なかったことにしてください  memo  work  clap
放課後ホケカン倶楽部
別に、新しい出会いに期待してたわけじゃ・・・




「ああっ・・・んっ・・・」
「ふっ、はぁっ・・・・・・」
力を入れた瞬間、ぎゅうっとしまるソコに俺はひたすら敏感になって、腰を振った。
「はぁっ、やべえって・・・せんせ・・・ちょう、気持ちイイ」
「いいから、もっと!」
「すげえね。エロいっ・・・うう」
俺は「先生」の足を持ち上げて、肩に担ぐと更に密着して腰を当てる。出たり入ったりする
たび、卑猥な音がぴちゃぴちゃと響いて、それの正体を凝視しようとして顔を引っ張られた。
「だめ、そんなとこ見ちゃ・・・」
甘い声に呼ばれて、思いっきりキスをせがまれる。俺はそれに答えるように、テロテロと
舌を出して応戦した。
「あぁ・・・いい・・・」
恍惚の表情を浮かべて「先生」が俺を見上げた。俺は結合した部分に手を伸ばすと、その
近くにある「あるべきはずのないもの」に手を掛けて、思いっきり扱き始めていた。
「ああっ・・・もう、だめ・・・いっちゃう・・・」
「いいよ、せんせ、俺も、一緒に・・・」
俺の手は自分でもびっくりするほど器用に動いて、自分の腰のリズムに合わせて強弱を
つけた。それから昇り詰めていく感覚がやってくると、後はその快楽に全てをゆだねて、
目を閉じた。





「ああっ―――!!」
目が覚めた瞬間、海老原 煌成(えびはら こうせい)は身体がすうっと冷えていくのを
はっきりと感じた。
 心拍数は上がりっぱなしだが、下半身に感じる冷たさと見覚えのある匂いが鼻を突く。
「・・・・・・」
慌てて起き上がると、煌成はパジャマの中を覗いた。
「・・・・・・俺、今、海老原家一かっこわるい男・・・・・・」
がっかりしながら、枕元のティッシュに手を伸ばすと、既に乾き始めている下着をとりあえず
擦ってみた。
 高校2年になって夢精なんて・・・と煌成は自分の下着を見詰めながら情けなくなる。
「俺、溜ってるのか?」
最後にしたのはいつだったか。考えてそう遠くないことを思い出す。
「じゃあ、なんだったんだ・・・・・・って、あれ?!」
煌成は夢を反芻して、何かがおかしいことに気づいた。
「大体、『先生』って誰だよ・・・・・・」
相手の顔はぼんやりとしてもう思い出せなくなっている。けれど、その行為はリアルに
身体の中に残っていて、握っていた右手の掌の生暖かさすら張り付いている気がした。
「って、待て」
握っていたもの。
「俺が相手にしてたのって・・・・・・」
間違っていなければ、夢の中で自分が下敷きにしていた相手は男だ。
「ぎゃあああああ〜〜〜〜!!!」
ありえない。生まれて16年とちょっとだが一ミリとも男に欲情などしたことない。
なのになんで・・・!なんでなんだ!!
「うわあああ!!」
朝から自室のベッドの上で暴れまくっている煌成に母親の怒鳴り声が階段下から響いた。
「煌成うるさい!起きてるなら早くしなさい!今日から学校なんでしょ、遅れるわよ!!」
「わかってる!!」
煌成はパジャマと一緒に匂いつきのパンツを布団の中に隠し、慌てて部屋を出た。





 高校二年の初日をこんな気分で迎えることになろうとは。煌成は情けないような、それで
いて、あの夢の気持ちよさをむず痒く感じた。
「一回分の精子、損した」
別に大切に取ってあるわけでもないし、若い自分には吐いて捨てるほどあるものだから
損どころか、気持ちいい思いしてラッキーくらいに思えばいいのだが、いかんせん夢の中
の相手が悪い。解せない思いを背負ったまま、煌成は通いなれた道をとぼとぼと歩いた。
 新学期初日は、浮き足立っていた。昇降口前には大量の生徒がもみくちゃになりながら
新しいクラスの名簿を見て、喜んだり文句をつけたりしている。
 煌成は生徒の波を潜り抜けて新しいクラスの下駄箱に靴を突っ込んだ。
今更クラス替えに何を期待するか。新クラス名簿は一昨日のうちから張り出されていた
らしく、部活に出ている友人から既に新しいクラスもクラスメイトも教えてもらっていた。
 煌成は新しいクラスに一歩踏み込むと、見知った顔を捜した。
「うっす、煌成こっち!」
「・・・はよ」
1年の時からの親しい友人―袴田の顔を見つけると、煌成は袴田の席の後ろに座った。
「席、適当?」
「担任が来たら、名簿順とか言うだろ」
「担任か〜。どうせ、青木ちゃんあたりだよな」
理系クラスの担任なんて、選択肢はあってないようなものだ。
「まあな。・・・てか、煌成、顔疲れてる。体調ヤバイ?」
煌成は見た目はがっしりしているが、虚弱体質だ。胃腸は弱いし、親しいクラスメイトが
風邪を引けば必ず貰ってしまうし、オマケにその風邪は誰よりも長引く。
 その風邪を拗らせて、気管支炎やら肺炎になって入院までなったことすらある。
「いや、体調は多分普通・・・だと思うけど」
「ふうん、ならいいけど。ところで一昨日言ってた新しい保健の先生のことだけどさー」
「!」
袴田に言われて、煌成ははっとした。
『新しく来る保健の先生が、美人で若くてチョースタイルいい女だったら、毎日保健室
通っちゃう』
という高校生男子の夢とロマンを詰め込んだようなことを言っていたのだ。
 あの夢の原因はそれを寝る前に思い出した所為だ。
「何?煌成、もう会ったの?」
「お、お前が〜〜!!」
「俺が何」
「・・・・・・いや、別に・・・」
夢に見た『先生』が保健の先生とは限らないし、第一夢の中の『先生』が男だったのは
袴田の所為じゃない。
 それこそ誰にも分からない不可解なことだ。
 煌成は新しく来る保健の先生で夢精したなどと恥ずかしくて言えるはずもなく、誤魔化す
ように首を振った。
「で、新しい先生がなんだって?」
「どうもさ、今までのオバチャン、辞めないでいるらしいんだよな」
「は?じゃあ新しい先生来ないの?」
「いや、今年から2人体制になるらしいぜ」
「ふうん?」
「ふうん、じゃねえよ。あのオバチャンが保健室にいたら、新しい美人先生と楽しいコト
出来ないじゃん」
最悪だぜ、と袴田は頭をガシガシと掻いて嘆いた。
「まて、袴田。新しく来る先生が美人だと決まったわけじゃない」
「いや、保健の先生は若くて美人と相場が決まってる!」
豪語する袴田に煌成は肩を竦めた。
「じゃあ、うちにいるあのオバチャンはなんだよ」
「あれは保健の先生の振りをしたオバチャンだ」
「なんだそれ」
「今までこの学校には、本物の保健の先生がいなかったんだよ。だから新しく来るんだ」
持論を展開する袴田を尻目に煌成はクラスにいる僅かな女子を眺めた。
 そんな夢やロマンを追いかけるより、現実だ。同学年の女子だって捨てたもんじゃないし
まだ見ぬ先生に期待するより、確実にやれる子を見つける方が煌成に取って大事だった。
 最後に女の子とイイコトしたのは2ヶ月前だ。夢精なんてするほど溜ってたわけじゃない
とは思いたいけど、これ以上袴田の言葉に揺さぶられて夢精なんて続けたら、堪ったもん
じゃない。さっさと手近な子を捕まえて、やってしまいたい。
 高校生の単純な発想で煌成は、周りの女の子を物色し始めていた。





 始業式の後、引き続き行われた新任式で、体育館にいた生徒たちは一斉にざわついた。
舞台に上がった新任の国語教師、数学教師の挨拶が終わったところで、肝心の保健医が
見当たらないのだ。
 ざわつく生徒達を一喝し、教頭が口を挟んだ。
「えー、養護の先生が新しく着任することになってますが、本日は所用のため新任式には
出席できませんでした。お名前は、緑川伊純(みどりかわ いずみ)先生。27歳の優しい
先生です。今年から養護の先生は二人体制となりますので・・・・・・」
教頭の言葉の途中で後ろにいた袴田に煌成は足を蹴られた。
「痛てっ・・・なんだよ」
「いずみ先生だって!可憐な名前じゃん。27歳、大人の魅力ってヤツ?」
「アホ、顔見てから妄想しろ」
煌成は既に保健の先生などどうでもよくなっていた。早く女の子とやって、あの夢精を
忘れてしまいたい。邪なことを考えてるのはどっちもどっちだった。





 始業式が終わると、後はホームルームでその日は解散になった。やってきた担任は煌成
の予想通り、物理の青木で、代わり映えしない教師陣にまあそんなもんだと煌成は適当に
頷いた。
「煌成、帰るん?」
煌成が鞄を持って席を立ったところで、弁当箱を開いていた袴田が振り返った。結局席は
多くの生徒に押し切られて、そのままになってしまったのだ。
「おうよ。だって俺、帰宅部だし。袴田は?」
「部活に決まってんだろ。熾烈なメンバー争いはもう始まってんだよ」
「大変だなあ、サッカー部は」
「レギュラーと補欠じゃ、雲泥の差だからな」
「待遇が?」
「いや、女の子へのアピール力」
「あ、そ」
「重要だろ」
弁当を掻き込みながら、袴田は箸で煌成を指した。
「まあな。それよりもさ、袴田、真桜(まお)が何組になったか知らない?」
「あ?真桜ちゃん?お前の元カノの」
「・・・・・・って言うと半殺しに遭うよ」
「あー、はいはい。・・・・・・ってか、俺が何で真桜ちゃんのクラス知らなきゃいけないんだよ」
「だって俺のクラス知ってたくらいだから」
「お前は、一緒のクラスだったからに決まってんだろ。情報屋じゃないっつーの。あ、でも
横井さんが2組だったから、聞いてみれば?」
そう言いながらも、袴田は煌成よりもずっとクラスの情報には早い。
「わかった。ありがと」
「真桜ちゃんと、なんかあんの?」
ニヤニヤと笑って袴田は水筒の茶を飲んだ。
「あればいいよな」
煌成も含んだ笑いを込めて、手を振る。
「ちゃんと報告せいよ」
煌成の後ろで袴田の声が響いていた。





 真桜は横井と同じ2組で、教室を覗くと直ぐに見つかった。
「よう」
煌成が手を振ると、露骨に嫌な顔をして真桜は立ち上がる。教室の入り口までやって来ると
背の高い煌成を見上げて眉を顰めた。
「何?」
「ねえ、暇?」
「全然」
胸元まで伸ばした髪を揺らして真桜は首を振る。ぷくりとした唇はグロスが光って、そんな
表情もまた可愛く見える。
 真桜は小さいけれどグラマラスで、煌成は「ボディから醸し出されるエロスが堪らん」と
本人に向かって何度となく言っている。真桜とは、一線を越えた仲だった。
「なあ、真桜〜」
「何、あたし、忙しいんだってば」
「なんでだよ、つれない」
「煌成がそんな声で近づいてくるのは下心アリアリのときだからに決まってるでしょ」
ぴしゃりと言われて、煌成は頬を掻いた。真桜はそんな煌成を置いてさっさと廊下を歩き
出す。
「何処行くの」
「どこだっていいでしょ。あたし、本当に今度こそ煌成とは縁切ったんだから」
真桜は、煌成の元の元くらいの彼女だ。彼女の方にも、煌成と付き合ったあと、2人ほど
彼氏がいたらしいのだが、彼氏に振られるたび「俺が慰めてやる」と煌成が下心丸見えで
近づいていく所為で、未だにだらだらと関係が延びてしまっている。
 毎度流される真桜も悪いのだと、煌成は相手の事情などお構いなしだった。
 真桜は階段を駆け下りて、渡り廊下を足早に通り過ぎていく。職員室の隣を通り抜けて
突き当たりまで来ると、漸く煌成を振り返った。
「ちょっと、何処まで付いて来るのよ。あたし、保健室に用事があるのに」
「何?誘ってるの?」
冗談半分で笑うと、真桜は顔を真っ赤にして怒った。
「今度のは、本気なんだから。煌成、邪魔しないでよ」
「わかった。わかった。今日で最後にするからさー」
「今日で最後って何のことよ!」
睨みあげる真桜の肩を無理矢理引っ張ると、煌成は保健室に真桜を連れ込んだ。



 真桜の身体をベッドに引っ張り込んでカーテンを閉めると、煌成は両手を合わせてお願い
をした。
「お願い、一回やらせて?」
「そんな可愛くお願いしたって嫌よ」
真桜が自分の顔に弱いことを煌成は知っている。怒りから拗ねた口調に変わって、後一押し
だと煌成は思った。
「ね?」
煌成は真桜のブラウスに手を掛けると、首筋に顔を埋める。
「ちょっと待って、ここ保健室っ」
「だからいいじゃん」
そんな会話をしながら、真桜もそれ程強い否定をしない。いけるかも、と煌成は本気を出し
かけたところで、ガラっと扉の開く音がした。
「!!」
「ちょ、誰か来るっ・・・」
真桜が煌成から離れる前に、締めたカーテンがシャッと鋭い音を立てて開いた。
「君達、何してるんですか」
煌成は驚いて振り返る。
「あ・・・」
「きゃあっ」
そこに立っていたのは、冷たい目をした若い男だった。真桜は乱れた胸元のシャツを手早く
直すと、煌成を押しのけてベッドから降りた。
 真桜に突き落とされそうになって、煌成はベッドの上に転がった。
「このベッドは、体調の優れない生徒の為の物です。そんなことをする為に、使われては
迷惑です。早く降りなさい」
「あんたこそ、誰だよ。偉そうに」
せっかく持ち込めそうだったのにと、煌成が舌打ちをする直前に男は素性を名乗った。
「緑川伊純、あなた達の新しい養護教諭です」
ぴしゃりと言い放って、伊純は煌成を見下ろした。その瞳は若干の軽蔑の眼差しが含まれて
いる。
「いずみって・・・・・・男かよ!」
頭を鈍器で殴られたような衝撃が走った。
 新しく入った保健の『先生』。そして『男』・・・・・・ま、正夢・・・?冗談じゃない。
「男ですが、何か」
海老原煌成と緑川伊純の出会いは最低最悪なものになってしまった。





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