駆け引きは得意なわけじゃないんです・・・・・・
カーブの度、揺れるRange Roverの中で、煌成は無言のまま外を見詰めていた。
約束の日曜日、駅前まで迎えに行くからと言われ、煌成が駅に降り立つと、既に白の
Range Roverが煌成を待ち構えていた。
伊純はラフな格好で、助手席の窓だけを開けると煌成に乗るように促した。
そこから伊純のマンションに向かう間、煌成も伊純も一度も会話を交わすことはなかった。
煌成は緊張していたのだ。
誘ったのは伊純だけれど、行くと言ったのは自分で、あれだけ時間があった後に取った
この行動の意味を、薄々は伊純だって気づいているのではないかと思うと、煌成は何から
切り出していいのか分からなくなってしまった。
けれど、無言の車内は重苦しい空気よりも、どこか浮ついた熱気で包まれていて、煌成は
呼吸するたび心臓がぎゅうぎゅうと揉まれている気がした。
マンションの駐車場に車が滑り込んでいく。伊純は慣れたハンドルさばきで駐車すると、
静かに車を降りた。
煌成も伊純の後を追って、マンションに入った。
「どうぞ」
玄関の前で促されて、煌成はやっと言葉を発した。
「お邪魔します」
緊張していた所為か、喉がカラカラになっていた。搾り出した声が掠れる。
「・・・・・・お姉さんは?」
「今日は・・・・・・帰ってきません」
「そっか」
その台詞が一定の含みを持っていることを煌成は気づいた。息を思いっきり吸い込み、
覚悟を決めると一歩、伊純の領域に踏み出した。
2人きりの密室に、煌成は益々緊張を隠せなくなっていた。
通されたリビングでも、所在なさげにうろうろして、ローテーブルにお茶を出された
ところで、漸くソファに腰を下ろした。
その様子を伊純は内心微笑みながら眺めていた。
「動物園のサルじゃないんだから、ちょっとは落ち着いたらどう?」
「落ち着けるかっ」
やっといつもらしい煌成の言葉に、伊純は目を細めて、煌成の隣に腰を下ろす。沈んだ
ソファの傾きに、煌成の身体がまた硬くなった。
「何も獲って喰うわけじゃないですよ?」
「わっ、わかってるって」
会話は円滑という言葉からかけ離れていて、一言返すのにお互い精一杯だった。重苦しい
わけではないのに、もどかしくてなかなか前に進まない状況に先に根を上げたのは煌成の
方だった。
「・・・・・・センセーは、俺がここに来たこと、どう思ってんの」
じっくりと流れを見守るつもりだった伊純は、煌成の暴投にびっくりしていたが、投げ
られたボールが直球ど真中で、逃げる余地のないことを悟り、小さく頷いた。
「答えを・・・・・・持ってきたんだと」
「どっちの?」
煌成の頬がぴくっと揺れた。ここで、伊純が手でも握ろうものなら、煌成の心臓は口から
飛び出して仕舞うのではないかと、伊純は煌成の緊張を肌で感じていた。
それから、煌成の態度を冷静になって分析した結果、出て来た自分なりの答えを口にした。
「僕の欲しがってる方の答えを持ってきてくれたんだと思ってますけど」
はにかみながら答えると、煌成は伊純の言葉に過剰に反応した。
「・・・・・・センセーって、意外と自信家なん?」
「90%くらいは願望ですよ」
「先生ってさ・・・・・・」
「はい?」
「よくわかんないよな。冷たくしてくると思えば、急に飛び込んでくるし。優しいのか
優しくないのか、照れてるだけなのか、日によって全然態度違うし。とらえどころがない
っていうか。・・・・・・目が離せないっていうか」
煌成が不貞腐れながら言うと、伊純は笑った。
「目が離せませんか?」
「・・・・・・先生のこと考えると、わけわかんなくなるんだよ。ホント勘弁して欲しいって
ずっと思ってた。なのに、会えばセンセーの事見ちゃうし。先生があんなことしなきゃ
とかさ、先生が女だったらとかさ、仮定の話ばっかり考えてて、肝心なところに一歩も踏み
出せなくて、ぐるぐるぐるぐる・・・・・・自分でも気持ち悪くなってた」
「ここにいるってことは、出口見つかったって事?」
「うん・・・・・・。なんかさ、俺、出口を無視してただけだったみたい」
「そう」
伊純が自分で入れたコーヒーに口をつけると、煌成はその横顔を見ながら小さく溜息を吐いた。
「俺さ・・・・・・夢見たんだ」
「どんな夢?」
「センセーとエッチする夢」
伊純は口の中のコーヒーを慌てて飲み込む。全てが上手く食道に流れ込まなかった所為で、
伊純は盛大に咽た。涙目になりながら煌成を振り返ると、煌成も困ったようにぽりっと頬
を掻いた。
「なんでまた・・・・・・」
「俺だって、びっくりだっつーの。それに、初めて見たときは、相手が先生だとは分から
なかったし」
「初めてって・・・・・・何度も見てるんですか!?」
やばい、と煌成が口を押さえると同時に、伊純が小さく羨ましいと言った。
「・・・・・・先生って、ホントに先生?」
「プライベートと公務は使い分けてるんです」
公務の時間にあんなことをしたのは誰だと言いたくなるのを我慢して、煌成は続けた。
「4月の初めに、保健の先生が新しく来るって話をツレとしてたらさ、なんか夢みたんだ」
「保健の先生とセックスする夢?」
「そう。しかも、相手は男。ありえなくない?普通、夢見るにしろ相手は女だろって。俺
ホモじゃないし、男としたことだってないし、考えた事だってなかったのに・・・・・・なんで
だよって思って学校来てみたら、赴任してきたのが先生だった」
「運命感じますね」
「感じねえよ!しかも、その先生ときたら、やたらと俺だけには冷たいし、なのに俺は
保健委員にされるし、踏んだり蹴ったりだった。・・・・・・はっきり言って先生なんてどうでも
いい存在だったのに、また変な夢みちゃってさ」
「変なって、また僕とセックスしてたんですか」
「・・・・・・俺、すげえ欲求不満なヤツみたいじゃね?」
「欲求不満なら、今すぐにでも相手しますよ」
「いっ・・・いらないよ!」
伊純が言うと冗談に聞こえなくなる。微妙な駆け引きの上を煌成は歩いているみたいだった。
煌成は掌に滲み出てくる汗をジーパンに擦り付けた。
「ねえ、海老原君。夢の中の僕は、どんなだったの?」
伊純はさっきから一ミリも動いてないのに、煌成はどんどん追い詰められていく気がした。
伊純の実像がじわじわと覆いかぶさって、煌成の上に乗り上げてくるみたいだ。
「どんなって・・・・・・」
「どんな風に、海老原君としてたんだろう・・・・・・」
本気で羨ましそうに呟く伊純に煌成も夢の中の伊純を思い出す。
「エロかったよ」
「・・・・・・」
「だって、しょーがねえじゃん!先生、すげえエロくて、やばかったんだもん」
伊純は今度こそ本当に煌成に近づいた。
「本物の僕は君の妄想よりも、もっとエロいかもしれないよ?」
「・・・・・・誘ってんの?」
「初めから誘ってたでしょ」
「そうだけどさ・・・・・・」
「家に来てくれたってことは、もう一度試してみる気になったんでしょう?」
伊純の顔がどんどん近くなる。息が拭きかかるほど間近に迫られて、煌成はごくりと唾を
飲み込んだ。
「・・・・・・どうなっても知らねえよ?」
「大丈夫、貧血と胃痛と性欲の処置くらいはしてあげますよ」
どちらともなく近づいた唇が、小さく重なるとその後は2人で蕩けた。
「んっ・・・・・・」
離した唇から、煌成の視線が伊純の腫れぼったい瞳に移る。どこを見ても全てが煌成を
誘っているようだった。
下腹部がぞわぞわと疼きだし、煌成はもう一度伊純を抱き寄せると、かぷりと唇を吸い
取った。
伊純の唇の感触は瑞々しくて、心地よい弾力がある。煌成は舌で下唇をなぞり、開いた
隙間から舌を突っ込んだ。
伊純の口の中では、待ち構えられていたように伊純の舌と絡み合い、煌成が舌の先で
舐めれば、伊純の舌もそれに応じるようにちろちろと煌成の舌の側面を擽った。
溢れてくる唾液が伊純の口から零れ落ちると、支えていた煌成の掌を伝った。
煌成が唇を離す。伊純は濡れた煌成の指を両手で取って、唾液の付いた指を1本ずつ
口に含んだ。
「・・・・・・センセ、マジでエロい」
「その気になってきた?」
「かなり」
伊純は煌成の指から手を離すと、煌成の胸板を辿って、下腹部に軽く触れた。
それだけで既に大きくなり始めていることは十分感じられ、伊純は煌成が受け入れる
気があることを実感した。
「僕も・・・・・・」
耐え切れず、伊純は煌成の上に覆いかぶさるように雪崩れ込んだ。
伊純の体重で煌成はバランスを崩す。ソファに沈んだまま煌成は伊純を見上げた。
伊純は煌成のシャツをめくり上げ、飛び込んできた突起物に口を近づけた。
「はぅ」
ぷくりと膨れ上がる乳首を舌で転がすと、煌成の身体は震えた。その反応が楽しくて、伊純
は舌の先で突いたり弄りあげたりと執拗に乳首を舐め上げた。
「センセっ・・・ちょっと・・・!」
可愛らしく、ぷるっと震える煌成に満足して伊純はもう一つの突起物にも手を掛けた。
「っ!センセっ」
掠れた声がリビングに響く。
伊純は漸く煌成の乳首から唇と手を離すと、濡れたままの唇でわき腹を辿った。
「くすぐったっ・・・・・・!?」
わき腹をなぞられて、くすぐったそうに身体を捻った煌成は、直ぐにその反応を変えた。
伊純の唇がわき腹から股間に移ったのだ。
ズボンの上から口で押され、煌成のペニスは更に勃起した。柔らかい声が消え、上ずった
声を噛み殺そうとして、煌成の喉が鳴った。
「うぐぅっ、はっ・・・はぁあ」
程よい刺激が伝わっていくらしく、伊純はそれ以上は深追いもせずに、只管ズボンの上から
煌成の股間に口を寄せた。
ぐいぐいと押され、目に見えて煌成の股間が勃起してくる。煌成は苦しそうに伊純の頭
を押さえた。
暫くの間、伊純は煌成の反応を確認しながら煌成の股間の上に顔を寄せていた。
微妙な刺激で生殺しのような時間が続き、ついに煌成が根を上げた。
「センセ〜・・・・・・脱がせてよ・・・・・・」
「もっとして欲しいって事?」
「・・・・・・先生、意地悪じゃね?」
「楽しんでるんです」
「俺、高校生!やりたい盛り!・・・・・・てか、もう頭の中では先生の中、突っ込んでるっ!」
煌成が我慢できずに叫ぶと、伊純は悪戯っぽい笑顔でジッパーに手を掛けた。
窮屈なズボンから解放された煌成のペニスは、勢いよく反り上がり、ビクビクと2,3度
震えた。煌成は腰をもぞもぞ動かして疼きを押し留めようとしているが、新たな刺激に餓えて
今にも暴走しそうにも見えた。
「元気だね」
「先生、やりてぇ・・・・・・てか、とりあえずフェラで抜いてよっ。ぱつんぱつんで痛い・・・」
ストッパーが外れたのか、煌成はただのエロガキに戻っていた。
煌成の頭の中は単純で、相手が男だからとか、好きか嫌いかわからないとか、倫理的な
部分が解消されてしまえばあとはやるだけだ。
伊純に素直に欲情して、ありのままを求めている。直球の煌成に、伊純はまた胸をとき
めかせた。
10歳も年下のノンケの男を落としたのは伊純だって初めての経験だ。時間を掛けてでも
落としたいとは願ったけれど、落とせる自信など本当はなかった。
見込みの薄い相手だった。妄想の中で穢れさせておしまいになる恋だとも半ば諦めていた。
その煌成が、自分を欲しているのだ。
元気にその存在を主張している煌成のペニスを前に、伊純はうっとりと眺めた。
「せんせぇ・・・?」
固まっている伊純に、煌成の情けない声が届く。伊純は煌成のペニスに手を伸ばすと、漸く
新しい刺激を加えてやった。
「うっ・・・」
「とりあえずフェラなんて、仕事帰りのサラリーマンがビール頼むみたいに言わないでよ」
「じゃあ何て言えばいいんだよっ。この前のフェラが無茶苦茶気持ちよかったから、もう
一回して?とか!?」
「気持ちよかったんですか」
「・・・・・・うん」
「海老原君の身体は本当に正直に出来てるんだなあ・・・」
伊純は妙に感心してゆるゆると動かす手を止めた。
それから、ペニスの先端に顔を近づけるとぺろりと舌を出した。
「ふぅんっ!!」
小さな痺れが煌成を襲う。それから、伊純も我慢できなくなったように煌成の猛った竿に
しゃぶりついた。
伊純の口と指先は、あの日感じたものと変わりなく、煌成は海の上で漂うように、ゆらり
揺られて、波に飲み込まれ、苦しみ、再び顔を出した海面で、煌成は盛大に伊純の口の中に
溜めた想いをぶちまけていた。
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