダイブしたのは、父さんと天の同棲騒動でオレが家出したときだった。
あの時ほど、雨宮をいいヤツだって思ったことはないし、友達っていいもんだなって思ったこともない。
そして、多分、もう二度と、雨宮をいいヤツだなんて気軽に思うことは、ない。



「で?そんなこと思い出してたの、お前は」
「思い出してたっていうか・・・このベッド・・・見たら・・・急に・・・思い出しちゃってさ・・・」
10年前の幼い思い出が蘇った話をしたら、雨宮はくすりと笑った。
「ふうん、じゃあ、あと10年後にまたこのベッド見て、これも思い出しなよ?」
「はあん・・・あっ・・・ばか、雨宮やめろって・・・ん・・・」
オレの中で雨宮がビンビンになって動いている。
「相変わらず、丘の感度は最高だな」
腰を振られ、奥まで雨宮のペニスで塞がれて、それなのにオレときたら、それが気持ちよくて
女でもないのに、あんあん声上げてよがってるんだから、ホントにいやになる。
 10年前、あの馬鹿オヤジのせいで雨宮の家に家出してから、オレと雨宮はどうやら腐れ縁
っていうやつで繋がってしまったらしく、それどころか、その腐れ縁はすったもんだの末、ついに
恋人という名前にまで変わってしまった。思い出すだけでも恥ずかしい出来事の数々を乗り越えて。
・・・そう、乗り越えてしまったんだ、オレは。
 雨宮に言わせると、
「10年間、手塩に掛けて大切にこっちの世界に引き込んだんだから」
という、通称紫の上大作戦によって、オレはまんまと雨宮の手管に落ちてしまったらしい。
 元はといえば、初めてセックスを知ったときからオレはおかしくなっていたんだ。あいつらが
あんな風に見せなければ、女に嫌悪することなく、普通の恋愛が出来たはずなのに・・・。
 それどころか、男同士のセックスを雨宮に教えられ、拒絶反応出したところに、お前の親父
だって、やってんだろって撃沈させられるようなことを言われ・・・。
 だけど、そんな荒療治が効いたのか、いつの間にか普通に受けることが出来るようになって、
おまけに雨宮まで受け入れてしまった。
 オレってホントに雨宮に踊らされてばっかりだ。
小学生のころは、暗くて、ただ頭のいいメガネ君だったくせに、中学に入ってから、いきなり
雨宮は変貌を遂げた。なんていうか、モテモテ君になってしまったのだ。
「お前が、もっと周りの人間と交流したほうがいいって言ったから」
と雨宮はオレの所為にするが、オレは別に皆と普通に話せばいいって思っただけで、モテろとは
言ってない。
 べ、別に焼いてるわけじゃないけど、いきなり明るくなって、周りに人だかりができるように
なってから、オレはちょっと面白くなかっただけだ。
 だけど、それすら、雨宮の作戦だった・・・らしい。

 雨宮は社交的になり、そして腹黒くなった。
腹黒いというか、SかMかで言ったら、ドSみたいなヤツになった。
昔は優しさのかけらを持った純朴な少年だと思っていたのに。オレってば、ホントに大馬鹿だ。
雨宮の優しさを受け入れて、いい気に酔っていただけだった。・・・いや、今でも酔ってるんだけど。
「セックスの途中で余計なこと考えるなよ」
そう言って雨宮はオレの腕を、さっき脱がされたズボンのベルトで縛り上げてくる。
「痛いって、やめろよ、そういうの!」
オレが抵抗すると、雨宮はニヤニヤ笑って
「そういうのが、いいくせに」
といって、オレの腰をぐんぐんと振った。
「いやあっ・・・あま、みや・・・キツイから・・・」
頭がぐらぐらする。そんな甘い刺激でオレの身体の中、どうかなっちゃいそうだ。
あー、馬鹿馬鹿馬鹿。雨宮のチンコ野郎。
可愛かったあの頃のお前はどこにいっちゃったんだよー!オレの雨宮を返せ!
「何、そんな可愛い顔して?」
「ばっかじゃねえのっ・・・あはんっ・・・」
雨宮がオレのペニスを扱き始める。途端に気持ちよさが倍増して、全身に力が入ってしまった。
「そんなに、締め付けると、俺もすぐイっちゃうんだけど?」
「だ、ダメっ・・・んん・・・」
「何、もっとしてたいの?」
「ち、違うってば・・・ああっ・・・出すなら、さっさと・・・出せっ」
「どっちなの?」
オレは両手首を頭の上で縛られて、足を雨宮の肩に掛けさせられて、ホントあられもない格好して、
恥ずかしいやら情けないやら。
 でも、雨宮の端正な顔が快楽で歪んでいくことに卑猥な気持ちが混じって、オレのペニスは絶好調に
反応している。
 間近でみる雨宮ははっきり言ってかっこいいんだ。くやしいから絶対いわないけど。
腰を掴まれて、また激しく揺さぶられる。オレの限界も雨宮の限界もすぐそこだ。
「だからっ・・・はあっ・・・生ですんなっ・・・」
「・・・俺、病気持ってないけど?HIVにも感染してないし」
雨宮がニタニタ笑いをして俺にキスをする。っとに、思い出したくないことばっかり、コイツは
覚えてやがる。
「ばかっ・・・そうじゃねえ・・・生ですると・・・」
「ふっ・・・ん?」
「腹が壊れるっつてんだろ、馬鹿!!」
何度も言わせるな、このド変態。
 真っ赤になって睨みつけても、雨宮はどこ吹く風って感じで、オレの中を楽しんでるだけだ。
オレは縛られたベルトを口で解いて、ベッドの頭の部分にある小物入れから手探りでゴムを探す。
コイツがつけないなら、オレが無理矢理でもつけてやる。そう思って、封を切ったところで、ゴムを
取り上げられた。
「仕方ないなあ、丘は」
何が仕方ないだよ。って、オイ!オレにつけてどうすんだっ
「だって、付けておかないと、ベッドが汚れるし」
「・・・お前の腹にぶちまけてやるっ〜」
オレがゴムを外そうと手を伸ばしたら、その手を掴まれ、器用にもオレはそのまま180度回転させられた。
「丘は、バックの方が気持ちいいんだもんな」
俺も余裕ないから、そう言って雨宮はオレに密着しながら腰を振った。痺れにも似た刺激がそこから、
手足に伝わって、四つん這いになったオレの身体は震えだす。
 雨宮が生でやりたがるのは、オレだって分かる。だって、断然気持ちいいもん。
「あうっ・・だ、ダメ、もう、出る・・・」
「いいよ、イきな。俺も一緒にイクから・・・」
「はああっ、あまみやぁ・・・」
結局オレは、後の事なんて考えられなくなって、一気に駆け上ってしまった。
 なんで、オレのペニスにゴム付いてんだよ、くそう。



「で、丘は来年の院試、どうすんだ?」
「どうするって、受けるよ、あたりまえだろ?今日だってそのためにお前んち来たんだから。お前が
言ったんだぞ、勉強するなら見てやるって。手取り足取りなんとかって」
「手取り足取り腰取り。ちゃんと取ってやっただろう」
「ああん?って、もう離せよ」
ベッドで事後のだらだらした気分の中、雨宮がまた腰に手を回してくるからオレはその手を布団の中で
叩いた。
 そうだよ、大体オレは今日、わざわざ雨宮に抱かれるために来た訳じゃない。オレは勉強しに来たんだ
ってーの。
「どーせ、お前は学内推薦でいくんだろ?」
「まあね。俺頭いいから」
「性格もよかったら、言うことないのに」
「何、丘君?」
「うえっ、首締めんな、馬鹿」
オレ達は3年前、奇跡的に同じ大学に進学した。奇跡的というか、雨宮の策略によってなんだけど。
元々、「複雑な家庭のうえに、頭も悪かったら救いようが無い」って思ってたオレは志望していた
地方国立の工学部に国立理系の模試で軒並みA判定もらえるくらいのレベルではあった。
 それで十分だったのに、雨宮が、「もっと上目指せ」なんて言うから、オレは何故か、雨宮と同じ
N大の医学部を目指すことになってしまったのだ。
「N大医学部って!!偏差値あと15もどうやってあげるんだよ!!」
絶対無理だと思っていたのに、雨宮の懸命な励まし(?)とスパルタ教育によって、オレは間違って
一発で合格してしまったのだ。
 まあ、それはいいんだ。受かったんだから。だけどいっぱいいっぱいで受かった人間ってーのは
大学入ってからが大変で。3年になってゼミが決まって益々忙しくなって試験の勉強なんて殆ど手付かず
だからオレは常に学年最下位を争ってる。はっきり言って今年の留年すら危うい。3年の後期試験の
結果が続々と張り出されているが、再試が3つ、レポート再提出が1つ。一つも落とせないオレにとって
毎日がサバイバルだ。
 来年は院試がまってる。基本的にウチのゼミで院に行かないやつは落ちこぼれなんだよ。だけど
院生の枠は決まっていて、学部生の何人かは落ちるんだ。院の浪人なんてかっこ悪いし、ここはなんと
しても受かりたいところなんだけど、今のオレはかなりマズイところにいる。事ある毎に再試のオレと
医学部トップの雨宮。雨宮は学内推薦で多分無試験で院に入るんだろう。
 だから、こうしてオレは院試の勉強を雨宮に教えてもらおうと思って、雨宮の家に来てたのに、
なんでか、勉強もそこそこにオレは雨宮に抱かれていた。
 ったく、オレ達は盛りの高校生じゃないってーの。
 雨宮の「勉強見てやってもいいけど、俺には見返りあるんだろうな」っていう言葉に頷いてしまい
その見返りは何故か「先払い」だった。まあ、それにほだされてるオレも相当なバカだなんだろう。

病院の息子、学年トップクラス、誰にも優しくて、かっこいい。雨宮の今のステータスは誰もが
羨むものばかりだ。
 優しいの辺りはかなり胡散臭いけど。コイツの外面のよさときたら開いた口が塞がらないほどだ。
そんな雨宮とオレが付き合ってるっていうのは、勿論トップシークレット。父さんにも天にも。
 あの人達には秘密にすることはないんだろうけど、やっぱり、恥ずかしくて言えない。・・・あんなに
毛嫌いしてたのに、「お前もか」なんて言われたらかっこ悪すぎる。
 オレが1人で考え事していたら、後ろから抱き着いてきた雨宮が思い出したようにしゃべりだした。
「そういえば、昨日実験で大学から朝帰りしたんだけど、駅で丘の両親見たよ。旅行でも行くみたい
だったけど?」
「ああ、出張で北海道行ってる。っていうか、両親じゃねえよ」
天は戸籍上父さんの「子」となって天野の姓を名乗っている。オレの兄になるのか弟になるのか、
よく分からない。まあ年が上だから「兄」扱いなのかもしれないけど、だからと言って天のことを
兄とは思わないし、勿論親とも思わない。天は天だ。
 父さんが戸籍を弄るときも、それはそれでかなりいろんなところで問題が起きた。少なくとも
父さんの両親ですらいい顔はしなかった。だけど、父さんと天はそれをやってのけた。
 そんなに惚れてたのかと自分が成人して、雨宮とこんな関係になって将来のこととか考えたりすると
そのエネルギーの凄さを感じずにはいられないけど、本人達は相変わらずのバカップルだ。
「まあ、出張って言う名の旅行だけど」
どうしてアレが昇進できるのか世界の7不思議になってもおかしくないくらい謎なんだけど、父さんはまた
昇進して、今や営業部の次長にまでなっている。
 天に至っては、たんぽぽ保育園の園長だ。これはずっと後になって知ったんだけど、天はたんぽぽ
保育園の元園長の息子だった。要するにたんぽぽ保育園は天の所有物だったわけだ。
「父さんがテレビみてたら、突然北海道にボード行きたいって言い出してさ。そしたら次の週、
いきなり北海道の支社に出張作ってきて、それで天も園長権限をフルに使って北海道の保育園の視察
とかいうありえない予定作りやがったんだ。で、気が付いたら二人揃って北海道だよ」
「あの2人なら、平気でやりそうだな、そういうの」
雨宮は感心したように驚いていた。ホントにあの人達はやることが無茶苦茶すぎるんだ。振り回される
こっちの身にもなって欲しい。まあ、今回は自分達でちゃんと手配してオレに迷惑かけることは
しなかったから、オレも目くじら立てて怒ってはないけど。
 それに、もう家には面倒みなきゃいけない小さい子どもがいるわけでもないし。アツシだって、
今度の4月からはもう高校生だ。中学最後の青春とやらを目一杯謳歌してるらしい。勉強もして
もらいたいもんだ。人の事は言えた義理じゃないけど。
 って、やべえ!忘れてた!
アツシのこと考えてたら用事があったことを思い出した。
「今、何時!?」
「2時50分」
「やばい、雨宮シャワー借りるぜ」
そういうとオレは裸のままベッドを抜け出して、廊下突き当たりの風呂場に駆け込んだ。もう、
勝手知ったる雨宮の家。シャワーもタオルも好きなように使ってる。・・・多分その後で雨宮がちゃんと
片付けてるんだろうけど。雨宮の両親にだって、やっぱりオレ達の関係は秘密だ。
「うー寒っみ〜・・・」
熱いシャワーが出るまでの間、身体が急激に冷えて、オレは思わず身震いした。

「何、もう帰るの?」
お互い風呂でシャワー浴びて、着替えを済ませると、オレは雨宮の部屋で帰り支度を始めた。
「忘れてたんだよ、アツシの迎え」
「何それ」
「あいつ、今日私立高校の受験なんだよ。3時くらいに終わるから迎え来てだってさ」
「使われてるなあ、相変わらず」
それには反論できない。アツシは小さい頃から回りに甘やかされて、甘やかされて、ホントに
甘やかされて。そして甘やかされたままでかくなった。
 人に頼ることに躊躇いが無い。人を使うことにも躊躇いが無い。特にオレが去年車の免許を取ってからは
ことごとくオレを足として使いやがる。
 あいつ、平気で学校の先生とかにも家まで送ってもらってるしなあ・・・。末が恐ろしいのは父さん
よりも、遥かにアツシの方だ。
 どこで教育を間違ったんだろうって思うけど、あいつの場合初めから無茶苦茶だったし。でも、
まあ、母さんがいなくて淋しかったっていう思いをあまりさせなかっただけマシなのかな。自分が
辛かった分、アツシには同じ思いさせたくないってそれはずっと思っていた。
 だけどその考え自体が甘やかす原因の一つだって、いい加減オレも気づいた方がいいんだろうか。
「悪ぃ、そういうわけだから、オレ行くわ」
オレが部屋を出て行こうとすると、雨宮が後ろから声を掛けてきた。
「丘、明日も来るんだろ?」
その声には変な色が混じってて、オレは振り返って雨宮に釘を刺す。
「来るよ、来るけど、明日は勉強するんだからな!邪魔すんなよ!!」
「はいはい。でも、勉強みてやった見返りはくれるんだろ?」
雨宮はオレに近づいてきて、ドアの前に俺を追い詰めるとニタニタ笑った。
「ばっかじゃねえの!」
ふいっと横を向けば耳に噛み付かれて、辞めろってそれを手で払ったらその手を掴まれた。真剣に
見つめられて、思わず力が抜ける。目を合わせれば、もう片方の手で顎を持ち上げられて、ねっとりと
舌を絡ませたキスをされる。
 正直それだけでオレはゾクゾクするほど感じてしまう。
だって、雨宮こうやってキスした後は必ず、
「丘、好きだよ」
って言ってくれるから。
やっぱり雨宮からそんな言葉が聞けるのは嬉しい。照れるけど。気持ちを確かめられる瞬間は身体が
繋がってる瞬間と同じくらい快感だ。
 オレはその言葉には答えずに、雨宮に掴まれた腕を離すと、かっこいいとはいえない捨て台詞を
残して、部屋を飛び出した。

「・・・あ、あ、後払いだからな!」

雨宮のニヤけた笑い声と、運転気をつけろよって言う声が後ろから聞こえてきたけど、オレは振り返らず
玄関のドアを開けて出て行った。
 また来る、いつでも来れる、そんな安心とむず痒さを心にたたえて、オレは10年後もこの扉を笑って
出て行ける関係であるといいな、なんてポツリと思ったそんな一日だった。





【天野家ことわざ辞典】
かえるの子はかえる(かえるのこはかえる)
あんなに毛嫌いしていた男同士の恋愛も、年頃を迎えたらあっさり受け入れてしまう丘は
やっぱり晴の子なんだ、と関係者一同、そう思うわけで・・・。
>






よろしければ、ご感想お聞かせ下さいvv

レス不要



  top > work > 天上天下シリーズ > 天上天下隣が奥さん1
nakattakotonishitekudasai ©2006-2010 kaoruko    since2006/09/13