なかったことにしてください  memo  work  clap
餅肌と趣味は家に似る



 隣の部屋でクローゼットが開く音がしたり、通話の声がしたり、慌しいアツシの行動は
こっちにも筒抜けで、部屋を出てきたかと思えば、ドタドタと階段を駆け下りて、アツシ
は、あっという間に家を出て行った。
 本人曰く今から年越しデートなんだそうだ。オレも雨宮も風呂も入って後は寝るだけの
まったり時間だというのに、今から出かけていくその行動力をもう少し勉強の方にも向け
たらいいのに。
「アツシ出てったねぇ」
雨宮はベッドを占拠していて、うつ伏せに寝そべった体勢から、まったりと顔を上げた。
 ベッドサイドの置時計は11時近くを指していて、今年も残すところ、本当にあと僅かと
なっている。
「っとに、あいつは・・・」
オレはベッドの縁に凭れ掛かると、布団に頭をもたげて、そのまま雨宮を見上げた。
「いいじゃん、人の事いえないだろ、丘だって」
「どういう意味だよ」
「高校生の頃のお前と、アツシ、やってること大して変わんないと思うけど?」
「全然!オレは真面目だった!」
ベッドに預けた身体を起こして、雨宮を振り返る。
 むきになって言い返したオレに、雨宮はニヤニヤ笑ってオレの顔を撫でてきた。
「勉強と称して、やりまくってたのに?」
「!」
「受験のお泊り会で、勉強時間とセックスしてた時間、どっちが長かったんだろうねえ、
丘君」
「べ・・・勉強に決まってるだろ!!それに、あれはお前が悪いんだからな」
「俺が何したって言うの」
「何もかんも、お前がそういう方向に持ってくから・・・・・・」
初めて雨宮とセックスした時だって(「初めて雨宮と」っていうか、初めての相手は雨宮
だったから、雨宮以外には誰もいないんだけど・・・・・・)オレは雨宮とテスト勉強してて、
なんだか変な空気が流れてきたと思ったら、気がついたときにはベッドの上で雨宮に乗っ
かられていたんだ。
 ぶっちゃけてしまえば、やりたくないなんて1ミリも思ってなかったんだけど、別に、今
勉強してるこの瞬間じゃなくてもいい、とは思ってた。・・・・・・けど、あっさり流されて、
オレは幾度と無く、赤点ギリギリの成績でテストを乗り切ったんだ。
 しかもそのギリギリ作戦は大学になっても続いて、オール「優」の雨宮に比べて、俺の
成績表には「可」が何個も並んでいた。
「オレがあんな成績だったのは、半分はお前の責任だかんな」
「あー、ハイハイ。責任でも何でもとってあげるよ」
随分簡単と責任を取ってくれるらしい。雨宮の責任の取り方を聞くのが恐ろしいが、オレ
はその話はスルーした。それから、話を戻して、窓の外の方を見る。アツシはこの極寒の
中、誰に会いに行ったんだろう。狙っている相手の名前が担任の先生とか幼馴染のゆうくん
とか出てくる度、コロコロ変わる。・・・・・・アイツ本当に落ち着きが無い。
「それに、オレはアツシと違って、誰彼構わず遊んだりしてないだろ」
「俺一筋だから?」
「ふん。そんなに遊べるほど、体力が無いだけだ!」
・・・・・・ここで、雨宮一筋なんて台詞は死んでも言ってやるつもりはない。
「ふうん」
雨宮はそう言って、分かった振りをした。それから、ごろっと仰向けになって、壁を軽く
ノックする。
「まあでも、アツシがいない方がありがたいんじゃない?この家の壁、結構薄いと思うから」
「・・・・・・」
アツシが隣でバタバタやってる音が聞こえるくらいだから、こっちの音だって響きまくってる
んだろう。そりゃあ、聞かれて嬉しいはずはない。
 納得しかけていると、雨宮がニヤニヤといやらしい笑みを湛えてオレを見た。
「丘君たら、まあ、いらしい〜」
「・・・・・・っ!?」
雨宮に嫌味ったらしく言われて、オレは寝そべる雨宮に襲い掛かった。首に手を回して
締め付けようと馬乗りになったら、その腕を引っ張られて、バランスを崩すと、雨宮の腕
の中にすっぽり納まってしまう。
「そういう意味じゃねえよ!!」
「ああ、そうか。この家のおかげで、セックス中に声出さないようにあえぐっていう特技
身に着けたもんな。声の心配はいらないか」
「何でお前は、そこに限定するんだよ。普通の会話だって、茶飲む音だって、隣の部屋に
誰かいたら、気になるだろう」
「そう?」
「そうだよ、デリカシーの欠片も無い雨宮には分からないだろうけど」
「英国紳士だってびっくりのデリカシーの塊を掴まえて何を言う」
「そりゃあ紳士だって、お前の品の無さには、びっくりして失神しちゃうだろうよ」
「丘は気持ちよくて失神するけどね」
「〜〜〜〜!!」
人の言うことに揚げ足ばっかり取りやがって。
 口では勝てないから、力で勝負・・・・・・と言うわけにもいかず、言い含められたら、むすっと
して睨み返すしかないのだ。
「何々、そんな情熱的に見つめられると困っちゃうんだけど。あ、早くして欲しいって
ことか。丘君やる気満々」
反論する気も失せて、オレはぐたーっと雨宮の胸の上に頭をくっつけた。
「・・・・・・お前、本当はすごく馬鹿だろ」
「T賞取った人間にそんなこと言えるのは丘くらいだよ」
T賞っていうのは、将来有望な新人研究者に送られる日本ではそこそこすごい賞・・・・・・
らしい。雨宮が受賞して初めて知ったくらいだから、どれくらいすごいのかオレもよく
しらないけど。まあ、本当に本当の事を言えば、雨宮は大学だって成績優秀で、オレなんか
が一緒にいるのは周りだってみんな疑問に思ってるだろう。
 そんなオレと雨宮が付き合ってるんだから、世の中っておかしなもんだ。
「オレはお前がどんなに頭よくても、オレなしじゃ生きていけない馬鹿だってよく知って
んだよ」
冗談ぽく言ってやると、雨宮はオレを身体ごとひっくり返して、逆に雨宮に乗っかられた。
それから、耳元に顔を寄せられて
「分かってるじゃん」
と本気で答えてきた。途端、背筋がぞくっとした。
 これだから、雨宮って怖い。この依存は嬉しいと恐怖が混在してる。縛られてるとは
思わないけど、オレにこんなに依存してて、この先、雨宮は真っ当に生きていけるのか
本気で不安になるんだ。
 でも、当の本人はそれが楽しいらしいから、オレも強くは言わないけど。二十歳を超えた
男なんだから、自分の生き方くらい自分で決めるだろう。
 そんなことを考えていると、雨宮がオレの背中を撫で始めた。
「丘」
「なんだよ」
「一年の最後の締めくくりにしよう」
「・・・・・・いいけど、締めくくれるんかよ。年越えるんじゃねえの?」
「強気な発言。年越すまで持つの?」
枕元の時計を見上げて、ムカっとした。お前オレをなんだと思ってる。そこまで早漏じゃ
ねえぞ。
「持つだろ!!ってか、持たせてやる!」
「じゃあ、一年の締めくくりか姫はじめにできるか勝負してみる?」
「勝負する必要ねえだろ」
「自信ないんだ」
「あるけど!そんな雰囲気でセックスするヤツいねえよ」
「いいじゃん、何百回ってしてるうちの一回くらい、そういうのがあっても。時々縛ったり
外でやったりするのと同じだって」
どこが同じなんだ。雨宮のセックスに対する考えっていまいちよくわかんないけど、時々
変わったことするのも、まあそれはそれで嫌いじゃない・・・というか、なんというか・・・。
「・・・まあいっけど・・・」
納得してるあたり、オレも相当馬鹿だ。
 雨宮はオレが大人しくなったところで、オレの唇にちゅうっと大きなキスをしてきた。
試合開始のホイッスルみたいだった。





「んんっ・・・・・・」
雨宮のねっとりと絡みつく舌が、オレの股間をぐんぐん刺激していた。
「止め・・・ちょっと!もっとっ・・・」
「もっと?して欲しいの?」
「ちがっ・・・ンン・・・もっとゆっくりっ!!」
こいつってば、本当に、本気でオレの事年内にイカせるつもりなのか。いつも以上に執拗
に弄られてる気がする。
 年末忙しくて、最近ご無沙汰だったんだ・・・・・・雨宮とセックスするのいつ以来だろう、
なんて思い出そうとしても、雨宮の舌の動きに、思考は直ぐに停止してしまった。
「お願い、雨宮・・・・・・んん・・・」
「・・・・・・何?」
雨宮はオレのペニスから一度口を離すと、今度は手で扱きながらオレを見下ろした。
 オレも雨宮も服なんて殆ど脱いでない。ジャージが半降ろしの状態で、パンツから無理
矢理引き出されたペニスを雨宮は楽しそうに遊んでいた。
 いつ何時家族がやってきてもいいように、と言うのが最初の理由だったんだけど、最近
はそれが一種のプレイみたいになっていて、オレも雨宮も服なんて脱がないでしてる。
 欲望丸出しの、がっつき高校生みたいで嫌なんだけど、寒いし面倒くさいから、まあ
いいかって思えちゃうのも、長年の付き合いなんだよな。惰性が見え隠れするのは、仕方
のないことかもしれない。
 それでも、飽きもせずこうやってセックスしてんだから、オレも雨宮も肝心なところは
ちゃんと繋がってるんだと思う。そういうのを全部ひっくるめて、たどり着く答えは、
幸せなんだけど、そんなことは恥ずかしいから口が裂けても言わない。
「あと10分」
「・・・・・・も、持たせる」
「ホントに?」
「守備交代。お前のもやってやる!」
オレは雨宮の手から抜け出すと、雨宮の上に乗り上げて、無理矢理押し倒した。
「お前がイってしまえばいいんだ!」
パクリ。ジャージをずり下ろして、パンツから剥き出したペニスに躊躇い無くかぶり付く。
「っう」
雨宮の短い溜息が、雨宮だって溜っていたことを窺わせる。その反応が楽しくて、オレは
べちょべちょと涎が雨宮のズボンに垂れることも気にしないで、ひたすらペニスを舐め
まくった。
「・・・・・・気持ちいいね。丘、すごくエロイ。どこで覚えてくるの、そういう技」
雨宮はオレの頭を「いい子いい子」してよく分からないことを褒めた。
「しるかっ」
オレは根元から裏側をべろっと舐めあげて、雨宮をペニス越しに見上げた。
「日増しにエロくなってくから、心配」
「・・・・・・お前がそうさせたんだろ」
「誰にも見せないでね」
「こんな恥ずかしい姿、お前以外に見せられるか!」
「うん」
「・・・・・・こんなの、雨宮だけで十分なんだよ」
その答えに満足したように、雨宮はオレに身体を預けた。雨宮の落としどころを知ってる
けど、それを素直に使えないっていうのはジレンマだ。だけど、オレが甘い言葉をべらべら
吐ける訳が無い。
 滅多に出さないから、時々出てくるその言葉が堪んない、とも雨宮に言われたから、まあ
これでいいのか。見れば雨宮はオレのフェラを気持ちよさそうに受けている。
 ふん。これで、雨宮との勝負に勝ったな。
そう思った瞬間、遠くの部屋から、ガタンと激しく壁に何かがぶつかる音が壁伝いに
響いてきた。
「な、に!?」
思わず手を止めて、雨宮を見る。
 それから、2人見詰め合って、冷静に音の出所を考えてしまった。
「ねえ、丘」
「・・・・・・言うな、お前が考えてること、絶対に口にするな」
この家にいるのは、俺たちと、あとは、寝室に・・・・・・
 うわああ。嫌だ嫌だ!!
オレが頭をぶんぶんと振ると、雨宮は分かってるくせにわざと首をかしげた。
「何のこと?」
「何のことって!!お前の考えてることくらい・・・・・・」
オレと同じだろうが!
 思わず大声で叫ぶと、雨宮がオレの口の前に指を立てた。
「そんな大きな声でしゃべったら、聞こえるんじゃないの?」
「・・・・・・」
聞こえる。・・・・・・そして、今も小さくガタンと聞こえる壁にぶつかる音も聞こえた。
 ああ・・・・・・。
この音の出所は、間違いなく・・・・・・天と父さんが寝てる寝室だ。
「ヤダ、絶対ヤダ!!考えたくも無い!!」
「でも、『夫婦』でしょ?年越しにあの2人がグースカ寝てるなんて思えないけど」
「もういいって!親のセックスなんて想像しただけで萎えるわ!!」
俺は頭をぶんぶん振って、父さんと天の顔を追い出した。
 本当に萎えそうだ。身内のセックスなんて、背筋がむず痒くなる。見たくないし、聞き
たくも無い。
「やっぱり、丘のお父さんが、突っ込まれる方・・・」
雨宮がそこまで言うと、オレは雨宮の顔を枕で押しつぶしてやった。
「そういう事、言うんじゃねえよ、この馬鹿!」
どっちがどっちなんて、想像だってしたくない。なのに、微かな音はまだ響いていて、その
うち声だって聞こえてくるんじゃないかと、オレはビクビクしてしまう。
「丘」
「・・・・・・なんだよ」
雨宮はオレが塞いだ枕をどけると、オレと対座で見詰め合った。雨宮の手がオレの耳の後ろ
を擽るように撫でてくる。
「萎えた?」
「・・・・・・ちょっと」
「じゃあ、燃えるように、俺とのセックスいっぱい想像して」
「そんなの、燃え尽きちゃう・・・・・・って、今のはノリで言っただけだからな!」
「久しぶりに、失神する丘も見てみたいね」
「勘弁してください」
オレが笑うと、雨宮がオレを抱きしめた。
「俺はね、エロくて可愛い丘が好きだよ」
耳元の声は、萎えた気持ちを一気に上昇させてくれた。



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