若くて青いのは美味しいんですよ・・・
暫く沈黙していた伊純に、煌成は溜息を吐いた。
「・・・・・・あ、やっぱり先生、軽蔑してるだろ」
「いや、そうじゃなくて」
「じゃあ何だよ?」
「どうして塚元さんだったのかなって」
そんなの、一番やらせてくれる確率が高かったからに決まっている。
「別に誰でもよかったんだよ。やらしてくれる女の子なら」
「・・・・・・誰でも?」
伊純に間近で覗き込まれて、煌成は身体を硬くした。
「軽蔑したけりゃすりゃあいいだろ!!」
「・・・・・・別にしてないですよ。高校生ってそういうもんだと思うしね」
「それ、保健の先生の意見?」
「いえ、僕個人の意見です」
「ふうん。理解あるじゃん」
「僕もそういう時があったからね」
伊純にもそういう時があった・・・・・・?
普通の高校生男子だった人に共感してもらえるのなら手放しで喜べそうだったが、伊純
にそれを言われて、煌成は戸惑った。
伊純も、高校時代、やらしてくれるのなら誰でもいいと思っていたとするのなら、その
「誰」に当てはまるのは、「男」なのか「女」なのか。どちらなのだろう。
高校生の伊純は誰とどんな恋愛をしていたのか、考えただけでとても後ろめたい気分に
なった。探ってはいけない伊純の過去のように思う。
その空気を察したのか、伊純は諦めたように顔の表情を緩めた。
「今、海老原君が考えてること当てて上げようか」
「え?」
「僕が高校の頃、誰とどんなセックスしてたか想像してた」
珍しくお茶目な顔を煌成に向けると、煌成は耳をピンと立てて首を振った。保健医から
セックスなんて言葉を聞いただけで尻の座りが悪くなる。
「想像はしてない!」
「・・・・・・でも、ちょっと気になった?」
「別に先生の相手が誰でも俺は気にならないってーの」
煌成が慌てると、伊純はうふふと笑った。
今日の伊純はちょっとおかしい。こんなに距離が近い上に、いつも纏っている冷たさが
感じられないのだ。
ガードを外しているようにも思えて、これが伊純の素なのかもしれないと煌成は思う。
「それにしても、あの時は既に、塚元さんと付き合ってたわけじゃなかったんですね」
「・・・・・・それ嫌味?」
「確認」
「は?」
「海老原君は三角関係でもなんでもないんだよね?」
「それどころか、完全にフリーですよーだ」
「そう。・・・・・・藤君を狙ってるわけでもないみたいだし・・・・・・?」
「当たり前だろ!俺は先生と違ってホモじゃないっつーの!」
ふん、と煌成が鼻を鳴らすと、伊純は嬉しそうに頷いた。
「よかった」
「何がぁ〜?」
「いえ、こっちの話です」
「?・・・・・・先生、何か今日、変じゃね?」
何故今日に限ってこんなにフレンドリーなんだろう。大体、こんなカーテン引かれた病人
のベッドの中にまで入り込んできて、何がしたいのだろうか。伊純の真意が全く分からない
煌成は不機嫌に眉を顰めるだけだ。
伊純はそんな様子の煌成を見て、一つ大きく肩で息をした。
気持ち頬が紅潮しているように見えて、煌成は何事かと振り返る。
「前に、なんで海老原君にだけ冷たいのかって聞いたことありましたよね」
「・・・・・・なんだよ急に」
「勿論、そんなつもりはなかったけど、でも思い当たる節はありますよ」
「あるのかよ!」
「わざとではないんだけどね、どうしてもそうならざるを得なかった・・・・・・」
伊純はそこで話を区切ると、もう一つ息を置いて、煌成を真っ直ぐに見た。伊純の視線に
煌成も身体を強張らせた。僅かな沈黙の後、伊純ははっきりと言った。
「僕が海老原君に冷たい訳は、君が好きだからです」
「は!?」
そんなオチはいらないと、煌成はせっかく起き上がったのにベッドにぶっ倒れた。
あんな夢を3回も見て、伊純がゲイだと判明して、最後に来たオチがまさかの告白。
三流のシナリオライターが書く筋書きよりも馬鹿らしくてありえないと煌成は目を閉じた。
「ありえねえー」
「でも、そういうことなんです」
伊純は自分がゲイだとばれてから妙に開き直ったようで、あっけらかんと自分の気持ちを
肯定している。
この豹変はいったいなんなんだと、煌成は混乱する一方だ。自分に好意を寄せている
なんて微塵もみせなかったじゃないか。そうだ、と煌成は気づいて目を開けた。
ベッドに仰向けのまま、伊純を見上げる。
「・・・・・・てかさ、おかしくない?」
「おかしいですか。まあ、普通考えたらそうですよね、君よりも10歳も年上の僕が・・・・・・」
「いや、それもあるけど。そうじゃなくてさ!」
「・・・・・・?」
「だからさ、俺の事好きって言うくせに、なんでそんな冷たい態度取ってたんだよ?俺、
今の今まで先生の気持ち全く逆だと思ってたんですけど?」
寧ろ嫌われてる原因を突き止めようと煌成は探っていたのだ。
煌成に言われて、伊純は目を細めた。ツンデレの自覚は十分あるのだ。
「・・・・・・10歳も年下の海老原君にデレデレしてたら、そっちの方が問題じゃない?」
「だからって」
不快な目に遭わせなくてもいいじゃないかと、煌成が眉間に皺を寄せると、伊純は自嘲した。
「そうやって突き放してないと、自制できなかったんです」
「じ、自制?!」
「・・・・・・ほら、もう自制が効かなくなってる」
気がつくと、伊純の手が煌成の頭に伸びて、煌成の髪の毛を掬っていた。それが嫌でもなく
寧ろ心地よく感じてしまうのは、夢で免疫が付いた所為か、それとも流されているのか。
うっとりしそうになって、煌成は喚いた。
「ちょ、ちょっと待て」
何だこれは!夢か!あの時々見てた夢の続きなんだな!?
セルフ突っ込みも空振りで、現実の伊純は目の辺りを潤ませて煌成を覗き込んでくる。
「一度やってみる?」
やるとはなんだ、やるとは!何をするんだという愚問は流石にこの流れの中ではいえなかった
けれど、煌成は想像半ばで、それを掻き消した。
「ムリ!!」
「海老原君はやれるなら誰でもよかったんでしょ?」
初めの問題に戻ってしまった。煌成はこの流れの意図を漸く理解した。
「女子限定だってーの」
「やってみれば案外やれるもんですよ。大丈夫、こっちを掘ったりしませんから」
夢と同じ台詞を言われて、自分の見ていたものは正夢だったのかと煌成は驚いた。
「・・・・・・イヤイヤ、無理無理。そういう問題じゃないし」
「じゃあどういう問題?」
「先生はホモかもしれないけど、俺違うし!先生としたいなんて思ってないしっ」
「その気になったら出来るよ」
意外にも伊純は引くつもりがなく、煌成は押され気味の雰囲気に流され始めようとしていた。
夢の中の伊純がちらつく。自分に馬乗りになって桃尻を擦りつけて来た伊純のあの扇情
した顔が目の前の伊純にだぶった。
夢の中で出来たから、伊純をオカズに抜けたから、もしかして本当に出来るかもしれない。
ふと過ぎった疑問は甘い誘惑の中に突き落とそうと背中を押している気がする。
既に、道徳的なこと以前に自分が出来るか出来ないかが煌成の中で重要なポイントに摩り
替わっていて、それは率直に言えば、勃つか勃たないかの問題だった。
「じゃあさー、先生、俺のチンコ勃たせること出来る?」
「出来たらしてもいいってこと?」
「考えてみるってこと」
煌成の苦し紛れの言い分に、伊純はニヤリと笑った。今まで見たことも無い伊純の表情だった。
勃たぬなら、勃たせてみせよう、煌成君
絶対そんなことは言わないとは思っていても、そう呟かれているようで、煌成は思わず
身体中の筋肉が引きつった。
「せっ先生」
「はい」
「冗談・・・・・・」
「冗談、じゃないですよ」
伊純は掬っていた煌成の髪の毛から手を滑らせると、しなやかな指で煌成の顔を辿り、鎖骨
の間を這って行った。
「先生止めてって。くすぐったいって」
ヤバイ流れに乗りかかってることは煌成自体分かっている。止めるべき流れなことも、これ
が危険な波であることも、ちゃんと分かっているのに、先を覗いてみたいという僅かな
好奇心が煌成の道徳観をじわじわと壊していった。
そして、伊純の手が煌成の制服のズボンに伸びる頃には、煌成は完全に悪い波に飲み込
まれていた。
伊純が慎重に煌成のジッパーに手を掛ける。ジジジという音が静かな保健室に妖しく
響き、煌成は緊張から唾を飲んだ。伊純は初々しい反応を見せる煌成の様子に満足しながら
ズボンの中に手を突っ込んでいった。
「あっ!」
伊純の手が煌成のペニスを捉えると煌成の身体は硬直した。
夢の再現を体験しているようで、この感覚は味わったことのないはずなのに、身体は
覚えているみたいだ。
伊純の手淫に酔いしれる自分。夢の中でも煌成はこうやって気持ちよくされ、その気に
され、伊純の中にずぶずぶと嵌っていったのだ。
冷静になって考えれば、ナシだと言い切れる。相手は男で保健医で自分よりも10も年上で
おまけにココは保健室なのだ。
他の生徒がこの蒸し暑い日中に勤勉に励んでるというのに、自分は一体何をしているの
だろう。煌成は快適な保健室の中にいて、むき出しになった股間を見ながら、自分の感覚
が麻痺していくことに後ろめたさを感じた。
しかし、その一方で、自分の中の疼きは次第に大きくなっていき、ついには伊純にクスリ
と笑われるほど、はっきりと欲望の姿は形となって現れた。
「ちょっと・・・俺、大丈夫かよ・・・・・・」
誰が見たってがっちんと勃ち上がっているペニスに煌成は震えた。自分の曖昧な気持ちとは
裏腹に欲望は暴走している。伊純はその欲に、忠実に答えをくれた。
「大丈夫、元気な高校生の証拠だよ」
「いやいや、色々違うでしょ・・・・・・」
躊躇いが抜けないままの煌成の気持ちは置いていかれ、伊純は煌成の反り立つペニスに手
をかけた。
「うっ」
握られただけで、小さな呻き声が上がった。身体の芯が燃えている。
伊純は煌成の反応を楽しみながら、2、3度その手を上下させた。
「!」
経験がないわけじゃない。他人に触られた事もそれ以上の事もしてきた。けれど、伊純の
掌は今までに味わったことのないような、しなやかさがあった。
男の大きな手だからなのだろうか。それとも伊純が同じ男で、気持ちよさのポイントを
分かっているからなのだろうか。
ゆるゆると扱かれ始め、煌成の腰は力が入ったり抜けたりと大忙しだ。
「せんせ・・・・・・」
「どう?」
「拙くない、これ・・・・・・」
拳を握り締めて、煌成は掠れた声を出した。
伊純はすっかり流されている煌成を見て、一度、手を止めた。それから、ゆっくりと顔
を近づけると、煌成の暴れるペニスに口をつけた。
「!!」
ちゅくちゅくと先端を音を立てて口付けし、溢れ出した蜜を舌で伸ばし始める。生暖かい
舌の感触に、煌成の腰が一気に緊張した。
「や、やばっ」
伊純の舌は、徐々に付け根の方まで下りて行き、再び上まで駆け上った。丁寧に舐められ、
ペニスが伊純の唾液で全て舐められ尽くしていく。
そして、今度は口を開けると、ぱくりとそれに喰らい付いた。
「うぐぅ」
口の中でも舌は絶え間なく蠢き、煌成は早くも先が見えてきてしまった。
「あっ・・・・・・せんせっ」
今までされてきたのは一体なんだったのかと思うほど、伊純のフェラチオは気持ちよかった。
煌成は目を逸らせなくなり、伊純の口を凝視していた。男なのに、なんの躊躇いもなく
他の男のペニスにかぶりつく姿は、他人が見ればドン引きなのかもしれないが、今の煌成
にはたまらなく欲情を煽られた。煌成のペニスにかぶり付く伊純の顔は夢の中と同じで、
道徳観を吹っ飛ばすほどのいやらしさがあった。
官能的な表情で見上げられ、伊純と目が合うと、煌成はいよいよ我慢出来なくなった。
「先生、ホントもうヤバイっ」
煌成は伊純の頭に手を伸ばすと、伊純の黒髪を掴んだ。
伊純は口の端を緩ませて頷く。煌成はストッパーを全て外して、駆け上った。
「はっ・・・いくっ!!」
どくん、どくん。伊純の口の中で煌成のペニスが脈打った。
吐き出される若いエキスを伊純は残すことなく口の中で受け止めて、それから煌成の見て
いる目の前でそれをこくりと飲み込んだ。
「ちょっ・・・せんせっ・・・」
伊純は顔を歪ませることなく、それどころか舌で綺麗に煌成のペニスを舐め尽すと、やっと
口を離して
「ご馳走様」
と笑った。
「飲んだ・・・・・・」
あんなのはAVの演出くらいにしか思っていなかった煌成は目の前で自分の出した雄雄しい
匂いの液体を、おいしそうに飲んだ伊純に目を丸くした。
「美味しかったですよ」
「・・・・・・どう考えても不味いだろっ」
息を整えながら煌成は目の前の光景に首を振った。
「好きな子の出すものは美味しいんですよ」
にっこり笑った伊純に、煌成は眩暈を起した。
告白された上、欲情させらて、吐き出してしまった。自分は一体どうなってしまうのか・・・・・・
「ありえねえ・・・・・・」
得体の知れない恐怖が煌成を襲っていた。
――>>next
よろしければ、ご感想お聞かせ下さい
nakattakotonishitekudasai ©2006-2010 kaoruko since2006/09/13