なかったことにしてください  memo  work  clap
知人の愛―動機―



 なんで射精した後ってアホみたいに眠くなるんだろう。
 精子が出ると眠くなるのか、それともただの疲れなのか。・・・・・・いや、この際理由なんて
のはどうでもいいんだ。
 問題はこの状況、このピンチをどうやって切り抜けるか。



 体中を蹴っ飛ばされて目が覚めた。眠い目を擦って顔を上げれば、俺を取り囲んで同室
の奴等がニヤニヤと笑っていた。
「ん・・・?」
「有馬っち、それギャグ?」
笹部はそこに軽蔑の念を込めて俺の肩を軽く蹴ってくる。
 俺はその意味をすぐに知った。俺の右腕がジンジンと痺れていたのだ。
勿論そこにはアツシの幸せそうな寝顔・・・・・・。
あのまま眠ってしまったのだ、俺は。ヤバイ、マズイ、バレる。3語がぐるんぐるんと頭
をかき乱し、慌てて飛び起きたら、これがまた最悪だった。
「ぶはっ、お前アツシのジャージ履いてんじゃねえよ!」
「おわっ」
「最低、有馬っち、不潔」
「あーあー、喰われちゃったのか、お前も・・・」
「や、コレは・・・・違うくて・・・」
昨日、やった後、確かめもせず履いたんだっけ。なんか小さいとは思ってたけど・・・って
これって、もう大ピンチと違う?
 垂れ目が更に垂れ下がって、俺は泣きそうだった。
それなのに、隣の眠り姫ときたら、この騒ぎの中でも、へらへらと力のぬけた顔で「夢の
世界を〜♪」だ。
 クソ、アツシ起きやがれ。
「アーツーシっ!!」
アツシを揺さぶって起こすと、アツシは大きなあくびをしながら、何度か瞬きをした。
「んー・・・まだ寝たい」
「馬鹿、いいから起きろって」
「なぁに・・・?」
アツシを何とか起き上がらせて、周りに囲まれたこの状況を把握させようとしたのだけど、
笹部以下、同室4人に囲まれた俺達2人を見て、アツシはヘラっと笑った。
「・・・・・・どこまでやったと思う?」
4人が顔を合わせる。
「最後までだったら、縁切る」
「先生に報告だな」
「なあ、冗談って言ってくれよ、マジで」
「キモイ」
口々に好き勝手言う4人にアツシはあっけらかんとして、もう一言付け加えた。
「あはは、噂流してよ、同室のツレをギャラリーにエッチしてたって。これくらいやっとけ
ば、信憑性あるでしょ?・・・それとも下半身まっぱで抱き合ってた方がよかったかなあ・・・?」
その言葉に一気に緊張の糸が切れた。
「なんだ、冗談かよ」
「キツイぜ、それ」
「ホントに冗談なんだよな?」
「だってさ、噂流して欲しかったんだもん。ねえ、これだけ状況証拠があれば、今日中には
かなり噂広まるよね?」
「なんだそれ」
「僕にも色々あるんだって」
笹部以外はそれで納得したように離れていった。こいつらが何にも考えないアホでよかった。
俺はアツシの布団から早く抜け出したくて自分の荷物のある方へと逃げようとしていたが、
そこを笹部に捕まった。
 笹部は眉も声もひそめて、俺に耳打ちする。
「・・・・・・有馬っちさ、アツシに踊らされてるだけでもいいのか?」
「なあん?」
「お前、まるっきり当て馬じゃん。有馬じゃなくて当馬に苗字変えたら?」

当て馬・・・・・・。

がーん、とかなってる場合じゃない。確かにそうなんだよな。そんなことは分かってる
けど、改めて人から言われるとショックだ。
 俺とアツシがやろうがやらまいが、噂が流れてヤキモキするのはアイツなんだし。それで
名倉の心が動かされでもしたら、やっぱり笑うのはアツシじゃないか。
 じゃあ、俺にはチャンスがないのかっていうと、そのあたりがよく分からない。好きでも
ないヤツだったら、噂を流すっていうだけで、ホントにやらなくたっていいんだしさ。
 それに、これはアツシのただの言い逃れなだけだ。昨日の夜は、そんなこと考えても
なかったに違いない。アツシ、どんだけ修羅場くぐってんだろうな。
「別にお前の事応援したいわけじゃないけど、お前、報われねえぞ?」
「・・・・・・はは、いいよ、別に」
それに、現に俺はアツシを「美味しくいただいた」わけで、しかも、それは名倉よりも
先に、だ。まだチャンスだって残ってる。
って、あれ。俺何時からアツシにホンキになってたんだろう。やっぱりホンキで手に入れ
たいって思ってるんだよな・・・?
 相変わらずはっきりしない、俺。
女相手だったら、多少の疑問も吹っ飛ばしてとりあえず付き合ってみたりするけど、なんせ
相手は男だし、アツシだし。
 このまま名倉に持ってかれるのは面白くない。だけど、アツシの一番はやっぱり名倉で、
俺は精々二番手なんだろう。アツシは名倉のこと忘れさせるくらいホンキにさせてくれれば
って言うけど、そんなことって、ホントに出来るんだろうか。
 自分が100%ホンキになってもない相手なのに?
・・・・・・アツシ相手に100%でアタックなんてそんな恐ろしいこと、誰がやれるんだよ。
あーあ、やだやだ。なんなの、このグルグルっとした気持ち悪さ。
  アツシと一線越えて初めて迎える朝は、こうして最悪な気持ちで始まった。






 3日目はやっと修学旅行らしい日程で、朝から一日中大阪観光だった。午後には女子が
楽しみにしてたUSJにも行く。
 俺達は、午前中、笹部がどうしても行きたいと言って聞かなかった通天閣に男6人で昇り
そして、そのレトロすぎる時代にショックを受けていた。
「ここは、昭和何年なんだ」
「この土産、埃被ってるぜ」
「思ったより低いなあ、これ」
「あっちの方がにっぽんばしだぜ」
「なんだそれ」
「大阪のアキバ」
6人、ぼけっと通天閣から大阪の街を見下ろして、時間を潰す。昨日、一昨日と、馬鹿みたい
についてきた名倉は今日に限っていない。
 まあ、あんな現場を押さえられてたら、名倉も来づらいだろう。
そういえば、そもそもアツシがあんな行動に出たのはあの隣のクラスの今井って子の所為
なんだろ?
 転入してから1月以上名倉とアツシを観察してたけど、今井なんて全然その影がちらついて
なかったっていうのに、なんでいきなり出てきたんだろう。
 やっぱり修学旅行だから?
修学旅行だからって何をやってもいいとは限らないんだぜ?(それを俺がいえる立場じゃ
ないことは重々承知)アツシと名倉の仲を引っ掻き回して、どういうつもりなんだ。





「えー、だって、あなただってその恩恵をちゃっかり受けてたでしょ、有馬君?」
今井は俺の前で身体をくねらせて笑った。
 午後になって、強制的にUSJに集められた俺達は、ココから4時間、この閉鎖空間に閉じ
込められる。
 俺は、遊園地とかこういうテーマパークとか興味ないんだよ。
そう思って、他の連中とは別れて、入り口近くのベンチでだらだらして時間を潰していた。
そこに、今井が現れたのだ。
「修学旅行だからって、サカッてちゃダメよ」
いきなりそう声をかけられて、閉じていた目を開けると、胸元を大きく開けた今井が俺を
覗き込んでいた。
「・・・・・・何?」
「えー、もう噂になってるよ、有馬君でしょ?天野君のこと無理矢理襲っちゃったの」
「どんな噂だよ!」
ぐわっと頭を抱えて、唸ると、今井は隣に座って追い討ちをかけた。
「同じ部屋の子に見せ付けてたんだって?」
あいつら・・・。
「あんたは、その噂信じるのか?」
「どうかな。信じてもいいけど、アタシが信じても意味が無いから」
「は?」
「噂が流れて嬉しいのは、誰なのかしら」
「・・・・・・」
「かなり際どいけど、有馬君だって、美味しい思いしてるでんしょ?」
「はい?」
今井は俺を振り返って、狡賢そうな笑みを浮かべた。雌豹みたいだ。深く開いた胸の谷間が
俺の前でチラついて、目のやり場に困る。
 誘ってんのか、こいつ、って一瞬でも勘違いしそうになる自分。男って即物・・・。
「ねえ、どうせなら、そのままくっついちゃってよ、あの子と」
「はあ?」
「噂が嘘でも本当でも構わないから。そうしてくれると、すごくやりやすいのよね」
「そんで、あんたは名倉とくっつくって?」
「噂で傷ついたところを、慰めてあげるって作戦どうかな?」
「あれは、アツシが名倉にヤキモチ妬かせる為に流した噂だろ」
「でも、それって紙一重だと思わない?あまりにもやり過ぎだわ。この噂で名倉先生の心
に火がついて、慌てて動き出すってありえる?それよりも有馬君の手に落ちたって思って
諦めるんじゃない、普通」
・・・・・・やり過ぎというか、アツシの場合、あの場から逃げるために咄嗟に作った作戦で
あって、昨日の夜俺に襲い掛かってきたときになんて、絶対そんなこと考えてなかったと
思う・・・多分。
「あんた、そこまでして、名倉のこと手に入れたいのか?」
「うん」
「あいつのどこがいいんだか、俺にはさっぱりわからん」
投げ捨てるように言うと、今井も苦笑いしてそれを返した。


「・・・・・・アタシだってわかんないわよ」
「は?」
「名倉のどこがいいのかなんて、さーっぱりわかんない。遠くから見ててもよさが分から
ないから、近づいてみたけど、それでも全然わかんないんだもん。天野君の趣味、おかしい
んじゃないの?」
「今井さん?!」
今井は、そこで表情をぐっと引き締めて、俺を見返す。握った拳にも力が入っている。


「アタシ、許せないのよね。天野君が」
「どういう・・・・・・」
「有馬君ってさ、2学期になって転入してきたんでしょ?だったら、噂知らない?」
「噂・・・・・・」
「そう、噂。アタシと天野君の噂」
「って、もしかして、今井サンが狙ってる男がアツシとホテルから出てきたとかいう・・・」
「なんだ、知ってんの」
「2日前に聞いた」
今井は太陽で茶色に光る髪を掻き揚げる。うなじから僅かに甘い匂いがした。
「ホント、失礼な子だと思わない?自分はホモでもなんでも構わないだろうけど、相手まで
同じ色に染めるなってーの。おまけに、その後で天野君にポイ捨てされたなんて話でしょ?
他の子はチャンスだって言うけど、あんなホモの捨てた男をなんでアタシが拾わなきゃなら
ないのよ。ジョーダンじゃないわ」
笹部の言葉が蘇ってくる。ホモの後釜なんて女としてプライドが許さないというのは、本当
だったらしい。女って、怖ええ・・・・・・。



 って、あれ、まてよ。じゃあ、今回の事って・・・・・・。
 目を見開いて彼女を見ると、今井はうんと頷いた。
「許せないって言ったでしょ?」
「それって・・・・・・」
「そうよ、天野君と同じことしてやろうと思ってるのよ」
「ただの噂だろ?」
「そうよ!でも、それが嘘でもホントでも、噂で流れたってだけで十分なのよ!」
復讐でも考えてるってことか。そんなに根に持ってたのか、あの噂に。
「今度はアタシが名倉を落としてポイしてやるんだから」
途端に、背中の血がさあっと引く気がした。なんだ、この女は。
「だから、お願い。アタシが名倉を落とすの手伝ってよ」
「何言ってんだよ・・・」
「有馬君だって、それでいい思い出来るのよ?手、組んでくれたっていいじゃないの」
俺は名倉とは敵対関係にあるのかもしれないけど、そんなんでアツシを傷つけて、手に
入れたいなんて、思わないぜ?!
 今井の白い肌が急激にムカついてきた。
「俺はお前等のゲームに踊らされるのはゴメンだ」
「いいじゃない、それで天野君を手に入れられるのよ」
「そんなんで、手に入れたくもないし、そもそも、俺はそんなつもりは・・・・・・」
なかった・・・のに。
「ないっていうの?希望が見えたら、欲が出ちゃったんでしょ?」
確かにその通りだ。初恋は初恋で認識した時点で失恋になっていた。なのに、目の前でチラ
つく影が、どうしても追ってしまう。
 名倉とくっつくとかくっつかないとか、そんなことの前に、俺が手に入れたかった。
だけど、こんな風に人を騙してまで、手に入れていいものなのか。
「誰かが笑えば、誰かは泣くのよ。それが世の中のセオリーでしょ」
彼女はそうやって誰かの屍を越えて強くなってきたんだろう。アツシと名倉がくっつけば、
俺はやっぱり辛いと思う。だけど・・・・・・
「なんで、そこまでやるんだよ。もう終わったことだろ?」
「そうよ、終わったことよ!だけど、許せないんだもん。アタシのプライド、ズタボロよ。
女でもないくせに、男誘惑してさ」
「あんただって、同じ様なことしてるだろ」
「アタシはいいの!女だから。だけど、天野君は男でしょ?男のくせに、女みたいな艶々
の肌しちゃってさ。顔だってあんなに小さくて可愛くて」
褒めてるのか?認めてるのに、腹が立つのか。
「ああ、同属嫌悪」
「そうかも、ね。女だったら、堂々と戦えたかもしれないのに・・・。あの子が女だったら、
こんな事しなかったわよ。元カノ気にするほど柔じゃないし」
今井の顔が曇る。悔しさと寂しさが入り混じってるみたいな顔。
 狙っていた男がホモの餌食なんて、やっぱりかっこ悪いのか。そんな小さなプライドで
諦めるくらいの男の為に、こんなハイリスクな復讐までやるって、女って怖い。

 あれ、でも待てよ。そうじゃないのか。
「あんた真逆、まだその男の事・・・・・・」
そこまで、言うと、今井はキッと睨んで立ち上がった。
「終わった事だって言ってるでしょ!」
なんだ、やっぱり好きなんじゃないのか。
「とにかくっ!アタシは名倉を落とすんだから、邪魔しないでよ!」
今井はそれだけ言うと、駆け出していった。



その捨て台詞、俺にどうしろって言うんだ。・・・・・・参ったなあ。俺の立場って一体何。
そんな思惑聞いてしまえば、右にも左にも動けないんですが。
さて、どうしようか・・・・・・。





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【天野家国語便覧】
知人の愛(ゆうくん 作)
友の為の自己犠牲と、自分の欲の狭間で葛藤する未熟な男の飛び出せ青春キラリン小説。
瑞々しいその感性の間で揺れる小さな恋心。そのはっきりしない気持ちに読者も作者も
思わず「どないやねん」と突っ込みをいれること間違いなし。



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レス不要



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