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きょうの料理


 レシピ11:ドルチェ・ドルチェ・ドルチェ―風呂編 



ちゃぷん。頬から落ちた水滴が水面に落ちて、波紋を広げた。
誠史が気を利かせてくれたらしく、綾真は先にバスルームに通された。
「大丈夫になったら呼んで。浴室にリモコンあるから」
とバスルームの前で言われたけれど、準備万端にして誠史を呼ぶというのも恥ずかしい
ものだった。
綾真はとりあえず身体の外側も内側も綺麗にして、湯船に浸かった。
エアコンが効いていたし、自分も身体の内側から発熱していたとは言え、全裸にされて
指先や足先は熱が奪われていた。湯船で体温を取り戻した綾真は心地の良い息を吐いた。
そのままずぶずぶと鼻の下まで湯の中に、自分の思考とともに埋もれた。今まで男同士の
セックスに興味だってなかったし、今からそれをすると思うと恐怖やら甘美やらの気持ち
でどうしていいのかわからなくなるのだ。顔半分が湯の中に沈没して、苦しくなる。綾真
はぷはっと身体を起こした。と、同時に気持ちにキリをつける。考えれば考える程思考の
迷宮に陥ってしまうから、流れに任せるしかない。委ねると決めたのは自分だ。
綾真が誠史を呼び出すと、程なくして誠史もバスルームに現れた。



「入れるかな」
「どうやっても狭いと思います」
浴槽に入ってこようとする誠史に綾真は苦笑いで答えた。
綾真一人ではゆったりと感じる広さだが、長身の誠史と一緒に入ってもくつろげる広さ
ではない。誠史は器用に綾真の後ろに周り、綾真を抱えるように自分も湯船に浸かった。
ぴたりと密着する誠史の身体が綾真の落ち着きをなくす。誠史は綾真の腕や足にお湯を掛け、
ついでに肌の感触を楽しんだ。
「気持ちいい」
綾真は後ろから抱えられている所為で、誠史の表情が読めない。誠史の「気持ちいい」が、
温かいお風呂の感想なのか、綾真の手触りなのか。ただ、耳元で囁かれるたび自分の身体
が蕩けてしまいそうなことは確かだった。
「このまままったりモードに突入も悪くないけど」
「いいんですか」
「君がその方がいいならね」
「……背中、当たってます」
「うん。俺は全然収まってないよ」
誠史は上気した綾真のうなじに吸い付く。ちゅうっと立てた音が浴室に響いた。
「んんっ」
狭い浴槽で身体をくねらせると、背中の誠史のペニスがさらに強く当たった。切れかかっ
ていたスイッチがまたオンになった気がする。綾真は自分の股間の辺が熱くなったのが
わかった。
「俺だって……」
綾真はくるりと身体をひっくり返した。そしてそのまま誠史の唇を奪いにいく。
舌を差し出すと、誠史に思いっきり吸われた。誠史の口の中で舌を絡め合う。
自分だって熱は収まってない。そう告げたくて、綾真は誠史の口の中で舌を動かした。
「ん……」
誠史の手はなめらかに背中を伝い、綾真のお尻を優しく撫でた。ゆっくりと円を描くよう
に双丘を撫でた後、誠史の手に力が入る。誠史の指が段々と綾真の秘部へと近づいて来る
と、綾真は緊張して下半身が硬くなってしまった。
「綾真、力抜いて」
誠史に名前を呼ばれ、キスを繰り返されると少しだけ緊張が解れる。
「誠史、さん……」
「大丈夫」
固く閉ざしていた双丘の中から孔を見つけ出すと、誠史は人差し指で孔の回りを辿った。
「んんっ……」
綾真は反射的に逃げてしまう。誠史はお湯の中で早くも固くなり始めている綾真のペニス
に手を伸ばしてゆるくこすった。
「あっ」
腰を引くと秘部が誠史の指に当たる。前も後ろも逃げられない状態にされ、綾真は助けを
求めるように誠史を見た。
「大丈夫、流血沙汰にならないように、色々と備えはしてあるから」
「流血って……」
綾真は物騒な単語に思わず聞き返そうとして、その後のもっと不気味なオーラを放つセリフ
に背筋をゾクリと震わせた。
「あ、の」
「ん?」
誠史はうっとりとするようなほど優しい顔で、綾真の身体を撫で回している。
綾真は愛撫の隙間で南里の言葉を思い出していた。「お互いの性癖だって知っている」南里
はそう言っていた。ゲイの南里と分かち合えるような誠史の性癖というのは……
「誠史さんは……したこと、あるんですか」
誠史は綾真の言わんとすることを悟った。急に表情が変わったかと思うと、雄のフェロモン
全開にしたような視線で綾真を見つめる。滑り込ませた中指が綾真の孔へと飲み込まれた。
「んっ!!」
「同性相手のセックスはない。……でも、まあ一緒だろうから」
湯船の上でゆっくりと誠史の指が侵入してくる。中指が動く度、お湯が入ってくるようで
綾真は身体をよじった。
「んんっ」
「悪くなさそうだね。ダメな子はここでダメって言うから、綾真は素質あるよ」
「それっ……褒められてるんです……かっ……あっ!」
突然誠史が掻き混ぜていた指を抜いたので、綾真は声を上げてしまった。
「いいね、そういう声、もっと聞きたいな。……おいで」
誠史は立ち上がった。そして湯船から綾真の身体を引き上げると、自分も洗い場に出た。
「さすがにお湯を潤滑油にするには厳しいからね。綾真、ここに手、付いて」
誠史は綾真に浴槽の縁に手をかけさせた。
「誠史さん?」
「ちょっと冷たいけど、すぐあったかくなるよ」
言われてすぐに背中に冷たい感触がきた。振り返るとそのはずみで冷たい感触が下半身へ
と流れていく。液体が双丘のくぼみを伝い、内股をゆっくりと垂れた。
「うん。エロい」
「何ですか、これっ」
「潤滑材」
誠史に言われて綾真は振り返った。見れば誠史がチューブから透明な液体を綾真に向かって
垂らしているところだった。
綾真が呆然としている間に、誠史はそれを手に絡めて綾真のペニスにこすりつけた。ぬる
ぬるとした感触に力が抜ける。浴槽の縁に付いた手で身体を支え、なんとか起立した。
誠史はぬめぬめになったペニスに力を篭めた。先ほどよりもきつい追い上げに綾真は我慢
していた声があがった。
「ああっ」
綾真が腰を引くと、誠史は綾真の秘孔を反対の手で撫でる。孔の回りをジェルで満たし
人差し指で優しく押さえた。
「あ、あっ」
気持ちいいのか悪いのか、区別がつかなかった。ただ、先ほどよりもスムーズに侵入して
きた指が、ぐるんぐるんと綾真の中をかき混ぜ、綾真の理性を揺さぶっていった。
「いいかんじ。力抜いて。もう一本いけそうだよ」
中指が孔の回りを押している。隙さえあれば今にも侵入してきそうな中指に綾真は首を
振って拒否をした。
「無理……ですっ」
「大丈夫。俺の事、信じられない?」
「でも……ああっ」
否定していたはずなのに、あっさりと二本目を咥え込んで、綾真は身体を硬直させた。
「そんなに力入れたら痛くなるよ。大丈夫」
誠史は先ほどから何度も大丈夫を繰り返す。そう言われる度、魔法にかかったかのように
綾真は誠史の行動を受け入れてしまっていた。
誠史はゆっくりと、それから加速を付けて綾真の中を捏ねくりまわした。指二本を根元まで
咥え込んでいた綾真は自分の身体の変化に驚いた。違和感しかなかったはずの誠史の指が
ぐりんと中で折り曲げられた瞬間「ああっん!」と声を上げてしまったのだ。
「へえ。これ、前立腺……やっぱり違うもんだ」
「や、やっ……なに、これ……んんっ」
誠史は妙に感心して綾真の中を弄ぶ。綾真が立っていられなくなると、誠史は膝をつかせた。
曲がったままの指が先程から的確に綾真のいいところを弄んでいる。同時にペニスへの刺激
も施され、綾真は軽いパニックになっていた。
「ああっ、やだ!誠史、さん……もう、や、だ」
「これ、気持ちいいっていうんだよ。覚えて」
「無理っ……ああっ」
「じゃあ、俺の入れる?」
「ええっ?」
綾真の声が驚いてひっくり返った。この圧迫感はまだ序の口だというのだ。見れば誠史の
ペニスも上向きに反り上がっている。
誠史は入れていた二本の指を一気に抜き去った。
「ああああっ」
「綾真の中、とろとろ。早く、入りたい。綾真と一つになりたい」
卑猥な言葉を耳元で囁かれ、かき混ぜられていた二本の指を見せ付けられる。
「は、恥ずかしいこと、しないでくださいっ」
綾真は目をそらした。誠史は素早くゴムを取り付けるとピクピクしている孔の回りに自分
のペニスをこすりつけた。
「あっ……ああっ」
指とは違う太さの物体に綾真の腰が逃げようともがく。誠史は綾真を後ろから優しく抱き
しめた。
「怖がらないで。大丈夫、おいで」
暗示だ。自分は誠史の言葉のマジックに掛かってしまったのだ。大丈夫、そう言われると
自分の思考が止まってしまう。そして誠史の言う通りに動いてしまうのだ。ずっとずっと
耳元で囁かれ続け、綾真は苦痛を飛び越えて誠史を受け入れようとしていた。
さほど広くない洗い場で二人の男が身体を曲げて繋がろうとしている。曇った鏡の向こう
に誰の顔かと思うほど欲情した自分が写っていた。
綾真は浴槽の縁に手を付かされ、腰を高く上げられる。背中にまたジェルの冷たさを感じて
んっと声が出た。
誠史は丹念にジェルで綾真の秘孔や自分のペニスを滑らかにし、ゆっくりとその距離を縮める。
ペニスの先が当たると、綾真はひくっと腰を動かしたが、誠史はがっしり腰を掴んで綾真
を逃がさなかった。
「入れるよ」
「ああっ……!!」
先ほどとは比にならない程の痛みと圧迫感が来た。支えている腕が震え、身体中の血の気
が引いていく。
「綾真、力抜いて。大丈夫だから」
「ううっ……無理……こんなの……」
「大丈夫。綾真、大丈夫」
ゆっくりとだが、確実に綾真の中に侵入してくる異物に、綾真は苦しくて気が遠のきそう
になる。誠史は身体を密着させると、後ろから綾真を抱きしめた。耳元へと唇を這わせ
バリトンボイスで囁く。
「大丈夫。綾真、愛してる」
「ああ……誠史さんっ」
「綾真」
甘い言葉に身体が蕩けそうだ。名前を呼ぶ声も、愛のセリフも泣きたいほど胸が熱くなる。
身体を引き裂かれそうな痛みも融和してくれる気がした。
誠史が更に身体を進めて、完全に根元まで飲み込むと、誠史は大きな息を吐いた。
「しばらくこうしてて」
「はぁ……はぁ……なんか、変な感じ……」
「そのうち気持ちよくなってくるよ。ほら、綾真のココ、全然萎えてないでしょ?」
指摘されて自分の股間を見ると、真上に向かって反り上がっていた。先端には蜜がぷくり
と溢れ出して、こんなことをされても萎えない自分の身体に驚いた。
二人の呼吸が浴室に木霊している。綾真の頬から落ちた汗が湯船に波紋を作った。ぽたり
ぽたりと音を鳴らしてリズムを打つ。二人は言葉を紡ぐことも忘れた。
後ろから抱きかかえられ、くっついているだけで幸福が湧き上がってくるみたいだ。
「やっと……繋がれた」
誠史もこの幸福を噛み締めているのだろう。うっとりとした声に綾真も頷いた。





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