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きょうの料理


 レシピ3:決め手はスパイス!オトコ心と大盛パスタ―後編 



呑喜の前で待ち合わせていると、黒のBMWクーペが近づいてきた。そこから出てきたのは今日も
シックなスーツがよく似合う誠史だった。
「お待たせ」
「こ、こんばんは」
「なんだか別人みたいだね」
「……着慣れないシャツなんて着てるせいですよね。変ですか?」
「ううん、かっこいいよ。似合ってる。大人っぽい綾真君もいいね」
綾真はからかわれていると思って、顔の前で手を振った。
「止めて下さいよー。誠史さんみたいなかっこいい人に言われても真実味ありません……。
ああっ、エプロンしてた方が落ち着く。あ、これでも会社勤めてた頃は毎日スーツ着てたん
ですよ?」
「へえ。その頃の綾真君にも会いたかったなあ」
「中身は大して変わりませんって。それに、そんなかっこよくスーツ着こなす人の隣に
絶対並びたくない……誠史さんって思ってたけどやっぱり長身ですよね……」
「綾真君は意外と小さいね」
誠史は小さい子にでもするみたいに頭をくりっと撫ぜた。
「わっ悪かったですね!」
綾真は慌ててその手を払いのける。それほど背は高くないが、今まで小さいと言われた
事もなかった。ただ単に誠史の背が高いだけだと綾真は思う。
「ふふふ、ちっちゃくて可愛い」
「誠史さんみたいな長身の人と並べば誰でも小さく見えますよ!」
綾真は真っ赤になって反論した。
「そうかなあ」
「誠史さんってそんな嫌味ばっかり言う人だったんですね!」
「まあまあ、ご機嫌直して?さ、どうぞ」
誠史はそんな綾真を適当にあしらって、愛車のドアを開けた。綾真は緊張しながら車に
乗り込んだ。



サイオンジガーデンは落ち着いた外装のリストランテ――イタリアン料理店で、客層は
20代から50代の女性やカップルと幅広く支持されていた。
堅苦しすぎず、けれどはじけすぎない雰囲気が大人の女性に受けているのだと言われて
いて、一歩店に踏み入れると、綾真もそれを肌で感じた。
「いらっしゃいませ……新村様、お待ちしておりました」
「ああ、こんばんは。突然の予約なのにありがとう」
「ご予約ありがとうございます。こちらになります」
ホールスタッフとは顔見知りのようで、ニコリと笑顔を振りまくと、綾真を振り返って
頷いた。綾真はすっかり雰囲気に飲み込まれて心拍数が上がっていてたが、誠史はこの
重厚感に負けるることなく平然とスタッフの後を歩いていった。
小走りになるのもかっこ悪いので、綾真は大股で誠史の後を追い、席に着いた。



「今日のコースは2種類みたいだね」
「うわーっ。どっちも気になる。ああ、俺が二人いたらどっちも食べたれるのになあ……
こんなチャンス2度とないから、困った」
「ふふふ、ゆっくり決めていいよ」
誠史はドリンクメニューを開いてワインをチョイスするとメニューには目もくれず、綾真
の方を眺めていた。
「うーん。西園寺ブラザーの魚介って最高に旨いんですよ。あの技をもう一度味わいたい
気もするし、でも子牛のワイン煮も捨てがたい……」
真剣に悩む綾真の隣で誠史はニコニコしながら待っている。それに気づいて綾真は慌てた。
「す、すみませんっ」
「やっぱり綾真君は料理人だ」
「え?」
「自分が今食べたい物よりも、技を吸収したい物を求めてる」
「……西園寺ブラザーだけは特別なんです……。いつもは食べたいもの食べますよ!」
「好きなもの食べればいいよ。気になるならまた来ればいい」
「そ、そうですよね……」
綾真が悩んだ末にメニューを決めると、スタッフが注文を取りに来た。
「綾真君はどうする?」
「こっちの肉料理の方で」
「あと、このワインを彼に。あいにく俺は運転手なので」
誠史はワインを注文しただけだった。スタッフもそれを受けると、何も言わずに下がって
行った。
綾真が驚いていると、誠史は意味深な笑みを浮かべて
「ちょっとした知り合いがいるんだ」
とだけ言った。



「違う……絶対に違う……」
アンティパストが出された時から違うような気がしていた。前菜はどれも綾真にはおいしく
勉強になるものばかりだった。とろけそうな食感のホタテを食べ終わったところで、ふと
誠史の皿を見た。貝が嫌いという自己申告をしていた誠史の皿は綺麗に食べ終わっていた
のだ。
無理して食べたのかと感心したのだが、どうも違う気もした。
そして、パスタが運ばれてきた時、決定的になった。
「ん?何が?」
「パスタって選べませんでしたよね」
「そうだね」
「今日のパスタはボンゴレだって言ってスタッフの人が運んできましたよね」
「そうみたいだね」
「誠史さんのそれ、ベーコンですよね」
「それ以外のなんでもないね」
「なんでですか!?」
「……だから、ちょっとした知り合いがいるんだって。昔からのね」
「ちょっとした知り合いって……」
厨房のかなり上の位置の人間でなければ、こんなメニューを変えまくって出せるわけがない。
綾真はもんもんとしながらパスタを口にしたが、口にした途端余計なことなど考えるのも
馬鹿らしくなった。とにかくこの味に浸りたい。
誠史は早々に食べ終わり、綾真もフォークを置くと、スタッフが近づいてきた。ホール
スタッフが皿を下げに来たのかと思って振り返ると、そこに立っていたのは、まさかの
オーナーシェフ、西園寺だった。
「ボナセーラ、誠史君!久しぶり、よく来たね」
「これはこれは、西園寺さん。よくぞこのメニューを覚えておいでで」
「ノン!忘れるわけがない。この私に向かって『拙くて食えない』なんて言ったの、君
くらいだから」
「その節は失礼しました」
「あはは、気にしないね〜。お連れ様も楽しんでいただけた……ん?君、どこかで…」
「あの!西園寺調理師専門学校に通ってます!」
「おお!ブラザーの子ね。そうか、君達いたね。君の友達で、すごくいいセンス持った
子いたけど……」
「美浦の事ですか?!」
「スクーズィ、名前までは……」
「俺の隣で一緒にやって、先生にパスタ提出したのが、美浦です」
「じゃあその子。まだ頑張ってる?」
「は、はい!今日サイオンジガーデンに行くって言ったら、羨ましがってました」
「そう。彼にもよろしくね。誠史君も、またいつでも顔見せにおいで」
「ありがとうございます」
「グラッチェ〜」
西園寺弟は、陽気なイタリア人かぶれのようなしゃべり方をして厨房に帰っていった。





ドルチェとエスプレッソまでしっかり堪能して、綾真達は店を出た。
鼻歌でも出てきそうなほど上機嫌で誠史は愛車のエンジンを掛けると、綾真を促して
乗り込んだ。
綾真は出してもらったワインでほんのりと顔を赤くしていた。座り心地のいいシートに体を
委ねると小さな振動を感じた。
「家まで送るよ。住所どこ?」
そこで、綾真ははっと体を起こす。
「いいよ、楽にしてて」
綾真に聞き出した住所をナビに入れると、誠史は車を走らせ始めた。
「あの…本当に、今日はご馳走様でした」
綾真の見えないところで会計をさらっと済ませていたらしいが、あのメニューを見る限り
結構な値段になっていたのは間違いがないだろう。
「おいしいものを楽しく食べれるのは幸せだよね」
それについては綾真も異論はない。
「ふっ……誠史さん、パスタ食べるの早かったですね」
思い出して綾真が笑うと、誠史は当然といった表情で頷いた。
「うん。好物だから」
「ベーコンとにんにくとか誠史さん好きそう」
「うんうん、ベーコンのペペロンチーノ、好きなんだよね〜」
上機嫌でハンドルを握る誠史の横顔が見えた。大人の顔をしているのに、どこか子ども
みたいに見えるのは、やっぱり偏食児だからなのだろうか。
「ふふっ……」
「何笑ってんの?」
「だって、子どもみたいで」
「失礼だなあ、こう見えても君より15くらい上なんだよ?」
「そうですね……あ、またお店来て下さい、パスタ作りますよ。学校の友人でパスタ名人
―――さっき、西園寺ブラザーに聞かれてた美浦っていう友人なんですけど、この前、そいつ
に旨いパスタのレシピ教えてもらったので、お店来て下さったら作りますよ」
「本当?嬉しいね。あ、でも、ナスとかきのことか混ぜないでね」
「……キノコもですか!?」
「うん。俺、ナスとキノコだけは食えないんだよね」
「だけって!」
この様子だと、まだまだ食べられないものを抱えているはずだ。誠史はハンドルをトントン
と叩いた。
「大好きな子においしいものを作ってもらえるって幸せ〜」
「ん…?」
聞き間違えたのかと思った。何かの冗談?誠史を見上げると、信号で止まった誠史と視線
がぶつかった。
「ああ、言ってなかったっけ?俺、綾真君の事、好きなんだよね」
ニッコリのあとに、ねっとりとした胸の焼けるような微笑を返された。
「ええ?!」
ベーコンが好き、パスタが好き、綾真が好き。全部同じテンションで誠史はとんでもない
事を告白してきた。
そんな重要なことをなんてさらっと言うんだ、この人は。綾真はパクパク口を動かしたが
言葉が続かなかった。

『マンマミーア!!!』

ゲームの男達が頭の中で叫んでいる。
マンマミーア!オーマイゴット!なんてこったい、お母さん!
「だ、だって!俺、男だし!」
「うん。知ってるよ。ちゃんと分かってる。俺も君も男で、普通で考えれば普通じゃない
感覚だってことも。……俺もこんなの初めてだし」
「じゃ、じゃあ……」
「なんでかなあ……胃袋掴まれちゃったから、かな」

『目的地に到着しました』

綾真がパクパクとしている間に家の前にBMWは滑り込んだ。
「あーあ。デートおしまいか。さ、着いたよ」
「デートって!……あ、ありがとうございました……お、おや、おやすみなさい」
ふらふらになりながら綾真が車を降りると、誠史はにこやかに笑って窓から手を振った。
「こちらこそ。またお店行くよ。じゃあ、またね」



BMWは夜の街に静かに消えていった。





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今日のレシピ
オトコ心とツナおろし


材料(2人分)
・パスタ……200グラム
・塩……小さじ2

・ツナ缶……1缶
・大根……5センチ
・海苔……少々
・しょうゆ……少々
・オリーブオイル……小さじ1
・ゆで汁……大さじ4〜5
・バジリコ・シーズニングミックス……大さじ1

作り方
1.パスタはたっぷりのお湯で塩を入れて茹でる。
2.ツナ缶は油をきっておく。
3.大根をおろす。
4.海苔を刻む。
5.バジリコを茹で汁で溶く。
スープパスタにしたい場合は大目のお湯で。
6.パスタが茹で上がったら、フライパンに
オリーブオイルを温め、軽く炒める。
7.5を入れてあわせる。皿に盛り、大根おろし、ツナ、海苔を乗せる。
8.お好みで大根おろしに醤油をかけて召し上がれ。
綾真メモ
ジェノバソースでもいいけど、簡単に作るなら、
市販のシーズニングミックスを使うのがgood!
スープっぽくした方が食べやすいかも!




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