三階から多量投薬―天の性質―
先生という職業は、お母さんとは違いますよね?――28歳・保育士
晴さんが出て行った。
拠りによって、俺の浮気(じゃないんだけど)現場を見て、切れたらしい。晴さんらしからぬ
というか、晴さんらしいというのか。
後を付けられていたことに全く気づかなかった自分の迂闊さにも腹が立つし、女みたいな行動
した挙句、勘違いで切れた晴さんにもちょっと呆れている。
参ったな、これは。
今まで晴さんと喧嘩なんてしたことなかったし、俺にしては本当に珍しく、晴さん一筋で、
浮気なんてしてこなかったから、この展開をどう乗り切ったらいいのか、俺は途方に暮れていた。
晴さんだって、子どもじゃないんだから、そのうちひょっこり帰ってくるとは思うけど、
帰るのを待ってるなんて、自分の性に合わない。それに、そんな風に帰ってきても、晴さんとの
わだかまりは残ったままになるだろう。
随分と傷ついた顔してたからな。晴さんでもあんな顔するんだなあなんて間抜けなこと思って
そして、自己嫌悪。
晴さんが飛び出して、開け放たれたままの寝室の扉。壁際に追い詰めたときに落ちた晴さんの
ケータイ電話。家に帰ってきたまま、ここに倒れこんだんだろう。ベッド際にビジネスバッグが
放置されている。
晴さんの残骸ばかりがこの部屋を支配して、俺は酷く居心地が悪くなる。他人の家で他人を待つ
なんて行為したことがない。
俺は誰かを待ったりしない。待つくらいなら切れた方がずっと楽だったから。他人と暮らすこと
他人を自分の領域に入れること、そして他人の領域に自分が入っていくこと。その行為がどれだけ
俺にとってはハードルが高くて、出来ないと思っていたことか。実際、超えなくても構わないと
思っていた。晴さんに出会うまでは。晴さんはそんな俺の超えられない筈のハードルをあっさり
越えて来た。なんでもないような振りして。・・・いや、きっと晴さんにはなんでもないよなこと
だったんだろう。
好奇心から始まった思いが、いつの間にか、どっぷり嵌ってるし。自分では一生ありえないと
思っていたのに、一緒に暮らしてまでいる。
この奇後、晴さん分かるかなあ。俺にこんなにも愛されちゃってるってこと。浮気しすぎて
振られたり、病院行ったり、無茶苦茶な生活をしてた俺が、たった一人のヒトに操を立てて、ここ
までやってきたんだから。俺の愛を疑ったりしないでよ?
・・・って、疑ってたりして。
そう思ったら急激に不安になる。晴さんが俺に愛想尽かす前に、なんとかしなければ。別れる
だなんて、言い出す前に捕まえなくては。
晴さんの脳みそなら、その展開も十分ありうるわけで。俺は寒い考えを吹き飛ばすことも出来ず
寝室をうろうろしていたが、ここで待つより探しに行った方がいいと、晴さんのケータイ電話を
拾い上げて、寝室を出た。
ああ、やっぱり・・・探しに行きますか。
そう言いながらも、どこから探そうか俺は皆目見当も付かなかった。晴さんが行きそうな場所。
近くのコンビニくらいは考えられるけれど、例えば友達やら会社関係の人となると、俺は誰1人
思い描くことはできない。
仕方ない、コンビニと公園を探してみよう。・・・ったく、なんでこんな時にケータイ落として
行くかなあ、晴さんは。
俺は念のため、丘とアツシの部屋を確認してから、家を出ることにした。
(あいつ等が夜中起きて、万が一俺達いなかったらびっくりするよな・・・。ぐっすり寝ててくれよ)
そう思って開けた扉の向こうは、無音だった。
真っ暗な闇。寝息もなければ、寝返る音もない。ベッドはぺっしゃんこ。そこに人が寝ている
気配がなかった。
「丘・・・?」
驚いて、明かりを灯す。
「丘、アツシ?!」
オイオイ、2人とも消えちゃったよ。晴さん、どんなマジックつかったんだよ。・・・って晴さん、
そのまま出てったよなあ。じゃあ、あいつら、2人でどっかに出かけたのか?遊びに行ったにしては
帰るの遅すぎるだろう?・・・ひょっとしてまた家出か?
今度は一体何があったっていうんだよ、丘まで。
何か手がかりはないかと、俺は丘の部屋の中をうろついて、ベッドの上に乱雑に置かれた
プリントを見つけた。
「エイズについて、考えよう・・・?」
丘達の学校は、こんなことするのか。・・・?
よく見ると、プリントの半分がしわくちゃになっていた。ヨダレか?・・・涙の跡?
布団を触ってみたが、冷たく、このベッドは迎えるはずの主人をもう何時間も前から失っている
らしい。
分からないが、丘は学校から帰ってきて、ベッドにプリントを広げて、ヨダレか涙をたらして
ベッドの上に寝そべっていた。だけど、今はいない。
アツシも、6時くらいに俺が一度家につれて帰ったから、家にいたはずなのに、今はいない。
そして、晴さんもいない・・・。
誰もいない。
「ったく、この家の住人は、家出が趣味なのか!!」
どいつも、こいつも、いなくなりやがって。この家の住人は暮らすことに自由すぎだ。
脱力に次ぐ脱力。・・・いや、晴さんはともかく、あいつ等一体どこ行ったんだよ。ケーサツに
なんて、お世話になってないでくれよ。
いや、脱力してる場合じゃない。探さなきゃいけない迷いネコが1匹から3匹に増えたのだ。
引っ掻かれようが、噛み付かれようが力ずくでも連れ戻さなければ。
俺は取るものもとりあえず、階段を駆け下り、懐中電灯を手にして玄関に向かう。
勇み足で玄関まで向かい、スニーカーに足を突っ込んで、そのまま家を飛び出そうとしたその瞬間、
玄関の扉がゆっくりとした動作で開いた。
「えっ・・・あっ・・・」
扉に手を掛け損ねて、俺は前のめりで転びそうになる。何とか体勢を整えて、よく見れば、
そこには、同じ顔が3つ大中小と並んでいた。
それぞれに目の回りを腫らして、さっきまで泣いていましたみたいな顔をして、3人は立っていた。
あれ、これ、前にもこんなことなかったか?
三すくみの次は四すくみですか?
3人は同じように俺を見上げ、同じように首を傾げていた。
「お、おかえり」
俺が声を掛けると、3人は挨拶だけして俯く。
「ただいま」
「ただいま」
「ただにゃー」
なんだ、このドッペルゲンガーみたいなのは。3人とも、何しょぼくれて帰ってきてるんだ?
いや、晴さんは百歩譲って分かる。だけど丘は?そんでもってアツシは何なんだ?
・・・いや、こいつは、丘の真似してるだけか。
探す手間が省けてよかったとか、帰ってきてほっとしたというより、この展開にあっけに取られて
上手く感情がついてこない。それはもちろん晴さんも、きっと丘も同じ気持ちだろう。覚悟して
開けた扉の向こうにいきなり現実がやって来て、心の準備が出来る前に展開だけが用意されて
しまったのだ。
安堵も怒りも俺の手の中からすり抜けて、ただ心臓がドクドクと鳴っていた。
俯いたまま固まっている3人を俺はとりあえず中に入るように促す。3人は無言のまま俺に
ついてキッチンに入ってきた。
何時もの場所に座っても、3人は無言のままだった。そのうちアツシの頭が揺れだして、俺は
アツシを席から持ち上げた。
「ほら、アツはもう寝てろ」
「やー、兄ちゃといる」
ったく、このブラコンめ。俺は仕方なくアツシを抱っこした。ポンポンと背中を叩くと数秒で
アツシの寝息が聞こえてくる。
「んで?どっから話す?」
俺は丘と晴さんを交互に見比べると、2人とももごもごと何かを言ったが俺には聞き取れなかった。
丘はしゃべりたくないけど、しゃべらないとこの場から帰してもらえないと思ってるらしいし、
晴さんは、しゃべりたいけど、しゃべったらどうなるか分からないと思って口に出せないらしい。
2人の表情は全く別物なのに、何故か2人とも泣き出しそうで、可愛くてたまらない。
俺はアツシを片手で抱いたまま、席を立つと、冷蔵庫から麦茶を出した。コップに注いで丘と
晴さんの前に置く。
晴さんとの話は、丘を部屋に帰してからの方がよさそうだな。丘の言い訳聞いて、適当に
あしらって、部屋に戻せばいいか。どうせ、帰ってきたんだし、俺親じゃないし、怒るも何も
心配してなかったって言うか、いなかったことすら知らなかったし。
晴さんだって、今は丘のこと怒ってる心境じゃないだろう。
「はい、じゃあとりあえず丘から。どこ行ってたんだこんな時間まで」
丘は困惑の表情を浮かべながら、俺を見た。
「・・・友達んとこ」
「友達のとこってなあ・・・お前小学生が12時過ぎて帰ってくるって、ちょっとマズくない?」
「い、色々あったんだよ!」
「色々って?」
「しゅ、宿題とか!」
「宿題、ねえ・・・」
見れは丘は真っ赤な顔をして俺を睨んでいる。俺、何かタブーでも言ってる?俺は丘を覗き込む
ようにして、顔を合わせた。
「何?」
「・・・天が」
「俺?」
丘は口ごもる。何、何、何なの。俺、お前になんかしたか?全然わかんないんですけど。
「俺が何かしたから、お前はこんな時間まで友達の家にいて、しかも宿題してたっての?」
丘は何かを思い出すように、間を置いた。そして、搾り出した答えは、
「天が、父さんと一緒に住むから悪いんだ」
と来たから、俺もちょっと頭にきてしまったのだ。
何、コイツ、俺と晴さんのこと、まだ反対してたのか?まあ手放しに賛成しているようには
見えなかったけど。でもさ、こうも真っ向から反対されるのは面白くない。俺は語気に力が
入ってしまった。
「丘、何が気に入らない?」
俺も大人気ないとは思いながら、丘を睨み返した。途端丘の顔が固まる。子ども相手に睨みつける
なんて、保育士としては絶対やっちゃいけないことなんだけど、これはこれ。
俺と晴さんの事となれば話は別だ。しかし、丘は俺の剣幕にひるんだらしく、弱々しく、こう
答えただけだった。
「・・・やっぱり、言いたくない」
「言いかけて、やめるのはよくないと思うぜ?ちゃんと言ってみな。俺がここに住むのが、
そんなに気に入らないのか?それで、お前はまた家出したのか?」
「い、家出じゃない、宿題やってただけだって」
「宿題って何の?」
「宿題は、宿題、何だっていいだろ」
「いいだろって、その所為で、俺はお前に睨まれる羽目になってるんだろ?ちゃんと話してみな」
「・・・」
丘はそこから、ダンマリを決めたのか、俺が何を話しかけようと一切口にしなくなった。俺も
段々と声が大きくなる。
「丘、いい加減、言えって」
何度かそんなことを繰り返していると、晴さんが話しに割って入ってきた。
「天、あんまり、丘を追い詰めるなって」
「晴さん?」
「誰にだって、人には言えない秘密が一つや二つくらい、あるだろ?」
・・・それは、遠まわしに俺のことを言ってるのか?俺は浮気疑惑のことが瞬時に蘇ってくる。
少々苛立っていたところへ晴さんの一言が効いたのか、俺は晴さんにまで臨戦態勢でしゃべって
しまった。
「俺は晴さんに隠し事なんて、何にもしてないよ?」
「別に、俺は天のことを言ってるわけじゃないよ」
晴さんはバツの悪そうな顔でどもっているが、こうなると自分でも止められなくなる。俺の矛先は
晴さんへと向いてしまった。
「でも、晴さん、俺の事、疑ってるんでしょ?」
「う、疑ってなんか・・・」
「疑ってたでしょ?少なくともさっきまでは。それで、家飛び出して。頭冷えて帰ってきたの?
それとも、自分の勘違いにでも気づいた?」
「天!」
晴さんもさすがにそれには声を上げた。どうして俺はこの人を傷つける言葉しか出てこないん
だろうな。心の中ではそう冷静に思っているのに、口に出る言葉は何故か酷い言葉になってしまった。
焦ってるのかもしれない。晴さんの気持ちが分からない。何で帰ってきた?俺と別れるため?
それとも、仲直り?こんな風に1人の人にはまったこともなければ、手放したくないと心から
思ったこともなかった。
俺って、結構な純情野郎なんだな・・・。必死なんだ、この人を繋ぎとめたくて。言葉は反対
方向にばっかり進んでるけど。
晴さんが丘以上に赤い顔で俺を睨んでいる。俺も晴さんも沈黙になった。
俺達は、丘が居たことすら忘れていたらしい。
「父さん達、喧嘩でもしてたの?」
丘が不安げに俺と晴さんを見上げる。丘は晴さんと目をあわせて、晴さんは苦笑い、俺は
謝罪を搾り出す。
「ごめん、言いすぎた。でも、晴さん、とにかく、俺は浮気なんてしてないからね。女の人は
ダメなの。そこのとこだけは、勘違いしないで」
「・・・」
晴さんは曖昧に頷く。
その途端、丘が勢いよく立ち上がった。
「う、浮気って・・・・え、エイズになっても知らないからな!」
なっ・・・
見れば、丘は今日一番の真っ赤な顔をして俺を見ていた。なんだよ、いきなり。俺も晴さんも
驚いて丘を見る。その丘の顔は段々と歪んでいって、今にも泣きそうになっている。
「いきなり、エイズなんて・・・」
「お、男同士は、え、エイズの原因の一番、なんだからな!!」
可笑しいくらい真剣に丘は訴えている。ああ、そういえば、コイツのベッドの上に、エイズの
プリントが置いてあったな。
宿題って、エイズのプリントのことか?
・・・ん?もしかして、丘は俺達がエイズにでもかかってるんじゃないかって、悩んでたのか?
はは、まさかな・・・。だけど、大丈夫だって、俺も晴さんも陰性だから。
「だいじょう・・・」
「丘!」
俺が丘に話しかけようとした上から、晴さんが、真面目な顔で叫んだ。丘もびっくりして晴さんを
見ている。
「父さんも天も、ウイルスもってないぞ!それに、ちゃんと、ゴふっ・・・」
こらこらこらこら。晴さん何言い出すところだったんだ?
俺は中腰になって、慌てて晴さんの口を手で押さえた。
ちゃんとゴムつけてるから大丈夫だとかそんなことを、息子の前で言うんじゃないよ?
「何?」
「あー、いい、いい。丘は気にするな。俺達はエイズの検査受けたことがあって、そのときは
ちゃんと、陰性だったし。陰性って分かるか?病気もってないってこと。それに、俺は不純異性
交遊も不純同性交遊もしてないし。いや、異性交遊はホント無理だけど。だから、俺達は100%
エイズにはならないから、お前は心配するな、な?」
「オレ・・・天のエイズの心配なんてしてないよ・・・」
「違うの?」
丘はそこまで言ってしまった手前引けなくなったのか、吹っ切れたのか、一言本音を漏らした。
「知らなかったんだ・・・全部」
知らなかったって何を?何をって全部か。全部って何の全部だよ。あれか?エイズがどうやって
うつるかってことか?何、それともアナルセックスを知らなかったって?
丘は思い出しているのか、さっきまで赤かった顔を青くしていた。
「うう・・・気持ち悪い」
「丘・・・」
「もう、いいだろ?・・・宿題やって遅くなったって、わかっただろ?」
半泣き状態で丘は俺の腕からアツシを抱き上げると、キッチンを後にした。去り際に、晴さんに
向かって、晴さんには効き過ぎるボディブローを浴びせていった。
「天は、女となんか、浮気しないよ。だって、男とするヤツなんて変態だもん。男と女なんて・・・
違いすぎる・・・」
ばたんと、静かにキッチンの戸は閉じた。
あのう・・・その変態とヤってるのは、君の父上なんですけどね、丘君。
静寂が訪れた。
ここからゆっくり語れる時間がくるのか、再び嵐がやってくるのか、俺も晴さんも読めない航路を
進んでいる気分だった。
「あの・・・さっきはごめん。言い過ぎた」
「さっきって、いつのさっき?」
晴さんは相変わらず不安げな顔で俺を見ている。その表情をみて俺ははっとした。
ああ、そうか。俺はずっと晴さんを傷つけていたのか。俺は酷く納得して、自分の「犯した罪」
がどこにあったのかやっと分かった。
「俺、晴さんに言ったよね。今まで女の人と付き合ったことないって」
「・・・うん」
「相手はみんな俺と同じだったの。女なんてダメ。隣に立たれるだけで、香水の匂い嗅いだだけで
吐き気がする、そんなヤツらばっかりだった。・・・その感覚を俺は未だに引きずってたんだ。だから
晴さんにホテルの現場見られても、平気だったっていうか、見てたなら助けてくれよって言うノリ
だったんだよ。・・・でも、そうじゃないんだよね。晴さんの感覚は。ごめんね、その気持ちに気づ
けなくて、晴さん傷つけた・・・っていうさっき」
もう一度ごめんと言うと、晴さんは席を立ち上がって、部屋を出て行こうとする。何?この期に
及んで逃げる気?
俺も慌てて立ち上がると、その腕を取って後ろから抱きすくめた。
「逃がさないよ」
晴さんの甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
「・・・俺、35のオジサンだよ?」
「知ってるよ」
「天・・・」
「何?」
「別れてって言っても、別れてやれないよ」
は、はい?晴さん、アナタ、相変わらず思考がぶっ飛びすぎじゃありませんか?あなたの脳の中では、
いつ、どこでそんな展開になってたの?俺だって別れる気なんてサラサラないよ。こんな愛おしい人、
絶対に手放すもんか。
俺は抱きしめた腕に力を込める。
「うん」
「他に若い子がいいって言っても、俺、別れてなんかやらないよ?」
「うん」
「天が好きだよ」
「うん」
晴さんの、本の少しだけ鼻に掛かる声。涙を堪えているのか、俺の抱きしめた身体が震えていた。
この初々しさ抜群の告白に、こっちまで照れて、呼吸が乱れそうだ。体温、心拍数共に急上昇。俺は
晴さんを振り向かせ、真っ赤になったその顔めがけてキスの雨を降らす。
「俺だって、晴さん途中で逃げ出しても、逃がさないからね」
覚悟して、そう言って最後に唇にキス。僅かに残る涙の味と共に俺は全てを飲み込んだ。
「天・・・ごめん」
「俺の方こそ、ごめん」
そういうと、俺も晴さんも自然と笑顔になった。くすぐったくて、甘ったるくて。喧嘩した後の
キスが最上級だなんて、一体誰が言ったんだろう。だけど、それを味あわせてくれたのは、晴さんが
初めてだ。
やっと本来の鞘に戻った、恋人達の金曜はこうでなくっちゃと、俺は一安心して、晴さんの耳にも
口付け。晴さんがくすぐったそうに身をよじって、そして、うなじが見えた。
・・・・?!
「は、晴さん?!」
「はい?」
「何これ?」
俺が首筋を突くと、晴さんは見覚えがあるのか、すうっと顔を青くして首を振った。
「に、二階堂の軽い冗談なんだ!」
冗談?!
冗談で、こんなところに、でかいキスマークを付ける男がいたら、見てみたいもんだ。俺は
怒りよりも、軽い脱力感に襲われる。
「一体、どこに家出してたの、晴さん・・・」
勿論、こんな事で、惑わされたりしない。晴さんが浮気なんて絶対しないことくらい、今回ので
よーく分かった。どうせ、友だちか同僚の人間にからかわれたんだろう。人間余裕持たなきゃ
なって思いながらも、面白くないのは事実だ。
俺はがぶりとその上から、噛みついて、更に強く吸い上げた。
「天?!・・・んんっ」
「マーキング。変な虫が寄りつかないように。晴さんは俺のモノなんだから」
さっきより赤くそして濃く、うなじにできあがったマークを俺は舌の先でするりと舐め上げてた。
「はんっ・・・あっ・・・」
そして、晴さんの誰にも聞かせないであろうカワイイ声を、一晩中上げさせ続けたのだった。
2話 二階から○△薬!(了) ――>>next (天高く、××る?)
【天野家ことわざ辞典】
三階から多量投薬(さんがいからたりょうとうやく)
二階から目薬なんてみみっちいことして、うまくいかないなら、三階から大量に投薬してしまえば
何とかなるんじゃないかという、投げやり的な、それでいて確実に出来る方法。
類語:下手な鉄砲も数打ちゃ当たる
三階から多量投薬(さんがいからたりょうとうやく)
二階から目薬なんてみみっちいことして、うまくいかないなら、三階から大量に投薬してしまえば
何とかなるんじゃないかという、投げやり的な、それでいて確実に出来る方法。
類語:下手な鉄砲も数打ちゃ当たる
よろしければ、ご感想お聞かせ下さいvv
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