なかったことにしてください  memo  work  clap
天 球 座 標 系



 真っ赤に燃え上がった日が、その姿を消していく。
今や、僅か数メートル先の春樹の顔ですら、要からははっきりと表情まで見ることが出来なくなって
いた。宇宙は流した涙を手でふき取ると、震える声を抑えて言った。
「こんなこと、ずっと怖くて言えなかった」
自分でも制御できない思いと、粕谷から受ける仕打ち。逃げ出した理由は当然後者だと思われる。宇宙は
そう思わせておくつもりだったのだろう。
 怖くて言えないというよりも、自分の秘めた思いを知られるのが苦しかったのではないのだろうか。
要は閉じていた目をしっかりと開いて、宇宙を見る。
「それで、宇宙は自分の気持ち、確かめられた?」
 宇宙は、欠けていた何かを粕谷の中に見たのだという。そして、それが自分の「兄」だからだと理由を
つけて同じものを要にも求めた。
 自分の喪失感を埋めてくれる存在は何なのか。何故、それは粕谷だったのか。
宇宙は一瞬、眉に皺を寄せて、悲しい顔をする。
「兄ちゃん、ごめんなさい」
そうして、ふるふると首を横に振って、宇宙は俯いた。
 要は、ふと、宇宙の言う「兄ちゃん」が自分自身に向けられた言葉ではないように思えた。自分を通り
越して、隣で宇宙の告白を呆然と聞いている粕谷のに目が行く。
 もしかしたらそれは両者に向けて発せられた言葉なのかもしれないと要は思った。
 ひょっとして、宇宙は答えなど、初めから分かっていたのではないだろうか。ただ自分が認めるのが
怖くて、その気持ちに理由をつけて逃げていただけではないだろうか。
 血が繋がった兄だから、星夜の代わりだから、そう言って納得する一方で、別の思いもあったのでは
ないのだろうか。
「分かったんだね、自分の気持ちが」
俯いていた宇宙の涙がぼたぼたと地面を濡らす。
 そうして宇宙には分かってしまった。要にそれを求めても、喪失感は埋まらないことを。船田にナイフを
突きつけられた粕谷を見た瞬間、宇宙の体中の血がざわめいた。自分がこんなにも粕谷にとらわれて
しまうのは、「兄」という血の繋がりなどではない。粕谷の代わりなどいない。宇宙は粕谷徹という人間
そのものに惹かれていたのだと、はっきりと気づいたのだ。
 宇宙の謝罪はそういう意味なのだと要は思う。
 そして、そのことは要にも十分理解できた。宇宙がここにやってきた時から、自分にはそんな強烈に何かを
求められている気はしなかったのだ。
 だが、理解できると共に、自分の背負ってきた宇宙への気持ちが淋しさをもたらす。
 自分では何もしてやれないと、宇宙の助けにはなれなかったことへの淋しさに傷ついてしまう。しかし
それは自分の勝手な気持ちだ。それこそ、血の繋がりが救いになることもいつかはあるはずだ。宇宙が自分
に何も求めなくても、自分は宇宙の幸せを願おうと、兄として最大限の努力はしようとその謝罪を受け入れる。
 要は立ち上がって、宇宙の隣に並んだ。頭の上に手を置き、優しく撫でる。自分と同じ髪質。骨格も目の
釣りあがり具合も全て母親譲りだ。自分と同じ血が流れている。母の血。優しかった母と、最期の狂気。
そのどちらもが自分にも宇宙にも流れている。
 そのことが苦しくて、申し訳なくて、逃げ出したくて仕方なかった。そうして宇宙もまた自分に流れる血
から逃げ出してきた。
 宇宙は要の顔を見上げると、目を瞬かせた。溜まった雫が頬を伝う。
「勝手に家出して迷惑かけて、ごめんなさい・・・」
勿論、要は宇宙を責める気も詰る気もない。突然現れて気持ちが激しく動揺したのは確かだが、13歳という
幼い少年がこんなにも傷つき、悩み、それでも何とか出口を探そうともがいている姿を見れば、自然と
自分の気持ちは小さくなっていく。
「家、帰ろう」
自分には、もう何も言うことはない。宇宙が自分の気持ちにどう決着を付けるのか見守るほかない。
 宇宙が頷く。そうして、要は粕谷にも振り返って同じことを言った。
「君も。一度ウチにおいで。ちゃんと傷の手当してあげるから」
要の言葉に返事は返って来ない。粕谷の表情は読み取れなかった。

 要は宇宙から離れると、春樹達の方へと歩みを進めた。
「進藤?」
「何」
「そっちはどう?」
春樹は船田を気にしながらも、要たちのやり取りを一部始終見ていた。3人とも決着の付かない気持ちに
もがいて、必死で自分の居場所を探しているようだ。
 居場所。自分が自分であるための証。誰もがそれを求めている。それは宇宙や粕谷だけでなく、船田や
赤平にも、そして春樹にも繋がっている。
 暴走する思いはそれぞれ違った形で姿を現しているが、足掻いている思いは誰も同じに思えた。
春樹は顔を上げて、要を探す。つい先程まで赤く染まっていたはずの空も今は全てが暗闇の中に消えて
要の姿も、薄ぼんやりとしか確認できない。
「打ち所悪かったのかな。息はしてるけど、気失ったまま・・・みたい。暗くてよく分からない」
「とりあえず、下、降りようか」
「そうだな」
春樹は要に手伝ってもらい、船田を背負った。ぐったりとした身体を後ろから、要が支え、休みながらも
何とか階段を下りる。
 踊り場で何度か交代して、やっとのことで1階にたどり着いたときには、2人ともぐったりとしていた。
休憩所のベンチに船田を横たえると、春樹は自動販売機で温かいコーヒーを買う。
「お前らもコーヒーでよかった?」
「あ、はい」
「・・・」
2人は春樹から缶を受け取ると、隣の長いすに腰を下ろす。春樹は要にもコーヒーを手渡すと、船田を見
下ろした。
「どうしよう・・・」
「1人にしておくのはまずいよね」
一時の興奮は醒めたかもしれないが、いつ船田がまた自殺を考えるかわからない。春樹達が顔を見合わせて
いると、廊下の奥から駆け寄ってくる足音がした。
 見れば、それは暁だった。
「進藤君!船田君見つかった?」
暁は少し息を上げて近寄ってくる。春樹達が船田を追った後、暁も船田を探していたらしい。暁はベンチ
に横たわる船田を発見すると顔を強張らせた。
「船田君?!」
「・・・ちょっと打ち所が悪くて。多分、気を失ってるだけだと思います」
春樹は迷ったが、暁に船田の自殺未遂の話をした。暁を完全に信用しているわけではない。しかも船田は
誰かを庇っている。
 その誰かが暁の可能性もないわけではない。だが、春樹は暁に船田の苦悩を話した。もし、暁が犯人
ならば、それで良心に訴えかけるつもりだった。
 暁は静かにその話を聞いていた。
「・・・船田先輩は、犯人じゃないと思います。誰かを庇って、犯人の罪を被って死のうとしてたんです・・・」
春樹が話終えると、暁は呆然としたまま呟いた。
「なんで、そんなことを・・・」
「そんなの、俺たちの方が知りたいくらいですよ」
春樹の口から息が漏れる。途方に暮れてしまうのは春樹達だって同じだ。
「そうだよね・・・で、船田君これからどうするの?」
「どうしようかと困ってたとこです。1人にするのは危険だし、連れて帰ろうかと思ってたんですけど」
その言葉に暁が目を閉じる。そして2,3拍考えるように黙り込むと、その目を開いて春樹に言った。
「うちに連れてってもいいかな」
「暁さんのところにですか?!」
「そう。気が付いたら、謝りたいし」
春樹は要を窺った。要はそれを受けて、頷く。
「分かりました。じゃあ、暁さんのうちまで運びますよ」

 結局、春樹たちは暁のアパートまで船田を背負っていった。宇宙と粕谷も大人しくそれについてくる。
暁のアパートは要のアパートのすぐ近くだった。
 3人で交代して船田を背負い、休憩を挟みながら辿りつく。
 要は宇宙達を弟としか紹介しなかったが、暁はそれ以上突っ込んで聞いてこなかった。
暁のアパートで船田を寝かせ、早々に部屋を後にしたが、辺りはすっかり真っ暗になっていた。
今日一日で随分と大きな展開があった。それだけではない。春樹は自分達の後ろを歩く宇宙と粕谷を思う。
彼らの出現でどれだけ要の心が揺れていたか。
 それを乗り越えようとする要の心が、春樹には痛いほど伝わってくる。要の罪ではない。春樹はただ
そうやって支えることしか出来ないが、それで要が癒されるのならば、春樹は幾らでも言ってやるつもりだ。
 厳しい夜の風が春樹のコートをすり抜けていく。吐き出す息は白く、鼻の先は赤くなっているだろう。
見上げれば、冬の星たちが既に姿を現し始めていた。
 オリオン座は夜の空を統べるかのようにその姿をはっきりと見せ付けている。天球中もっとも輝くシリウス
を有するおおいぬ座、そしてこいぬ座のプロキオンと併せて冬の大三角は眩しいほどその存在を主張していた。
 隣から要の声がする。要も空を見上げていたようだ。
「そういえば、ふたご座にも、神話があったな」
「ふたご座?・・・どれ?」
その声に反応して、宇宙も星を見上げた。要が指を差す。オリオン座よりも東に二つの輝く星がある。
ふたご座のポルックスとカストルである。二つ並ぶ姿は、正にふたご星といった感じで、日本でも兄弟星と
呼ぶ地域もあると春樹は要に教えてもらったことがある。
「左側がポクックスで右側がカストル。2人の名前がそのまま星の名前になったんだ」
ポルックス、カストル、宇宙は二つの星の名を呟いた。
「・・・どんな神話があるの?」
要は一度だけ振り返って宇宙と粕谷の様子を窺うって、空を見上げた。
「ポルックスとカストルは白鳥に化けたゼウスとレダの子どもだっていわれててね、白鳥に化けたゼウス
の姿が夏に見かけるはくちょう座だって説もあるんだ」
「はくちょう座・・・」
春樹は思わず反応してしまう。はくちょう座の思い出は他のどの星座よりも深い。要と話すきっかけに
なったのも、再会して思いを繋いだのも、暑い夏の日だった。
 要はそんな春樹の姿を見て苦笑いを浮かべる。
「双子はとても仲良しで、何をするにも一緒だった。カストルは乗馬、ポルックスは、確か剣とボクシング
だったかが得意だって話。それで、大きな戦いがあると、2人とも進んで参加し、それで勝利してきた。
2人とも強かったんだね」
宇宙と星夜も仲がよかった。宇宙はもう覚えてないだろうが、要ははっきりと覚えている。学校から帰る
と、決まって二人とも要に駆け寄っては抱っこをねだり、何をするにも要の後を追って、その姿に母は
笑っていた。
「だけどポルックスとカストルは一つだけ大きな違いがあった。ポルックスは神の血を受け継いで不死身
だったんだけど、カストルは人間だった。だから、カストルはあるとき、戦死してしまうんだ」
「死んだの・・・?」
「そう。矢を受けてね。ポルックスはその仇を討つんだけど、カストルは生き返ることはなかった」
宇宙の声が曇る。思うのは幼い頃に亡くしたもう一人の自分。思い出も殆どないのに、亡霊のように自分
の周りにまとわりついて、常に喪失感を感じさせた存在。双子の片割れがいなくなる悲劇は宇宙には痛い
ほどよく分かった。ポルックスもまた、大いに嘆いたといわれる。
「カストルの死を嘆いたポルックスをゼウスは哀れに思い、カストルを天に上げて神にしようとしたん
だけど、ポルックスは2人一緒じゃなければ嫌だって拒んで、ポルックスも一緒に星になった。・・・ふたご座
にはそんな話があるんだよ」
「また一緒になれたんだね」
「そうだね」
要は立ち止まり、そして宇宙を振り返った。空から降ってくる星の光が要を照らす。春樹はそれが何故だか
神秘的に見えて、ドキドキしてしまった。
「・・・だけど、僕はまだ宇宙を行かせないよ、星夜のところには」
「兄ちゃん・・・?」
要は粕谷の困惑したままの顔を視界の隅に入れながら、宇宙に初めて自分の思いを告げた。
「星夜を助けられなくて、ごめん。ずっとそればかりが頭から離れなかった。あんなに仲良く一緒にいた
星夜を宇宙から失わせる結果になって、何で助けられなかったんだろうって後悔してた。・・・でも、その
うち宇宙だけを助けた自分が嫌になってた。どうせなら、全部なくなってしまえばよかったって・・・。でも
それって辛いことから目を逸らしたかっただけなんだよね」
自分も連れて行ってくれたらよかったのに、要が春樹に洩らした本音。春樹の一言で要がどれだけ救われ
ているのか、春樹は気づいてない。
「僕は、宇宙を助けたことも、僕が生き残ったことも後悔したくない。生きて、辛いこともあるけど、
僕達はここで生きてる。大切な人と一緒に、その人の隣で笑ってたいから。そこにこそ、自分の居場所
はあるんじゃないのかな」
もういなくなった人を追いかけてはいけない。目の前の人間と対峙しろと、要は宇宙に伝える。宇宙は
兄の瞳を見つめ返す。想いは届いたはずだ。
「兄ちゃん・・・少しだけでいいから、徹先輩と2人きりで話がしたい」
「うん」
「僕も、もう逃げたくないんだ」
宇宙は粕谷を見る。その真っ直ぐな瞳に粕谷は目を逸らすことができなかった。
「・・・」
「徹先輩の走る姿に憧れて、それから、弟のようによくしてもらって、今まで生きてきた中で、一番楽しい
って思う時間だった」
「楠木・・・」
「・・・できるなら、取り戻したい」

 春樹達は、要の部屋で粕谷の手当てをした後、宇宙と粕谷を残して、春樹のアパートに向かった。
「粕谷、すっかり大人しくなっちゃったな」
「・・・宇宙の告白が効いたんじゃない?」
粕谷は要が傷の手当をしているときも、部屋を出るときも殆ど無言で、俯いていた。
「あの子達も、これからが辛いんだろうけど・・・」
それでも、そう呟いた要の顔は、今までよりも穏やかに見えた。宇宙の告白で要自身、何か吹っ切れた
ようだ。辛さや痛みを乗り越えた瞬間を見たと春樹は思った。
「・・・ああ、でも、結局こっちの方は振り出しに戻ったな」
春樹はコートのポケットに突っ込んだ手を出して、天に向かって、一つ大きな伸びをする。暖めていた手
が夜風に晒されて急激に冷えていく。
 要は春樹の下ろした手を繋ぐと、自分のコートのポケットに一緒に突っ込んだ。驚く春樹に、要はニコリ
と笑う。
「そうでもないんじゃない?」
「?」
「だって、少なくとも船田先輩は犯人じゃない。進藤のつけた印から1人消えたんでしょ?振り出しなんか
じゃないよ」
確かにそういわれれば、犯人候補から1人消えたのだ。振り出しではないだろう。だが、春樹は船田に肩
透かしを喰らってしまったのだ。疲れることばかりあって収穫など何もなかったように思う。
「それにヒント・・・っていうか、問題も見えてきたしね」
「問題?」
「そう、問題」
要はポケットの中の手に力を込める。冷たい春樹の手に要の体温が流れていく。
「問題なのは二つ。船田先輩が誰かを庇っている理由。それから、どうして犯人はヒ素なんて足のつき
そうなモノを使ったのか」
「ヒ素・・・」
うん、と要は頷いた。
「ずっと考えてたんだ。何でヒ素なんて使ったんだろうって。でも、さっきの船田先輩の話聞いて、犯人
は、それがヒ素であることなんて、どうでもよかったんじゃないのかって思った。・・・いや、どうでもいい
んじゃない。犯人は、ヒ素ってことを知らなかったのかも・・・」
「どういうことだよ」
「例えばだけど・・・誰かに『人が殺せる粉』を貰ったたりしたら、進藤、どうする?」
試すことも出来ず、かといって捨てることも出来ない。そんなときに、恨んでいた相手が目の前に現れた
ら、思わず使ってしまってもおかしくはないだろう。
「船田先輩は確かに赤平先輩を恨んでいた。だけど、他にも赤平先輩を恨んでいる人間がいて、船田先輩
はそれを利用したんじゃないのかなって考えたんだ」
赤平を恨んでいる人間にヒ素を送りつけて、その人間に赤平を殺させる。結果的に船田は犯人ではなく
なるが、罪の意識は芽生えるかもしれない。そう思えば船田の行動も多少納得ができる。
 船田は自分が手を下さなかっただけで、自分が赤平を殺した気分は十分味わっているのかもしれない。
「だから、あんな風に自分を追い詰めながらも、進藤にメッセージを送って、どこかで助けを求めてた
んじゃないのかなあ・・・」
「じゃあ、犯人はやっぱりあのメッセージの意味を説くしかないのかな」
「そうだね」
居場所が欲しければ、天球に閉じ込められればいい
 あのメッセージが春樹の中で蘇る。居場所を求めていた人間。そして座標系の変換。要の指摘が正し
ければ、船田はそれに、見方を変えるという意味を込めた。同一の星でも見方を変えれば、繋がり方が
変わる。人の思いも覗いてみれば全然違った姿を現す。
 丁度、宇宙が粕谷を想っていたように。
「え?・・・あれ?」
どくん、と春樹の中で脈打つ。
「どうしたの?」
春樹が立ち止まった所為で、要のコートの中で繋がれていた手が、要の足までも立ち止まらせる。
 宇宙の想い。そこにあったのは憎しみではなく憧れ。愛情。憎んでいると思っていた人間は、実は惹かれ
ていた。春樹達に見えなかっただけで。
その所為で、逃げた理由を自分達は全く逆に考えてしまった。
全く逆の感情。
 例えば、赤平を憎んでいた人間ではなく、赤平を愛していた人間。
「じゃあ、愛し合ってると思っている人も、実は憎んでいるとしたら・・・」
嫌な汗がじんわりと身体全体に浮かび上がる。そこに辿りつくには、あまりにも非現実過ぎる。けれど、
目の醒めるような、宇宙の告白を春樹達は見てしまった。あってほしくないと、要が握った手を、春樹は
強く握り返す。

 春樹たちはアパートの前で止まった。ドアを開けようとして、玄関に一枚の紙が挟んであることに気づく。
それは暗闇の中で白く浮かんでいた。
「なんだろう・・・」
春樹が呟くと、隣で要も首を傾げた。
「開けてみたら?」
「うん」
開いてみると、それは船田の作ったWEBページが印刷してあった。メッセージと公式、そして花の写真。しかし
その紙には続きがあった。
「板橋からだ・・・」
板橋の字でこう綴られていた。
『進藤へ。
気になったからこの植物の名前調べてみた。webの写真が花が咲いてるヤツだったから、花の写真ばかり
探して、なかなか見つけられなかったけど、本来、これは葉っぱを楽しむ植物らしい。参考までに。
板橋』
 その下には、葉っぱのみの同じ植物と思われる写真がもう一つ印刷してあった。植物を紹介している
どこかのwebページを印刷したらしい。そこにはその植物の説明が細かく載っていた。
「artemisia・・・アルテミシア?」
春樹は声に出してみる。聞いたことない名前だ。説明は続いていた。春樹はそれを目で追う。そしてある
一文で春樹は血の気がすっと引いた。
「和名、アサギリソウ」
瞬間春樹は要と顔を見合わせる。
 バラバラのピースが組み合わさっていく。居場所を求めた人間、天球に閉じ込めた犯人、座標系の変換は
見方を変えること。
 恐怖で粕谷から逃げ出したと思っていた宇宙は、実はその粕谷に惹かれていた。見た目とは違う裏の
感情がそこにはあった。
 憎んでいると思っていた人間が、実は愛していた。
では、その逆もあるのではないか?愛していたはずの人間が、実は憎しみに駆られて、赤平を殺めて
しまったのだとしたら。座標系を変換する、見方を変える。
 はやり、春樹の嵌めたピースはそこに納まるしかなかった。
 犯人は赤平を憎んでいた人間ではなく、赤平を愛していたはずの人間。それはただ1人だけいたはずだ。
ごくりと唾を飲み込むと、春樹は要を見つめたまま呟いた。
「赤平先輩を殺したのは、朝霧さんっていうのかよ・・・」







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