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はしま道中流離譚―俺とあなたに架ける橋―



夜空に浮かぶ、ミルキーウェイ。
地上に降り立つミルキーウェイ。



 自分の息が荒いのか、板橋の呼吸が熱いのか、分からないくらい二人で溶け合って、お互い
の唇を吸い上げた。
 しっとりした夜の空気が更に湿度を上げる。
板橋の手がベルトを外し、ジッパーを下ろす。ズボンを下ろされると重い枷が外れたみ
たいな開放感があった。
 痛いくらいに勃っているのがわかる。それをパンツの上から、擦り上げられて、思わず
腰を引いてしまった。
「逃げんなよ」
「だって・・・」
だって、なんでこんなに感じてるんだろう。なんでこんなに板橋のことが好きで、なんで
こんなに嬉しいんだろう。
 ただの橋馬鹿オタクだと思ったのに。好きにならないって決めてたのに。
「だって、何」
橋以外のことには、無頓着なくせに、無意識に優しくて、無駄にエロい。
 今だって、その顔で、その手つきで、僕のテンションをどんどん上げまくってる。
「板橋君がっ・・・」
「俺が、何?」
「あっ・・・ぐぅ」
パンツの上から先っぽを潰されて、言葉が詰まった。だめだって、そんなにギュウギュウ
押したら、パンツが湿って冷たくなるってば。
「すげえ、女じゃないのにぐっちょぐちょ」
「やめてよ・・・」
「こんなの、脱いじゃえよ」
ズボンを下ろされた上に、パンツまでずり降ろされて、ものすごくマヌケな格好になった。
足元でズボンとパンツが足枷みたいに繋がって、立ち上がると転びそうになる。
 屋根の柱にもたれかかるように立たされ、板橋はベンチに座ったまま、僕の股間に手を
伸ばす。
 これ、ムチャクチャ恥ずかしいんだけど。
 視界の端には、光の洪水。目を閉じても、目の裏で光が何度もはじけている。
 板橋は、緩く擦って、僕の反応を楽しんでいるらしかった。
「いたばしぃ・・・」
「ぐはは、あんた、いい声するよな。何、どうして欲しい」
どうして、板橋はセックスになると、人格が変わったようになるんだろう。前に抱かれた
時は怒ってるのかと思ってたけど、これ、もしかして素なの?
 むずむずと、腰が動く。
「なんでもいいから、してよ」
「扱いてやってるじゃん」
「もっと!・・・・・・あんまり、焦らさないでよ、僕強くないんだから」
「いきそうになったら、橋の事でも考えとけ」
「何、それ・・・」
板橋の手の力が少しだけ強くなる。息が掛かって、余計に腰が疼く。
「でも、ホントはあんた橋オタクになって、橋想像したら、興奮するようになるっていう
のが、密かな野望」
「・・・・・・萎えることいわないでよ」
橋見て興奮って、板橋はそんなんで、興奮するの?ヘンタイじゃないか、そんなの。
「でもさ、あんたもう、明石大橋見ると、思い出すだろ?」
「えっ・・・うっ」
いきなり強く扱かれて、声が裏返った。
 明石大橋って・・・あそこで抱かれたのか。あそこで、社長よりデカイので貫かれて、頭が
痺れるくらい気持ちよくなって。
「今度、あの橋見て興奮するか確かめてやるよ」
そういう思い出と橋をリンクさせるのやめてよ。条件反射みたいに橋見て興奮するように
なったら、どうするんだ!
「うっ・・・はぅ・・・」
ああ、もう、ダメだってば!

「板橋も、興奮しろ、このやろう」

板橋の肩に手を掛けて、板橋の身体を起こす。伸ばしていた手を無理矢理離して、僕は
板橋の股間めがけてダイブした。
 貪るようにパンツの中からペニスを出して、それにしゃぶりつく。
「うっ」
口に含むと、直ぐにそれは大きくなった。どんどん大きくなって、どこまでデカクなるんだ
ってちょっとびびった。
 デカイ。
ホントにこれが入ってたのか。通りで気持ちイイはずだよな。
「うっ・・・直哉・・・」
頭を掴まれて動きを止められる。気持ちいいのかな。視線を上げると、板橋と目が合った。
 暗闇で板橋の表情なんて殆ど分からないけど、凝視されるような視線が逆に恥ずかしい。
視線が合ったまま、舌を這わすと、板橋は小さく何度も呻いた。



 板橋の指が自分の中をかき混ぜるたびに、板橋の握ったペニスに力が入る。その度お互い
変なうめき声を出して、傍から見れば、間抜けだ。
 大体、セックスなんて他人が見たらマヌケで、こんな恥ずかしいことってない。
っていうか、ここ、外なんだよね。しかも、何時誰がきてもおかしくない夜景スポットで
僕達は、なんてイヤラシイことしてるんだろう。
 男同士のセックスなんて、誰も見たくないよ。ドン引きされるだけならまだしも、通報
でもされたら、どうするんだ。
 そうは思うけど、今更止める気にはなれないし、板橋も全然その気はないみたいだし。
板橋の指が壁を押しのけてもう1本入って来る。入り口の辺りは僕と板橋の2人分の精液
でたぶん溢れかえってるんだろう。
 時々ぐちゅ、ぐちゅっと、音を立てて板橋が楽しそうにかき混ぜている。
「ああっ」
「なあ、夜景見ろよ」
「なっ・・・」
「綺麗だぜ?」
「何、それっ・・・ふっ」
「夜景思い出すと、興奮する身体にしてやりてえ」
「な・・・!?・・・・・はあんっ」
板橋は、突っ込んでいた指を引っこ抜いた。体中の力が一気に抜けて、ベンチの上で項垂
れてしまう。
「こ、この・・・」
板橋の、変態キング!
 項垂れた頭を、持ち上げられて、板橋は容赦なく僕にキスをする。何度も何度もキスした
おかげで、板橋の味もすっかり覚えてしまった。
 後頭部を撫ぜる手、息遣い、全て覚えてしまうくらい、何度も何度もしたい。
唇を離すと、僕は溜まらなくなって、板橋に「お願い」していた。
「もう、入れてよ・・・」


 ねじ込まれていく板橋のペニスに、呼吸を合わせて答える。ベンチに手を着いて、腰を
引っつかまれて、じわじわと板橋が近づいてくる。
 どこまで入ってくるんだって程、内部を圧迫して、板橋は僕の背中に張り付いた。
「ふうっ」
「は、入った、ね・・・」
「動くぜ?」
「・・・うん」
腰をゆっくりと引いたかと思ったら、そこからジェットコースターが落ちるみたいに、一気
に奥まで辿りつく。
「ああっ」
もう一度、同じ動きをされて、支えていた腕が震えた。
「気持ちいいだろ?」
「はっ・・・うん・・・」
「俺も」
きゅう。
 無意識に締め上げて、板橋が、痛い、と怒った。

 腰に手を添えて、腰を動かす。自分が動いてるのか、板橋が動いてるのか、もう自分でも
よく分からない。
「あっ、あっ・・・」
「すげえな、直哉のココ」
腰に置かれた手に力が入る。顔を上げれば、広がるパノラマ夜景。さらにその上には、白く
帯状の天の川さえも見えた。
 綺麗な星、澄み切った空気。絶景の夜景。その中で響く、男同士の獣みたいな声。
 擦られるたび、ソコは熱くなって、またすぐ出したくなる。支えていた右手を自分の
股間に持っていくと、板橋のピッチとあわせるように、自分で扱いた。
「はあっ、ああん・・・」

板橋が腰を抱きかかえるようにして僕を立ち上がらせる。耳元に密着して、板橋は耳を舐め
たり、息を吹きかけて、その度、板橋と繋がっているソコに力が入る。
「うぐっ・・・なあ、直哉?」
「はっ・・・はっ・・・何・・・」
「せっかく、外にいるんだしさ・・・」
「な、何・・・」
「飛ばしあいっこしようぜ」
「はあ?」
板橋の腰の動きが早くなる。もう、こっちも出そうだっていうのに、何いってるんだ!?
「どっちが、遠くまで・・・飛ばせる、か!」
「はあっ、何・・・それ・・・んんっ」
「イったら、飛ばせよ」
何言ってんだー、板橋はー!
 だけど、板橋の腰の動きに刺激されて、文句を言う間もなく、僕は上り詰めていく。ベンチ
より前に歩かされて、だだっ広い大地の上、夜景めがけて僕は射精することになってしまった。
「あっ、もう、イクっ・・・!」
「待って、よ・・・俺も一緒に出すからっ・・・うぐっ・・・」
「ああっ・・・」
ピン、と張り詰めたそこに到達したあと、板橋は僕の中から素早く抜けると隣に並んだ。
 そして、2人して、外にめがけてツレションらなぬ、ツレ射精をしていた。
な、なんて、馬鹿!


「あはは、俺の方が飛んだな」
「君、ちょっと、変態」
「あー、気持ちよかった」
「はあ?」
「気持ちよかっただろ?開放的でさ。車の中って、狭いし、臭いし」
板橋は、そのままベンチに座ると晴れ晴れとした顔で僕に笑いかけていた。
 やっぱり、板橋って意味分かんない・・・・・・





 幸せとむず痒さと、一抹の不安を抱いて眠ったのが、昨日の深夜。恋人みたいに、ぴったり
寄り添って、オデッセイの中で眠った。
 あ、恋人みたいじゃなくて、晴れて恋人になった・・・んだよね?
板橋の汗の臭いなんて、気にしないでべったりくっついて、眠るまでに何度もキスして
眠った。
 夢じゃないといいな、なんて思って。

 だけど、朝目が覚めると、隣にはもう板橋はいなくて、僕はひとり、後部シートの上を
ごろごろ転がっていた。
「うっす、起きた?」
「・・・は、早いね」
「あんたが、遅いの」
板橋は既に運転席で、鼻歌交じりに軽快に車を走らせていた。なんだ、このデ・ジャ・ヴ。
 寝ぼけ眼で、外を見ると、左側に富士山が見えた。
ああ、今度の今度こそ、家に帰るんだ・・・・・・。
「ほら、見ろよ」
板橋が指をさす。
「何?」
「富士川!新富士川橋!」
「はあ・・・」
また、橋か・・・。
富士山ばかりに気を取られていたけど、よく見ればデカイ橋を渡っている。富士川といえば
昨日山梨から帰って来る時、平行流れていたあの川だ。
 河口でこんなにデカくなるのか・・・。
って!
また、橋!
あれ?昨日、僕達、イチャイチャしながら眠ったよね?アオカンなんて恥ずかしいこと
してたよね?
 晴れて恋人になったんだよね?
それが、何?朝起きて開口一番、橋の話?!
昨日の余韻とか、そういうロマンチックのかけらみたいなもんは、君にはないのか!
「富士川ってのは、電気の世界では重要なところなんだぜ?」
「はあ・・・」
「ここで、電源の周波数が60ヘルツから50ヘルツに変わるんだ」
「・・・あ、そう」
「天下分け目は関ヶ原とかいうけど、電気の分け目は富士川ってな。なんで50ヘルツと60
ヘルツを混在しちゃったんだろうな。メンドクサイのに」
板橋は、どうでもいい話をブツブツ呟いて、橋を渡っていく。
 何時もと変わらない風景。板橋の橋語りも絶好調だし、昨日のあれは、夢だったのかな・・・
急に不安になる。

「昨日のなし」

 いつ、そんな風に切り出されるのか、不安でたまらない。なにしろ板橋には前科があるし。
むぎゅっと胸が痛くなる。
 なしとか、なしだよ?

 信号でスピードが落ちた隙に、ウォークスルーをつたって、助手席に移った。
突然後ろから僕が現れたのにびっくりしたのか、板橋はそこでブレーキを強く踏んだ。
「わあっ」
「危ねっ」
フロントガラスに突っ込寸前のところで、板橋に抱きかかえられて、僕も車も停まる。
「何してんだよ、気をつけろよ」
「・・・ごめん」
相変わらず、僕を年上扱いしないこの傍若無人っぷりに、思わず苦笑いで顔を上げる。
もう一言くらい怒られそうだな、そう思ってゴメンと先に謝った。
「っとに、馬鹿だな、あんた」
板橋と視線が合う。

・・・・・・あれ?笑ってる?
 抱きかかえられた手が離れて、顔を撫でる。そして、板橋は、チュッと小さく音を立てて
僕の唇にそれを重ねてきたのだ。
「あ・・・」
「あ?」
驚いて目を見開けば、板橋が不審そうな顔をする。僕は板橋から離れて、助手席に座った。
もう、誰にも渡さなくていい、僕の場所。
「・・・・・・ううん、なんでもない」
「そう。さーてと、そろそろ、家に帰るぜ?」
「うん」
「今回の旅は、いいもの見れたし、いいもの拾ったし」
板橋が笑う。
 僕も、心の中に湧き上がるくすぐったさを閉じ込めて、笑った。


「やーっと、家に帰れるよ!」
神奈川は、目の前に迫っていた。








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