ありえないだろう！
もうそんなことって、絶対おかしい！！
オレは、枕元の時計を見て愕然とした。日付変更まであと1分もない。
「仕事納め完了」
ニタリと笑う雨宮にオレは「洩れちゃった感」満載になりながら肩で息を整えた。
「お前、卑怯」
「口でしたらダメなんて、誰もいってなかったデショ。それに丘だって、さっきはそれ
狙ってたみたいだし。お互い様」
「この悪運の塊が〜〜！！」
雨宮の掌には、オレがさっき生産したばかりの精液がべっちょりと乗っかっていて、ぽわん
と臭い始めている。
「早く捨てろよ」
「これ使う？」
「･･････使わない！」
「勿体無いなあ。出しただけで捨てるなんて。時代はエコだよ」
「そんなもの、リサイクルできるか」
オレは寝そべってベッドサイドの引き出しから手探りでジェルを引き抜いた。
「おや、やる気だねぇ。こんなんじゃ足りなかった？」
ジェルを取り出した手が止まる。
「！！」
一々、こいつは人の反応を見て喜びすぎだ。やる気満々ですなんていいたくないけど、
オレだって止める気はさらさら無いし、いつまでも、初心なガキじゃない。
「こいつ出さなきゃ、オレの大切な生産物がリサイクルに使われちゃうもん」
雨宮にジェルを突き出して、その隙に掌の精液をティッシュで拭い取った。
　ふふんと雨宮は鼻を鳴らすと、オレをベッドに押し戻した。
「明けましておめでとう」
時計は12時を過ぎていて、新しい年は明けていた。
「･･････うん。おめでとう」
「では、続きまして、姫初めにまいります」
どこぞの司会者のような口調でオレのジャージとパンツを全部引き剥がしていく。
「寒い〜」
ものぐさなのか、惰性なのか、下半身だけ丸出しの間抜けな格好になっても、ジャージの
上を脱ぐ気にならなくて、オレはジャージのジッパーに手を掛けた雨宮の手を除けた。
「すぐ暑くなるって」
「そしたら脱ぐ」
「別に良いけどね、チラ見は男のロマンだから」
「何訳わかんないこと言ってんだよ」
「ココからチラッと見える丘のモチモチしたわき腹がたまんなく好きってこと」
雨宮はオレの腹に手を伸ばして、わき腹を撫でた。
「やめっ、くすぐったい！」
くすぐったくて身を捩ると、銀縁のメガネを光らせて雨宮がニヒヒと笑った。
「全身もち肌の丘の中でも、ココと内股の感触は格別だね。目の前にそそり立つ、こいつ
とのギャップがまたなんともいえなくていいね」
雨宮は既に復活して反り立ち上がってきたオレのペニスの上にジェルを垂らしていく。
「お前の変態的な趣味なんてどうでもいいって･･････んんっ」
雨宮はこれ以上オレをしゃべらせないように、ペニスのジェルを指ですくうと、躊躇う事
なく、後ろの穴に突っ込んできた。
　ぞくぅっとする不快とも快感ともいえる感覚の後で、じわじわと来る本当の快楽。あの頃
どうしてこれを躊躇いながらも受け入れることが出来たのか、今でも不思議だ。
　痛かったし、もう無理だと何度も思ってたのに、じわじわと快楽の方があとから追いかけて
来て、気がついたらもうこれなしじゃ物足りなくなってる。
　雨宮に良い様に作られたとしか思えないオレの身体。まあ、それも悪くないと思って
しまうのは、やっぱりオレも雨宮の事が好きだからなんだろう。
「すぐにトロトロになりそうだよ」
「ふぅっ･･･んん」
指がぐりんぐりんとオレの中をかき混ぜて、本当にトロトロになりそうなほど直ぐにオレの
緊張は解けていく。早く受け入れたくて、ソコが雨宮を欲している。
「あっ･･････んん」
雨宮の指が増えて、オレの中がきつくなった。思わず声を上げそうになって慌てて飲み込む。
こんな声、家族に聞かれた日には生きていかれない･･････。
「流石にちょっとキツイね」
「･･････ガバガバになったら困るだろ」
オレは生理的な意味で言ったのに、雨宮は
「そうだね、締りがいい方が気持ちいい」
なんて、いけしゃあしゃあとのたまった。･･････ホントに、こいつの頭、オール「優」が
もらえるほど良いんだろうかと考えてしまう。
　馬鹿だろ。大体、オレとセックスしてるなんて、お前馬鹿だろ！こんなかっこよくて、
頭よくて、人望だってそこそこあるのに･･････相手、オレだぜ？何の変哲も無い男だぜ？
事ある毎に思ってしまうんだが、でも、よくよく考えられて捨てられるなんて羽目に
なるくらいなら、このまま熱に浮かされていてくれとも思う。
「どうしたの、丘」
「･･････なんでも、ないっ」
「欲しそうな顔してるよ」
綺麗な顔を歪ませて、雨宮が言った。雨宮だって、本当はさっさと入れたいくせに。
　雨宮は自分の性欲よりも、オレをベッドの上でからかうのが何よりも好物な馬鹿だ。
「･･････ごちゃごちゃ言ってないで、さっさと来い」
「うん。本年も宜しくお願い致します」
雨宮はオレと言うより、オレの孔に向かって頭をさげる。一々失礼なヤツだ。
「お世話になりますだろ？」
「うん。たっぷりとお世話しますので、どうぞ宜しくお願いします」
そう言って、雨宮はオレの中に遠慮なく入り込んできた。
「ああっ」
思わず声が洩れて、慌てて口を押さえる。想像していた以上に、キツイ感じが、余計に
オレと雨宮を煽った。
「ちょっと･･･やばい、かも」
「ぞくぞくするね。･･････年越えたから、いつイってもいいよ」
「お前がイクまでイけるか」
「またそういうこと、を･･･っつ･･････」
オレが根元を締め付けると雨宮が顔を歪ませた。
「･･････丘、キツイって。動けない･･････」
「動けよ、これでお前もすぐイけるだろ」
「･･････わかったって、一緒にイこう？」
雨宮がオレの両足を肩まで担いで、ぐいんと奥まで突く。
「ふんっ･･･はぁ」
「うぁぁっ」
呼吸を置かずに腰を引いて、ずるずるとオレの中から雨宮が出て行く。すっぽ抜ける寸前
で再び折り返し。さっきよりも強い反動でオレの中をバウンドした。
「あっ」
「ふぅ」
口元を腕で塞いで、声が洩れないようにしていると、雨宮がその手をどけて、替わりに
雨宮の唇が降って来た。
　ちゅくちゅくと音が響くのはどこからなのか。唇の端には唾液が溢れて、横に零れて
行った。



「あ、まみ、やぁ･･････もう、イク･･･」
「うん。いきそう、俺も」
オレも雨宮も数分しか持たなかったのは、久しぶりのセックス+新年のテンション+勝負で
我慢した反動だと決め付けて、マイナスの要素は見なかったことにした。
　若くないなんて、死んでも言わせるもんか。
　早くフィニッシュしたい。その気持ちは一致して、雨宮はオレの中をガンガン攻めたし
それにつられてオレも自分のペニスを扱いて、最後はちゃんと二人で同時に果てた。
「はあ･･･はあ･･････」
「気持ち良いね、このまま寝ちゃいたい」
「はぁ･･･はぁ･･･寝言は寝て言えっつーの」
それでも射精後の急激なだるさに瞼が一気に重くなる。このまま寝たら大惨事になること
間違いなしだ。
　渋々なのか雨宮がオレの中から出て行くと、冷たい空気に触れ、身体が一気に冷えていく。
睡魔と戦いながら、後始末を終えると、オレと雨宮はシングルベッドに寄り添いながら
眠りに落ちていった。





　次の日、キッチンで父さんと目が合った時、「おはよう」の前に僅かながら変な間が
出来た。お互い腹の探りあいみたいだ。多分、父さん達の部屋にもオレの部屋の怪しい音
は響いていたんだろう。その秘密には触れられたくない、オレは早口で
「明けましておめでとう。餅3つね」
と言って、コタツに潜り込んだ。
　オレと雨宮はぼけっとコタツに座って、父さんが雑煮を用意してくれるのを待った。
だるくて手伝う気力も起きない。
　2人してぼうっと外を眺めていると、玄関が開いて、アツシのハイテンションな声が響いた。
「たっだいまー」
リビングに入ってきたアツシはいかにもって顔をテカテカさせて、コタツに潜り込んできた。
「うー寒かったー！あー、暖かい！」
「･･････ここまで堂々と朝帰りすると、怒る気も失せるな」
アツシのふにゃけた顔を見てオレは豪快に溜息を吐いた。
「べつにいいじゃん。女の子じゃないんだし」
ふん、とオレから目を逸らす。けれど、直ぐにオレを振り返って、それから雨宮を目で追った。
「何？」
「修ちゃんも、兄ちゃん相手じゃ大変だろうね」
「はあ？何言ってんだアツシは」
雨宮が答える前に、オレは動揺しながらアツシに声を大きくして言い返えす。大変って何を
大変だって言ってるんだ。こいつ、オレと雨宮の事、何だと思ってるんだろう･･･。まさか、
アツシにはばれてるんだろうか。
　むやみに雨宮を振り返ることも出来ずにいると、そこに天がニコニコしながら現れた。
ナイス天。当に天の助け。
「明けましておめでとう、3人とも」
「おめでとう」
「おめでとうございます」
「おっめでとー、天ちゃん」
天ももそもそとコタツにもぐりこんでくる。4人向かい合わせで暖を取っていると、天が
オレと雨宮とアツシを代わる代わる見たあと、意味ありげにふふっと笑った。
「･･･なんだよ、気持ち悪い」
「丘もアツシも、今朝は血色がいいな」
「はあ？」
「お肌、トゥルットゥルのスベッスベ」
「･･････いつもと変わんねえよ」
くそう、全然天からの助けになってねえじゃんか！
　天は事ある毎に、こうやって突っ込んでくるから、迂闊に話に加わってはいけない。
たわ言は聞き流そうとしたのに、アツシがウフフと頷いた。
「そう？やっぱりな〜。いい事あるとツルッツルになるんだよね」
「何、いい事って」
「好きな人と新しい年を迎えられたってこと。･･････て、あれ？じゃあ、兄ちゃんもそう
いうことになっちゃうのかなあ？」
わざとらしく、アツシが振り返る。こんな風にカマをかけられて幾度となく、際どい答え
をぽろっと零してしまったから、オレも学習した。
　こういうときは、逃げるに限る！
オレはだるい身体をコタツから引きずり出すと、キッチンへ向かって逃げ出した。
「父さん、手伝ってあげる」
オレの後ろで小さな声で3人が笑ったけれど、その笑いの根底にあるものが何であるのか
オレには見極めることが出来なかった。



「じゃあ、改めて」
雑煮のお椀を配り終わると、珍しく父さんが一家の長らしく声を出した。
「明けましておめでとう。今年も一年、無事健康で、幸せに暮らせますように」
毎年のお決まり台詞だけど、それが聞けるってことが一番の幸せってことかもしれない。
皆で「御とそ」で乾杯して、後は思い思いにお節料理に手を付けた。
「あー、お父さん、僕お餅1個でいいって言ったのに」
アツシが自分の椀の中の餅を見て不満げに言った。朝帰り、しかも多分、ハイテンション
で遊んで帰った後で、確かに餅はキツイだろう。
「うん、サービスで入れてあげた」
父さんはニッコニコの笑顔でアツシの不満を受け流す。この笑顔は実は、アツシにとって
ちょっとした脅威になっているらしい。天然なのか、全てを知った上で笑っているのか、
アツシには分からないからだ。
　勿論オレにだってわかんない。だって父さんの考えてることって昔からおかしいんだもん。
「美味しいよ、お餅。アツシも食べてみなよ。ほら、丘の腹の肉みたいないい伸びっぷりで」
「なんで父さんがオレの腹の肉の感触なんて知ってんだよ」
「子どもの頃はそうだったんだよ」
「どんだけ昔の話をするんだ」
「父さんは今でもモチモチだよ」
「メタボの間違いだろ！」
「どっちでもいいけど、誰かお餅1個食べてよ！」
「せっかく父さんが作ったんだから、お前は食べろ！」
「兄ちゃん、小姑みたい〜。いいお嫁さんになれなくなるよ」
「誰が嫁にいくか！」
段々と収拾がつかなくなってきた天野家の元旦の食卓は、いつも通りにぎやかで、いつも
通り幸せな空気が流れている。
　今年もまた、こんな一年でありますようにと、オレは苦笑いしながら思った。









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レス不要